どんなに出来の悪い人材も見捨てるべきではない、という「ダメ社員擁護論」は、理屈としてはよく分かる。北海道大学の長谷川英祐・准教授による「勤勉なアリ」と「怠け者のアリ」の研究では、「普段サボっているアリは働き者の仲間が疲れて休むとその代わりに働き、卵の世話をする」と結論づけられた。
これが「短期的には無用と見える個体が、長期的には実に有用」という根拠になっている。だが、現実としては「ローパー社員」は問題になっている。ローパー社員とは、「ローパフォーマー社員」の略で、周囲の期待通りに働かず、企業に利益をもたらさないダメ社員のこと。普通に働かないローパー社員も問題だが、さらに悪質なのが、「当たり屋ローパー」だ。
中堅商社の50代採用担当者がため息をつく。
「中途入社した社員の業務中の態度が悪く、注意しても一向に収まらなかった。業績も悪く、職場の雰囲気も悪くなったので、『素行不良で解雇する』と告げると、その社員は労働基準監督署に駆け込み、『不当解雇だ』と訴えました」
想定外の展開に会社は慌てた。この社員の解雇は法令上、強引なところもあり、和解に持ち込まれて3か月分の給料を支払って解雇することで決着した。
「後々、弁護士を使って調べると、彼は前の会社でもわざと素行不良で解雇されるように仕向け、和解金をぶんどっていたようです。会社としては『当たり屋』にやられたようなものです」(前出・採用担当者)
困ったことにこの騒動から「学習」する社員がいた。
「労働者の権利が法的に守られることに気づいた一部の社員が平気で仕事をサボリだした。同僚が注意しても、『会社は社員をクビにできないから、必要以上に働くのは損だ』としたり顔でいう。当たり屋の“模倣犯”に苦しんでいます」(同前)
増殖するローパー社員はどのようなタイプが多いのか。あるコンサルタントは「目立つのはオレオレタイプ」と指摘する。
「仕事力が低く、先の展望もないのに『オレはできる』との思い込みだけは激しい。失敗はすべて他人や環境のせいにする。『オレはやるぜ』というから『何を』と聞くと『何かを』というタイプです。『会社が悪い』が口癖で自分のことを認めない人を徹底的に攻撃する」
※週刊ポスト2016年3月11日号