こんなカワイイ骨壷に入りたい!文具メーカーが本気で「葬祭ビジネス」に取り組む理由

超高齢化社会の進行に伴い、大きな市場として注目されている「フューネラル(葬儀・葬祭)ビジネス」。その市場に、文具・雑貨メーカーが「エンディング・ボックス=骨壷」で新規参入しようとしている。

株式会社COVERが手掛けるフューネラルグッズブランド「GRAVE TOKYO」の骨壷は、花や蝶があしらわれ、スワロフスキーが輝く、とても華やかでゴージャスなつくり。まるでジュエリーボックスのようで、とても骨壷には見えない。

この骨壷を企画したのは「ガールズブリーフ」「かぶるかみぶくろ」など数々のヒットアイテムを手掛けた女性プロデューサー。なぜ、今敢えて「骨壷」なのか。彼女の想いと今後の展望を聞いた。

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株式会社COVER クリエイティブプロデューサー
布施美佳子さん
アパレル会社を経て、1999年にバンダイに転職。アパレル事業部の新規開発担当としてガールズブリーフ「mi・ke・ra」をヒットさせたほか、ガールズトイなどを担当。2014年に文具・雑貨メーカーCOVERに出向。かぶるだけで仮装ができる「かぶるかみぶくろ」などを企画。このたび、フューネラルグッズブランド「GRAVE TOKYO」を立ち上げ、昨年12月に開催された「エンディング産業展」に出展。

若くして亡くなった友人や同僚の葬儀に違和感。「自分が入りたい骨壷を作りたい」と考えるように

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 鮮やかなブルーやピンクの地に花や蝶、動物などがデザインされ、スワロフスキーがキラキラと輝く…まるで宝箱のような「エンディング・ボックス」。部屋に置かれていても、おそらく誰も骨壷だと気付かないだろう。

 昨年12月に開催された「エンディング産業展」に初出展したところ、「こんな骨壷に入りたい!」と60代以上の女性を中心に大反響を得た。来場者のほか、他の出展会社の女性スタッフも数多くブースを覗きに来たという。

 この「骨壷」は、布施さんがバンダイ在籍時代から密かに温め続けてきた企画だ。2014年に、文具・雑貨メーカーCOVERに出向し、新規事業企画を任されたのを機に、一気に商品化に動いた。

 背景には、彼女が子どもの頃から抱き続けてきた「死生観」があった。

「小学校時代から、『人は将来必ず死ぬのに、なぜ今を生きなければならないのか』と考えていました。秋田に住んでいた10歳の時に日本海中部地震が起こり、近隣の小学生が多数津波で流されたこともあり、ますます『死なねばならなかった人と生きている人の差って何だろう?』と考え込むように。当時の私は、妙に達観している子どもだったと思います」

 その後、『いつかは死ぬならば、生きているうちにやりたいことをやったほうがいい』と考えるようになり、大好きだったファッションの道に進んだが、その後も常に「死」は身近にあった。同級生や仲のいい友人が何人か、病気や事故などで若くして亡くなった。20代の若さで、くも膜下出血で急逝した友人もいた。

みんなまだ若かったので、死に対する準備などしてこなかったし、覚悟もしていない。それは当然のことなのですが、お葬式に出席してとても違和感を覚えたんです。生前の彼らを知っているだけに、おしゃれで個性的だった故人のイメージとあまりに合わないなと。昔ながらの画一的な葬儀の形態に合わせて、淡々と葬られていく。故人もきっとこんなはずじゃなかったと思っているだろうな…と。その時から、自分が死ぬ際には、最期に着る服(死装束)や骨壷は、自分が着たいもの、入りたいものを選びたいと思うようになったんです」

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▲「エンディング産業展」での「GRAVE TOKYO」ブースは、ひときわ異彩を放っていた

8,568通り、あなたはどのタイプ?

