近い将来発生する確率が高まっている、南海トラフ沿いの巨大地震。超高層建築物が多く立つ三大都市圏は、柔らかな地盤の堆積層が広がっているため、長周期地震動が起こりやすく長く続くとされている。
そこで内閣府では、超高層建築物に対する長周期地震動の影響を推計した。超高層建築物の地震の揺れは、低層階よりも高層階のほうが大きくなることから、超高層建築物の最上階の揺れについても推計している。
なお、南海トラフ沿いの巨大地震対策とは別に、首都圏直下地震対策として「相模トラフ」沿いの巨大地震対策も検討が行われているが、長周期地震動の推計については双方に共通する課題のため、共同で検討が行われており、今回は南海トラフ沿いで想定される巨大地震についての検討結果が取りまとめられている。
報告書では、揺れについて、最大加速度(家具の転倒や人の行動難度の参考指標となる)と最大変位(固定されていないキャスター付きの家具類等が室内を移動する距離や室内にいる人が感じる揺れの大きさの参考指標となる)を推計しているが、ここでは超高層マンションについて見ていこう。
「超高層建築物の固有周期と建物の高さ・階数の関係」を見ると、日本のいわゆる超高層マンションと呼ばれる60m~200mの高さの鉄筋コンクリート造りは、固有周期はおおむね1秒~3秒に該当するようだ。そこで固有周期2秒と3秒の図(画像2と3)を見ると、最大加速度は三大都市圏の広い範囲で 250cm/s2以上、最大変位は三大都市圏の沿岸部を中心とする地域において50cm~200cm 程度が推計されている。
危険性でこの値を見ると、背の高い家具は広い範囲で倒壊する可能性が高く、特に中部圏・近畿圏の沿岸部などでは背の低い家具であっても転倒を引き起こす可能性が高いことになる。また、キャスター付きの滑りやすい家具類などは、100㎝の変位で100㎝程度、往復で200㎝程度あるいはそれ以上移動することになり、危険な凶器となりかねないという。
こうした揺れはあくまで推計値で、実際のマンションの構造や居住する階数などによって、それぞれ違いがある点には留意が必要だ。
この報告書を受けて国土交通省では、超高層建築物を新築する場合と既存の超高層建築物について、以下のような対策案を取りまとめた。
○超高層建築物等を建築する場合への対策
・南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動を考慮した設計用地震動による構造計算
(免震建築物や鉄骨造建築物については、長時間の繰り返しの累積変形による影響を考慮)
・家具等の転倒防止対策に対する設計上の措置
○既存の超高層建築物等への対策
・超高層建築物、大臣認定を受けた免震建築物のうち、南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動の影響が大きいものについて、再検証を行うことが望ましい旨、また、必要に応じて改修等を行うことが望ましい旨を周知
・マンションを含む区分所有建物である一定の対象建築物については、長周期地震動対策に関する詳細診断、耐震化計画の策定、制震改修等に関する事業について、国の支援制度(耐震対策緊急促進事業)の活用が可能
国土交通省では、この対策案について2月29日まで意見募集を行い、それを踏まえて対策を定める予定となっている。
なお、今回の推計はあくまで南海トラフ沿い巨大地震に対するもので、首都圏では相模トラフ沿いの巨大地震のほうが影響は大きいと想定されているので、危険性は常に認識しておいたほうがよいだろう。
東日本大震災では、超高層ビルが大きくゆっくり揺れる長周期地震動が注目されたが、商業用の超高層ビルの中には、揺れを抑える装置を取り付けるなどの改修をした事例もある。既存の超高層マンションでも、管理組合で再検証を検討するとともに、家具の固定や逃げ場の確保など、家庭でも危険性を下げる努力を怠らないようにしてほしいものだ。