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SUUMOジャーナル 編集部
2014年11月4日 (火)

福岡県糸島市、地域価値を高める住民コミュニティとは?

福岡県糸島市、地域価値を高める住民コミュニティとは?(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)
写真撮影:SUUMOジャーナル編集部

筆者が小さいころ、お隣さんに町会の回覧板を渡しに行き、おばさんからお菓子をもらえることがうれしかった。以前は当たり前のようにあった地域コミュニティ。いつしか希薄なものになってしまったが、震災以降、都心部でも改めて人との繋がりやコミュニティへの関心が高まってきている。防災をきっかけにコミュニティを活性させる取り組みなどは都心部マンションでも見られるが、一体どんなことがコミュニティのきっかけになるのだろうか?

ハンドメイドタウン「やかまし村」のコミュニティ

福岡県糸島市には住民たちが「やかまし村」と呼ぶ地域コミュニティがある。「たまたま隣接する土地を同じタイミングで購入した5組の家族が、家を建てるまで毎週末草刈りに通い始めて顔なじみになりました。『今度はお弁当を持ち寄ってみんなで食べよう』というように、住まう前から既にお隣さんとの交流がありました」そう語るのは、ここのリーダー的存在である寺田さんご夫婦。お二人は、自宅をハーフビルドで建てた、この地域のDIYのリーダーでもある。

きっと交流が生まれたきっかけとして何かしらの共通点があるだろうと伺ったところ、そんなことはない。世代が違えば働く環境も違う人たちだと言う。唯一の共通点は、みんなそれまで福岡市内でマンション住まいだったこと、初めて一戸建てを購入したということだった。

住み始めてからはDIYが一つのテーマになった。「建物は、私たちの家以外(ほかの住宅)は大工さんにお願いをしているけれど、庭や外まわりは全てそれぞれの住民がつくっています。うちがフェンスや庭をセルフビルドでつくれば、周りも同じようにつくるようになって。もしかしたら、みんな自分がつくるとは思っていなかったかもしれないけれど、ここでは出来るだけDIYでつくるということが自然になっているんです」

【画像1】寺田さんの庭にあるガーデンハウス。建てる際には周辺住民も手伝いに来てくれた(画像提供:寺田さん)

【画像1】寺田さんの庭にあるガーデンハウス。建てる際には周辺住民も手伝いに来てくれた(画像提供:寺田さん)

【画像2】完成したガーデンハウス。自分たちでつくりあげたとは思えない完成度の高さ(画像提供:寺田さん)

【画像2】完成したガーデンハウス。自分たちでつくりあげたとは思えない完成度の高さ(画像提供:寺田さん)

DIYのノウハウは、寺田さんご夫妻が家づくりで培ったもの。それをほかの住民たちに求められれば伝えていっているのだとか。「昔の暮らしやコミュニティにあった、お互いに助け合う『結(ゆい)』の考え方と同じものです」

【画像3】道端にある道路標識、工房の場所をお知らせする地図、見通しが悪い場所にはミラーをつくって立てかける。これらは全てここの住民でつくって設置したものだという(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】道端にある道路標識、工房の場所をお知らせする地図、見通しが悪い場所にはミラーをつくって立てかける。これらは全てここの住民でつくって設置したものだという(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

住み始めて3年後にはイベントを始めた。毎年ゴールデンウィークの5月3、4日に開催しているこのイベントは今年で8回目。始めたきっかけは、やかまし村の工房がイベントを行うことから、それを盛り上げ、そして訪れるお客さんを楽しませようと周りの住民も応援ガレージセールをやってみたことが始まり。
寺田さんのお宅はそのイベントがきっかけで、オープンガーデンを続けている。飼い犬の名前から「カヤガーデン」と名付けられたその庭には、沢山の草木が植えられ、春はバラ、夏はベリーや林檎など、実のなるものも多い。ガーデンハウスには手づくりの木工製品も並んでいる。

【画像4】カヤガーデンのエントランス。このエントランスや柵もDIYでつくったもの。声をかければ周りの住民が手伝いに来てくれるとか(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】カヤガーデンのエントランス。このエントランスや柵もDIYでつくったもの。声をかければ周りの住民が手伝いに来てくれるとか(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

【画像5】ガーデン内にはそれぞれの植物にどんな実がなるのかなど、説明のための看板も手づくり。訪れる人を楽しませる工夫が見られる(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

【画像5】ガーデン内にはそれぞれの植物にどんな実がなるのかなど、説明のための看板も手づくり。訪れる人を楽しませる工夫が見られる(写真撮影:SUUMOジャーナル編集部)

時間の経過でコミュニティや暮らし方に変化

住み始める前からスタートした隣近所との繋がり。それが、DIYやイベントなどを通して小さなコミュニティに発展した。そのコミュニティも時間の経過とともに年々形を変えているようだ。「子どもが小さいころには、週末はバーベキュー……といつも集まっていたような気がします。でも子どもが中学生、高校生へと成長するとだんだんと集まる人数も減ってきて。大学生にもなると更に変わりますね。今、バーベキューは地区の行事として春・秋の2回開催しています。新たな入居者も増え、世代も若返りお互いを理解する場として大きなコミュニティへと変わってきています」

住み始めて10年「この前初めて、この両隣5軒に『大人の飲み会(子どもは来ちゃダメ)』を呼びかけました。今までの子ども中心のワイワイガヤガヤも楽しかったけれど、こうして大人だけの飲み会に変わって……その場でこんな集まり方もいいよね、と話していたんです。コミュニティが変化したと思いました」

コミュニティは続いていく

最近では、他所に住む子育てファミリーも「ここに住みたい」と言って定住し始めているようだ。自然環境が整っていて子育ての環境が良いだけではない、こうしたコミュニティに憧れて住み始める人もいるのだとか。「ここ最近では、40代の若手の取りまとめ役も出てきて、彼を通じるとこの地域の住宅情報がなんでもそろってしまう。新しいリーダー的な存在がいてくれるのはとてもうれしいことですね」

こうしてコミュニティは継続され、この地域コミュニティに価値を見出し移住してくる人がいる。ここの地域の価値を高めているのは、ほかでもない、ここの住民たちなのだ。
DIYから始まった糸島の小さなコミュニティは、一過性のものではない。住民自らが地域価値を高めるこのコミュニティはこれからも継続していきそうだ。

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