葬儀業界の変化の兆しを実感。葬儀や死装束、骨壷ももっと自由で個性的になると確信

 2014年から市場調査をスタート。布施さんの頭の中には、すでに現在のような華やかな骨壷イメージはでき上がっていた。しかしあまりに未知の業界であり、ある意味「異端」な骨壷を作ってくれるメーカーには出会えずにいた。「やはり難しいのだろうか…」と落ち込みながらも、同年5月、情報収集のために「フューネラルビジネスフェア」に足を運んでみたところ、驚きの光景が広がっていた。

「死装束のファッションショーが行われていたんです。若いモデルさんが色とりどりの死装束を着て、笑顔でランウェイを歩いていました。何てアバンギャルドなんだ!と感心させられると同時に、今はまだ閉鎖的なフューネラルビジネスだけれど、どんどん変わろうとしている。私が思い描いている骨壷のスタイルも、きっと受け入れられるに違いない…と確信しました」

 その後、試作品を作成し、さまざまなつてをたどって50代以上の男女に意見を聞いて回った。すると女性は一様に「カワイイ!」という反応。特に、自身のライフスタイルを確立していて、ファッションにこだわりのある女性に強く刺さった。「こういう骨壷が欲しかった」という意見のほか、「これならば、私の骨を娘に持っていてほしいと思える」との声もあった。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

普段から死を意識し準備をすることで、故人も遺された人も安らげる未来を

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 骨壷の製作は結局、既存業者ではなく、ギフトショーで出会ったジュエリーボックスメーカーに依頼した。「本来の用途ではなく、ペットのお骨入れに使う人がいる」との声を聞いたのがきっかけだった。同時にスワロフスキー社にも働きかけ、昨年12月のエンディング産業展直前に納得のいくプロトタイプが完成。今年2月中旬より、クラウドファンディング「Makuake」で先行予約を受け付ける計画だ。

 エンディング産業展を機に、さまざまな問い合わせが入るようになった。年配の女性だけでなく、「終活」中の独身女性や海外の富裕層からの引き合いもあったという。女性特有の疾病を専門とする病院に勤める人から「余命宣告された患者さんに教えてあげたい」との声もあった。「娘が昨年亡くなって…」と話す母親もいた。

この骨壷が、いい意味で『死を意識するきっかけ』になるといいなと考えています。人は必ずいつかは死ぬ。何十年後かもしれないし、明日突然事故に遭うかもわからない。普段から『死ぬ時はこんな衣装で送られたい、こんな骨壷に入りたい』などと周りと自然に話せるようになれば、遺された人が『故人の意に沿う葬儀ができ、骨壷が用意できた』と少しでも心安らげるようになると思うのです」

子を亡くした親のため、いつかは「子ども用のキャラクター骨壷」を実現したい

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 実は、この企画には「子どもを亡くした親が少しでも安らげる骨壷を作りたい」という裏テーマがある。

 市場調査のためネットで骨壷を検索していた時、「幼い子ども用の、キャラクターものの骨壷」を探している人が多いことに気付いた。死ぬのは高齢者だけではなく、赤ちゃんだって、子どもだって、不幸にして命を落とす場合がある。亡くなった子どもが小さければ小さいほど、親としては手元に骨を置いておきたいと思うもの。そして、子どもが好きだったキャラクターがついた骨壷に入れてあげたいと考えるのが親心だ。布施さん自身、現在6歳になる娘を持つ母親。わが子を亡くした親の深い愛情に触れ、胸を打たれたという。

「キャラクター業界においてはまだ、死を想起させるものにキャラクターを使うことは難しいと思います。ただ、ニーズは確実にあるし、しかもそのニーズはとても重くて真剣なものです。まずは、今回私たちが発売するエンディング・ボックスで、『最期の選択肢はもっといろいろあっていい』という印象を広めてブランドとして根付かせ、意識を徐々に変えていきたい。そしてゆくゆくは、キャラクターの骨壷を世に送り出したいと真剣に考えています」

 現在、ある海外キャラクターの商品化の話が進んでいる。1社でも賛同してくれたことに大きな手応えを感じている。布施さんの挑戦は、始まったばかりだ。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山 諭

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