【名古屋きしめん漫遊記】台湾、味噌、カレー、鉄板焼きまで!アレンジきしめんに大注目せよ

f:id:Meshi2_Writer:20151007185722j:plain

名古屋には美味しいきしめんを食べさせてくれる店は沢山あるが、それらはきしめんの専門店ではない。うどんやそば、ラーメンもあり、カツ丼や親子丼などの丼物もある。中にはカレーライスやオムライスまで用意している店もある。東海エリアで言うところの、いわゆる「麺類食堂」ってやつだ。

 

どの店も吉本新喜劇的な雰囲気で、足繁く通う常連客に支えられている感がたっぷり。とはいえ、未来永劫にわたって常連客が店に来てくれるという保証はどこにもない。やたらとメニューが多いのも客離れを防ぐためのものなのだ。また、「大将、カレーライスはないの?」という常連客からのムチャ振りともいえるリクエストに応え続けているうちにメニューが増えたという話も。って、どこまで人がイイんだ。

 

ま、お店の側に立って考えてみれば、本来の専門分野である麺類、もっといえば「きしめん」以外のメニューが増えていくのはまだ理解できる。客がいろんなメニューに浮気しても最終的には麺類に戻ってくればイイのだ。しかし、しかしだ。いくらなんでもきしめん自体にまで独創的なアレンジをくわえてしまうのは禁じ手ではなかろうか。

 

実際、これまできしめんをPRしようと、多くの店がさまざまなアレンジメニューを作ったものの、大した効果はなかった。それどころか、きしめんそのものの存在感までも危ぶまれる結果になった。って、それは言いすぎか。とにかく、きしめんのアレンジメニューは名古屋にとって鬼門なのだ。フードライターとして、私はずっとそう思っていた。

 

しかし、きしめんを食べ歩く中でアレンジメニューも悪くないと思いはじめている自分がいる。いや、それどころか、むしろ全肯定しちゃってもいいんじゃね?とさえも。前置きがずいぶんと長くなってしまったが、今回の「きしめん漫遊記」は、アレンジメニューが豊富に揃う2つの名店を紹介しよう。

 

幅広&もっちり食感な麺が話題!『手打めん処 三朝』

まず紹介するのは、名古屋市千種区にある『手打めん処 三朝』。

f:id:Meshi2_Writer:20151007185721j:plain

ここは昭和6年創業の由緒正しい麺類食堂である。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185716j:plain

12年ほど前に店舗を改装するまでは出前も行っていた、地元密着型の店だ。今では評判を聞きつけて遠方から訪れる客も多い。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185715j:plain

三代目店主の佐枝慎一さんはわずか8歳から店を手伝っていた生粋の職人。

「学校から帰ると、よく近所の雀荘へ出前に行かされたよ。当然、友達と遊ぶこともゆるされなかった。まぁ、ジュースをおごってもらったりとそれなりに楽しいこともあったんだけどさ。21歳頃には製麺やダシの取り方、調理法をすべてマスターしていたよ」とか。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185722j:plain

アレンジメニューを紹介する前にまずは定番中の定番「きしめん」(500円)を。ダシは名古屋らしく、ムロアジとソウダガツオを毎朝削って、ブレンドしている。具材も揚げとカマボコ、ネギ、青物(カイワレ大根)と、これまた定番。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185724j:plain

特筆すべきは、麺。きしめんは厚さ1ミリ、幅7~8ミリが一般的だが、ここのは3センチ以上と、かなり幅広。実はこの幅広麺、きしめんマニアの間ではちょっとしたブームになっていて、これを目当てに来店する客も珍しくはない。

 

幅広麺の味をレポートする前に声を大にして言いたいことがある。世間でさぬきうどんが注目されてから、麺に、それこそラーメンにまでコシを求める“コシ至上主義”みたいな傾向がある。それはどうなんだろうと。コシは麺の美味しさを決める1つの条件にしかすぎないのだ。 

 

さぬきうどんを意識してか、コシの強いきしめんを出す店もあるが、きしめんの美味しさは適度なコシともっちりとした弾力だと思う。あ、これは手打ち麺の場合だ。冷凍麺や茹で置きのテロテロとした食感も旨いっちゃぁ旨いのだが。

 

『手打めん処 三朝』の幅広麺は、まさにもっちり食感。噛むごとに小麦の風味がふんわりと広がる。コクのあるつゆとも相性は抜群。こりゃ旨い!ノーマルなきしめんでこのポテンシャルの高さ!アレンジメニューも期待ができるってもんだ。

 

では、ここからは『手打めん処 三朝』が繰り出すアレンジメニューを紹介しよう。まずは軽~いジャブを一発。

f:id:Meshi2_Writer:20151007185725j:plain

▲白いあんかけ 志の田きしめん(700円)

 

えっ?ごくフツーのメニューに見えるって!? 名古屋人なら「ええっ!?マジっすか?」みたいな反応になると思う。いや、なってほしい(笑)。というのも、きしめんにしろ、うどんにしろ通常「あんかけ」のつゆは「かけ」に使う黒っぽい醤油(たまり)を用いるのである。それを白醤油で作ったのがこのメニューなのだ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185727j:plain

白醤油は、料亭や割烹の椀物にも使われる高級品で、実は愛知県三河地方の特産品。天ぷらや卵とじ、鶏南蛮などにも用いられる上質なものだ。2種類の醤油を使い分ける麺なんてのは、全国でもきしめんくらいであろう。

 

また「志の田きしめん」の「志の田」は、刻んだ油揚げと長ネギ、カマボコをのせたシンプルなきしめんのことで、名古屋とその周辺でしか見られない地域限定メニュー。上品な味わいの白醤油が染みた油揚げや長ネギが旨いんだな、これが。この「白いあんかけ」は、さらに昆布をくわえて旨みをプラス。

 

「ごま油を少し入れると風味が良くなるよ」(佐枝さん)とか。うん、香りが立ってムチャクチャ旨い!

 

ではお次。アレンジメニューの中でひときわ異彩を放っていたのが、この「台湾まぜきしめん」(850円)。

f:id:Meshi2_Writer:20151007185729j:plain

ビジュアルは名古屋名物の「台湾まぜそば」そのものだが、よく見ると、天かすやカマボコといった具材もあり、きしめんのアレンジであることがわかる。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185730j:plain

こちらのきしめんは幅広ではなく、佐枝さんが「昭和きしめん」と名付けた幅狭タイプ。「台湾まぜそば」と同様に、よく混ぜて食べるのがおすすめ。醤油ベースのタレには豆板醤が入っていて、ピリ辛味が食欲をそそられる。手打ちならではのもっちりとした麺にタレと具材の旨みが絶妙に絡み合う。これは旨いっ!

 

アレンジメニュー、もういっちょいってみよう。豚ホルモンを赤味噌で煮込んだ「どて煮」ときしめん、2つの名古屋めしをかけ合わせた「どてきし」(850円)。

f:id:Meshi2_Writer:20151007185731j:plain

「前に味噌味のきしめんを試作したんだけど、味が薄くていまいちインパクトに欠けるものだった。そこで濃厚な味を追い求めるうちにどて煮に行き着いたんだよ」(佐枝さん)。濃厚さを示すメーターがあるとしたら、どて煮はフルスロットル。薄味からの振り幅が大きすぎるように思えるが、中途半端な味では名古屋人は納得しないことを佐枝さんはよくわかっているのだ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007185733j:plain

しかも、どて煮をさらに煮詰めて、全体にとろみを付けてある。やや辛口だが、卵黄がマイルドな口当たりにさせてくれるのだ。これも「台湾まぜきしめん」のように、よくかき混ぜて、と……。おおっ!麺全体にどて煮の味噌ダレが馴染んで、これまた名古屋人にとってはたまらないビジュアルだ。豚ホルモンの旨みと味噌のコクが麺に染みて、箸が止まらなくなる!この濃厚な味わいはキンキンに冷えたビールにもよく合う。きしめんが、ここまで酒のツマミに化けるとは。

 

店舗情報

手打めん処 三朝

電話番号:052-731-4283
住所:愛知名古屋市千種区千種1-4-25
営業時間:11:00~15:00、17:30~20:30
定休日:水曜

 

『めん類と食事処 朝日屋』の名物、華やかな「ちらしきしめん」 

さて、次は名古屋市中村区の『めん類と食事処 朝日屋』。

f:id:Meshi2_Writer:20151007190218j:plain

ここも創業昭和9年と歴史ある店だ。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007190242j:plain

地元の人々はもちろん、名古屋駅太閤通り口から徒歩約7分という場所柄、出張中のサラリーマンや観光客もよく訪れるという。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007190254j:plain

腕を振るうのは、三代目店主の堀場剛さん。アレンジメニューを始めたのは、7、8年前に先代店主である父親が亡くなり、店を継いでから。

「先代は職人気質でしたからねぇ。きしめんをアレンジするなんて絶対に許さなかっただろうね。今もメニューにあるけど、『ちらしきしめん』がギリギリだったのでは」

 

