スポーツ

紅白越えも遂げた大晦日の格闘技がテレビから姿を消した理由

 大晦日のテレビ番組といえば、NHKの紅白歌合戦を中心に、民放各局はそれぞれ工夫をこらしている。今年は、日本テレビが「絶対に笑ってはいけない熱血教師24時!」、フジテレビ「アイアンシェフ大晦日生決戦SP」、TBSではビートたけしが総合司会をつとめる「大晦日スポーツ祭り! KYOKUGEN 2012」、テレビ朝日は深夜番組「お願い! ランキング」の特番、テレビ東京はボクシング内山高志選手のWBA世界S・フェザー級王座統一戦など三つの世界戦を放送する。

 いまや大晦日のテレビ欄はバラエティ番組が中心だが、つい数年前までは、豪華な対戦カードがそろった格闘技観戦がお茶の間で楽しめる日だった。中継数がピークだった2003年には、日本テレビで「INOKI BOM-BA-YE(猪木祭り)」、フジテレビで「PRIDE 男祭り 2003」、TBSの「K-1 PREMIUM 2003 Dynamite!!」と3局が格闘技を放映していた。

 そのうち、TBSで放送された曙のデビュー戦は、瞬間視聴率が紅白歌合戦を4分間上回る史上初の快挙を成し遂げた。2004年の正月は、曙の巨体がリングに倒れた光景について語り合った人も多いだろう。

 ところが、2010年の大晦日にTBSが「Dynamite!!」を放映したのを最後に、いまや大晦日に総合格闘技を地上波で見ることはできなくなっている。

 振り返ると、民放3局で総合格闘技を放映した2003年には、格闘技業界の足もとはぐらつき始めていた。

 当時、PRIDE王者だったヒョードルなど有名選手の出場をめぐって、猪木祭りとPRIDEは対立していた。2003年始めにPRIDEを運営していたDSEの森下直人社長が亡くなり、K-1を立ち上げ格闘技プロデューサーとして手腕を振るっていた石井和義氏が2月に法人税法違反容疑で逮捕されて表舞台から退いていたため、格闘技業界が流動化し始めていたことも対立に拍車をかけていた。

 魅力的な対戦カードを組めないまま猪木祭りは2003年12月31日を迎えた。大会運営自体が混乱を極めており、試合の開始と終了を知らせる“ゴング”がないことに気づいて、直前に慌てて近くのボクシングジムへ借りに行くほどだったという。その結果、裏番組で曙がデビュー戦で紅白超えを遂げたにもかかわらず、猪木祭りは5%しか視聴率を獲得できずに終わった。

 それから数年、猪木祭りの主催会社を中心として、選手のファイトマネー不払いや、放映した日本テレビとの契約をめぐる複数の訴訟が続いた。まだ訴訟が終わらぬ2006年2月には、PRIDE王者だったヒョードルの出場調整に便宜をはかったと、猪木祭り主催会社社長から約2億円を脅し取ろうとした恐喝未遂で指定暴力団山口組系暴力団幹部ら3人が逮捕される事件も起きた。

 同じ年の6月、フジテレビがPRIDEを運営するDSEとの放映契約を解除したことで総合格闘技は業界として縮小せざるをえなくなった。資金繰りが苦しくなったPRIDEが、翌2007年に米国のUFCに買収され、活動を停止したのだ。

 なぜ、フジテレビはPRIDEとの契約を解除したのか。

「フジテレビは理由を明言しませんでしたが、暴力団排除条例が各地で制定されるなか、会社としてコンプライアンスを無視できなかったのでしょう。週刊誌報道だけでなく、関連で逮捕者が出るようでは、東京都が新しく制定する条例に違反する可能性があった」(業界関係者)

 その後、魔裟斗と山本KID徳郁の試合で視聴率20.1%を記録するなど、唯一、大晦日の格闘技中継を続けてきたTBSも、2010年の視聴率が10%を下回ったのをきっかけに、総合格闘技中継から撤退した。

 総合格闘技はブームが去って、消滅したのだろうか? いや、地上波でのテレビ中継はないものの、大晦日の格闘技興業は今年も健在だ。

 ひとつは「DREAM.18 & GLORY4~大晦日 SPECIAL 2012」(さいたまスーパーアリーナ)。シュルトやアーツ、バンナなどK-1で活躍したスター選手たちや、桜井速人や青木真也ら総合格闘技の強豪がそろう。もうひとつは「INOKI BOM-BA-YE(猪木祭)2012」(両国国技館)。柔道金メダリストの石井慧や小川直也、ボブ・サップらが登場する、大晦日にふさわしい賑やかな顔ぶれだ。

 もう一度、巨大メジャーになる可能性を見せている総合格闘技の様子をみると、格闘技ファンであると公言していた広告代理店関係者が、格闘技がビジネスになりづらい理由について「少し気に入らないことがあると、プロモーターやマネージャーらが、普通の人からは“恫喝”としかとれないような態度をとる。いくら情熱があっても、面倒ばかりを起こす案件を仕事にはできないですよ」とこぼしていたのが思い出される。

 過去の反省を生かして、総合格闘技が再び、日本中の人を楽しませる日が来て欲しい。

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン