勤務形態の多様化に伴い、本来の仕事場から離れた場所をオフィスとして利用する『リモートオフィス』の活用が増えてきたが、空き家となった古民家の有効活用法として岐阜県飛騨市に生まれた、注目の滞在型リモートオフィスが「飛騨里山オフィス」だ。そこで実際に滞在して仕事をおこなった利用者を交えてのトークセッションイベントが、新宿のシェアオフィスにておこなわれた。その内容について、レポートしよう。
「飛騨里山オフィス」とは、四方を山々に囲まれた飛騨地域に残る文化財級の古民家を、都心に勤める人々のリモートオフィスとして有効活用するというプロジェクトである。
伝統工法で建てられた飛騨の民家や町家の多くは、江戸時代から戦前にかけて建てられたもので、匠の技術による高度な意匠が施されているのだが、現在その2割が空き家となっている。このままでは取り壊されてしまう運命にある住む人のいなくなった古民家が、長年飛騨の地でまちづくりに関わってきた株式会社柳組と、クールな田舎をプロデュースする株式会社美ら地球によって、一軒まるごとレンタルできる滞在型のリモートオフィスという、新たなる役割が与えられたのだ。
飛騨里山オフィスは、食器類や冷蔵庫、洗濯機など一般的な貸別荘にあるような設備に加えて、インターネットや複合機などのIT環境、会議で使用するホワイトボードや大型スクリーンなどの設備が充実しているのが特徴。
自分のパソコンさえ持ち込めば、古民家をそのままオフィス兼住居として使用することができるのだ。また何人で利用しても料金は変わらないので、家族を連れての休暇を兼ねた滞在という利用もできるのが魅力的だ。
飛騨里山オフィスの「末広の家」に、家族で滞在したプロブロガーのイケダハヤトさんによると、とにかく「里山オフィスやばい」のだという。
飛騨の職人の手でこだわり抜いてつくられた「末広の家」の建物は、並みの旅館では太刀打ちできない程の風格を持っているため、手ごろな値段で文豪気分の執筆環境を手に入れることができるそうだ。物を書く人間なら、一度はこんな場所で缶詰になって、じっくりと原稿を書いてみたいと思うのではないだろうか。
飛騨の食・酒の文化、そして地元住民のおもてなしの心に触れながら、家族と一緒に滞在するリモートオフィスは、新しい仕事のスタイルとなりそうだ。
またこの日の会場となったシェアオフィス「HAPON新宿」のメンバーも、7人が入れ替わりながら飛騨里山オフィスに滞在した体験を発表した。まず参加メンバーが滞在中に更新していく専用のブログを立ち上げることで、遅れてやってきた参加者とも進めている仕事の状況だけではなく、飛騨のお店情報や毎日の食事内容なども共有することができたそうだ。
この飛騨という物理的に離れた場所に来ることで、急な打ち合わせなどが入る心配がないため、集中して作業するためのスケジュールを確保することができる点が大きいメリットだそうで、なにか新しいプロジェクトを立ち上げるための合宿や、新しい技術をマスターするための研修などには、ぴったりの場所なのかもしれない。
たとえここでの仕事の内容が東京と同じであっても、ちょっと外に出るだけで息抜きをすることができるという環境で働くことができるのは、やはり大きなメリットのようである。二日も寝泊りすれば、ここに住んでいるという感覚を味わえるそうだ。
利用者からの貴重な体験談を聞かせていただいた後は、この場に集まった参加者を交えて、飛騨里山オフィスの新しい活用法についてのディスカッションタイムとなった。ある程度長期で借りて、仕事仲間、友人、家族などを交代で招いたり、どの都市からも遠い場所にあることを逆にメリットと考え、全国の支社から集まる会合の場にするなど、さまざまな意見が交換されたことで、より飛騨里山オフィスの可能性は広がったようだ。
東京から高速バスなどで片道6時間の移動となるが、一度着いてしまえば滞在中の通勤時間はゼロである。いつもの仕事を止めることなく、社員旅行を企画することができたり、家族と一緒に旅行をすることができる、リモートオフィスという仕事と旅を結びつけることができる職場の形は、今までにない新しい価値を生み出すきっかけになるような予感がする。