これが、その「ちらしきしめん」(980円)。

f:id:Meshi2_Writer:20151007190316j:plain

昭和49年にメニューにくわえられたそうで、天ぷらとだし巻き卵、カマボコ、椎茸などがちらし寿司のように美しく盛りつけられている。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007190346j:plain

ノーマルな「きしめん」(430円)と比べると、その豪華さは一目瞭然。あ、もちろん「きしめん」もムロアジで丁寧に取ったダシを使った名古屋らしい味。具材もカマボコと油揚げ、ホウレン草の定番中の定番だ。しかも、麺を幅広と幅狭から選べるのも大事なポイント。

 

「かけの『きしめん』に80円を追加すると、『お好みきしめん』になるんだ。こちらも豪華だよ」(堀場さん)

f:id:Meshi2_Writer:20151007190407j:plain

これが「お好みきしめん」(510円)。生卵とネギ、天かす、鰹節、海苔と、メニュー名の通り、お好み焼きの具材が付く。食べながら少しずつくわえて味の変化を楽しむのがオススメだ。

 

冷たいカレー×きしめん他、異色メニュー続々!

正直、ここまではやや大人しめのアレンジメニューだったが、『朝日屋』の実力はこんなものではない! まずは、堀場さんが修業時代に考案した一品を紹介しよう。

f:id:Meshi2_Writer:20151007190430j:plain

冷たいきしめんの上に食べ応えのある大ぶりな味噌かつをのせた「味噌かつころきしめん」(1030円)。

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007190444j:plain

「修業先で味噌かつ丼が評判だったんだよ。それで、ご飯の代わりにきしめんにしても旨いんじゃないかなって。味噌ダレは八丁味噌をベースにした自家製。ハーブやショウガをくわえてさっぱりとした口当たりになってるよ」(堀場さん)

 

次に紹介するのは、「冷たい名古屋カレー麺」(820円)。

f:id:Meshi2_Writer:20151007190551j:plain

このメニューが生まれたのは、「冷たいカレーうどんはないの?」という客のひと言だった。カレーうどんは麺を冷やすことができても、つゆを冷やすと辛みも香りも飛んでしまう上に油脂が固まってしまうのだ。そのため、客のリクエストに応えることができなかった。

「そりゃ悔しかったよ。数日経ったある日、テレビで冷たいカレーライスを紹介していたんだ。それを参考にやってみようと」(堀場さん)

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007190332j:plain

味のベースとなるのは従来通り、ムロアジ。数種類のスパイスをブレンドし、ほのかな酸味と甘みを出すために完熟トマトのペーストをくわえた。隠し味には三河産の白醤油も使い、コクをプラス。味は日本のカレーよりもむしろインドカレーっぽい。冷たいのに身体が熱くなってくるから不思議。辛みと酸味、甘みが複雑に絡み合う、クセになる味だ。

 

アレンジメニューの大トリを務めるのは、「焼き太きしめん」(720円)。

f:id:Meshi2_Writer:20151007190621j:plain

名古屋には「鉄板ナポリタン」や「鉄板焼きそば」など熱々の鉄板で食べるメニューがやたらと多いが、これは完全にオリジナル。

「焼きうどんはありがちだけど、焼ききしめんは珍しいでしょ?悩んだのは味付けだね。ケチャップやソース、カレーで試したんだけど、納得がいかなかったんだよね」(堀場さん)

 

f:id:Meshi2_Writer:20151007190623j:plain

味のヒントは実に身近なところにあった。ある日、家族で焼肉を食べていたときのこと。肉を食べ終わった後の鉄板で焼きうどんを作ったところ、これが思いのほか旨かったのだ。それがきっかけとなり、焼ききしめんの味付けは焼肉のタレに決まった。

 

タレは2種類の醤油とニンニク、唐辛子などを絶妙に配合した自家製。幅広のきしめんや具材の豚肉や玉ネギ、ピーマンにタレがしっかりと染みていて、頬張るごとにパンチのあるタレの味と肉、野菜の旨みがジュワッとあふれ出す。着目すべきは麺の下。溶き卵が流してあり、麺に絡めるとマイルドな味わいになるのだ。スパイシーな味付けなので当然ご飯にも合うが、ビールを片手に楽しみたい。

 

店舗情報

めん類と食事処 朝日屋

電話番号:052-451-5930
住所:愛知名古屋市中村区則武1-18-16
営業時間:11:00~16:00、17:00~21:00(20:50L.O.)
定休日:日曜

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は2015年10月のものです。

 

書いた人:永谷正樹

永谷正樹

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに写真と記事を提供。最近は「きしめん」の魅力にハマり、ほぼ毎日食べ歩いている。

過去記事も読む

トップに戻る