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井村幸治
2015年12月7日 (月)

大阪府の「民泊」条例、マンションの一室を貸し出せる?

大阪府の「民泊」条例、マンションの一室を貸し出せる?
写真:iStock / thinkstock
10月27日、全国初となる「民泊条例」が大阪府議会で可決された。空き家・空き部屋の活用を考える人や、ホテル探しに困っている外国人観光客にとって朗報となるのか? 条例によって何が変わるのかを考えてみよう。 

急速に拡大する“民泊マーケット“に、初めての条例可決

外国人観光客の急増とインターネットを使う仲介サイト(Airbnbなど)の普及によって、マンションの空室などを旅行者に貸し出す「民泊」が急速に広がっている。“シェアリングエコノミー“とも呼ばれる新しいサービス手法は、昨今の日本社会が抱える「空き家」と「ホテル不足」という課題の解決策としても期待が寄せられている。

しかし、報酬を得て宿泊施設を提供することは旅館業法の規制対象となり、無認可営業は違法だ。京都では、実際に旅館業法違反で摘発されるケースも出ている。また騒音やゴミ出しマナーを巡るトラブルや治安の面から、周辺住民には民泊に対して不安を抱く人もいるという。

こうした中、大阪府が可決した条例案は「国家戦略特区内で、一定の要件を満たす外国人向けの施設は、知事の認定によって旅館業法の適用を除外する」というもの。つまり、民泊のルールを決め、条件を満たした施設には“お墨付き”を与えようというものだ。大阪府では来春からの施行を目指して詳細の検討が始まった。

筆者も大阪府内で家族と暮らしているので「自宅マンションの一室を活用して民泊に参入してみようか」と思い、大阪府から資料を取り寄せてみたのだが……。

自宅マンションの一室で民泊事業のお墨付きを受けるのは難しい……

結論から言うと、我が家に外国人を泊めてもいいというお墨付きをもらうことは難しそうだ。

「大阪府の外国人滞在施設経営事業に関する条例」の主要ポイント
■滞在者と賃貸借契約(定期借家契約)を結ぶ
■居室の要件は床面積25m2以上、施錠ができバス・トイレ・キッチンを各居室に装備するなどの規定
■最低滞在日数は6泊7日以上
■滞在者名簿を義務化し旅券番号などを記載、滞在者と対面するなどして本人確認を行う
■行政が立ち入り調査の権限を持つ
■独自の保健所を持つ大阪市、堺市、高槻市、東大阪市、豊中市、枚方市は除く

【画像1】色を付けているのが今回の条例対象エリア。大阪の中心部は対象外となる(筆者作成)

【画像1】色を付けているのが今回の条例対象エリア。大阪の中心部は対象外となる(筆者作成)


認可を受けるためには、まず居室要件のハードルが高い。専用のバス・トイレが付き、25m2以上で鍵付きの独立した居室を持つファミリーマンションはほとんどない。3LDKのマンション全部なら対象となるが、一部の部屋だけでは認可されないのだ。所轄する大阪府政策企画部・健康医療部によると「ワンルームなどマンションの一室を宿泊施設とするケースを中心に想定しています」とのこと。早くも挫折、残念だ。

その他にも、6泊7日以上という最低滞在日数も、利用者が限定されることになりそう。また、旅行客に人気のある大阪市など6市が条例の対象外という大きな課題もある。除外された各市は、今度それぞれの自治体での条例制定が必要となる。そもそも、旅館業法の適用除外を想定した国家戦略特区は関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)と東京都大田区の一部が指定されているのみ。

では、拡大する民泊マーケットの中で、条例によってお墨付きを与えられるのはどんなケースなのだろうか?

賃貸マンションオーナーなどが“お墨付き”の対象となりそう

大阪の民泊マーケットの実態について、民泊事業の運営代行を行っているGLIマネージメント株式会社代表取締役の中森絵理さんに伺った。

「シェアリングビジネスとして注目を浴び、大阪でも民泊事業が増えてきたのはこの1年あまりのこと。大阪のAirbnb登録件数は、1年間で6倍以上の約5000件へと急増しました。自宅の一室を貸す方から、複数の不動産を持つ方まで多様なオーナーさんがいますが、条例の対象となるのはその中の一部になりそうです」とのこと。

民泊事業を考えるオーナーには、ホームステイ感覚で自宅の一部屋に旅行者を泊めて交流も楽しみたいという人から、空室の有効活用を考える賃貸マンションオーナーまでさまざまだ。しかし、居室要件や受け入れ体制の整備などを考えると、今回の「民泊条例」によってお墨付きが与えられるのは、「事業」として民泊を行うケースが中心になると思われる。民泊施設登録の最も多い大阪市内が対象外という影響も大きい。

【図1】民泊条例によって“お墨付き”を得られるのは一部のオーナーに留まりそう(筆者作成)

【図1】民泊条例によって“お墨付き”を得られるのは一部のオーナーに留まりそう(筆者作成)

では、民泊条例は民泊マーケットにどんな影響を及ぼすのだろうか?
「オーナーさんには条例のご案内をしていますが、実際の影響は条例運用が始まってみないと分からないというのが正直なところですね。ただ対象エリアや滞在日数が限定されていますので、外国人観光客のすべてのニーズには応えられないと思います。この条例が最終形ということではなく、貸し手、借り手、住民や世間の三方良しとなるようなルールづくりを、参加者全員で今後も進めていくことが大切だと思います」と中森さん。

貸し手、借り手、世間の「三方良し」の民泊マーケットに

「三方良し」とは近江商人の心得を説いた言葉で、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」のこと。売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるという意味だ。

遊休不動産をシェアして活用していくという新しいビジネスには、既存の法律改正や対応するルールづくりも追いついていないのが実情だろう。海外でも国や都市によってそれぞれのルールづくりが進められている最中だ。例えばサンフランシスコでは短期滞在税の課税や損害賠償保険加入を義務づけることで、シェアリングビジネスが合法的に運用されているようだ。政府でも「民泊サービスのあり方に関する検討会」によって有識者を交えた議論を始めており、来夏〜秋の取りまとめを目指している。

新たにつくったルールが現実に即していなくて旅行者の不満を招くようでは「買い手良し」とはならないし、周辺の住民や競合となるホテル業界が疲弊するようでは「世間良し」とならない。海外の事例なども参考にしながら、日本の社会にふさわしい「三方良し」の民泊マーケットがつくられていくことを期待したい。

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