漫画家になれるのは300人に1人!?「現代版トキワ荘」に行ってみた

公開日:2014年11月21日

こんにちは。ヨッピーです。

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こんな顔ですいません。太陽が眩しかったからです。

さて、このCHINTAI情報局での連載は今回で4回目になりますが、黒ギャルとオタクの合コン をしたり、ガチオタの人とメイド喫茶に行ったり していたところ、担当者に「さすがに賃貸に関係なさすぎる」と怒られてしまいました。
大変申し訳ございません。

そこで今回はちゃんと賃貸住宅にスポットをあてるべく、とあるプロジェクトを取材させてもらうことにしたのであります。

それが……、

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トキワ荘プロジェクトさんだーーー!

トキワ荘といえば、手塚治虫や藤子不二雄、赤塚不二夫、石ノ森章太郎などといった漫画界の「神」といえる作家たちが共同生活を送っていた、東京都豊島区に実在した伝説のアパート。その「トキワ荘」になぞらえて漫画家志望者にシェアハウスを提供する事業を行っているのが、NPO法人NEWVERYが運営するトキワ荘プロジェクトなのだ。

今では東京に20軒、京都に4軒の物件と契約していて多数の漫画家志望者たちが共同生活を送っているらしい。

さっそくいろいろ聞いてみるよーーー!

トキワ荘プロジェクト代表が語る、「漫画家」になることの難しさ

トキワ荘プロジェクト代表、菊池さん 

トキワ荘プロジェクト代表、菊池さん

ちなみに「ベレー帽だと漫画家っぽいかと思ってかぶってきた」そうです。そこは別にいらないと思う。

ヨッピー「漫画家になりたい人って、そもそもどれくらいいるんですか?」

菊池さん「まず、漫画家になるのって物凄く難しいんですよ。例えばコミックマーケットって3万5000サークルぐらいが出店してるんですね。そうすると、全員がプロになりたいわけではなくても、乱暴に言っちゃえば漫画を描く人は3万5000人いるってことですよね。それに京都には漫画学部、学科がある大学が3つあるんですけど、その学生が4学年+大学院生で約1100人いて、全国の大学や専門学校には約3000人の学生がいるんですよ。それだけたくさん漫画家になりたい人たちがいるのに、継続して漫画家としてやっていける人って調べてみると1000人中3人とか4人とかそれくらいです。とりあえず雑誌でデビューできたって人ですら、専門学校1クラス20人いる中で1人いれば良いほう、っていう」

ヨッピー「えー!なにそれー!めちゃくちゃ競争激しいじゃないですか」

「漫画家への道は厳しい」なんて話は良く聞くけど、実際、数字にもとづいて聞くと、一層その厳しさがわかりますね。ライターなんて、自分で名乗っちゃえばライターになれるからな……。その分全然儲からないけど。

菊池さん「しかも『漫画家になる』っていっても、どうやったらなれるのが分からない人がたくさんいて。例えば小さい頃から『絵を描くのが上手いから漫画家になったら?』っていわれて、なんとなくその気になってダラダラとアルバイトしながら漫画描いたりしてて、気付いたらもうニッチもサッチもいかない年齢になっちゃってたりとか。そういう事例がたくさんあります」

ヨッピー「うわぁ。『イエーイ! みんなで漫画家になろうぜー! ハッピー!』みたいな話かと思ったら全然違った!」

トキワ荘プロジェクト参加者の漫画。僕からしたらめちゃくちゃ上手いのに、プロになる道は簡単にはいかないらしい

トキワ荘プロジェクト参加者の漫画。僕からしたらめちゃくちゃ上手いのに、プロになる道は簡単にはいかないらしい

トキワ荘プロジェクトが入居期限を3年で区切る理由

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菊池さん「現在、トキワ荘プロジェクトで借りている物件は東京に21軒、京都に4軒で部屋数は134部屋あります。そのうち東京の2軒は『LIAR GAME』の甲斐谷忍先生にアドバイザーとして入居者の指導を行っていただいて、甲斐谷先生は『全員に手塚賞を取らせる!』って意気込んで、すごい勢いで指導して下さってます。入居率は全体で90~95%くらい。3年間の入居期限があるんで、年間40人くらいが出入りしてますね」

ヨッピー「入居期限を決めるのってなんでですか?」

菊池さん「調べてみたら、漫画家の方の多くが本格的に描き出して3年以内にデビューしてるんですね。もちろん例外はあるんですけど。その3年間本気でやってみて、それでダメだったら次のステップに行った方が本人のためには良いんですよ。ダラダラと一人で続けていると、自分がどの程度の実力があるのか分からないままですが、トキワ荘プロジェクトなら周囲のレベルも分かるし、『これだけ上手くてデビューできない人がいるなら俺には絶対無理だ』って気づく人もいるんですよね。どうしようもなくなってから気付くより、早い段階でそこに気付ける方が、もっと気合を入れて目指すのか、それともほかの仕事を探すのか、っていう選択ができるじゃないですか」

ヨッピー「あーなるへそ。売れないバンドマンと同じ構図ですね。夢を諦めるっていうのも悲しい選択なのかも知れないけど、僕も『夢は逃げない、逃げるのはいつも自分だ』みたいな名言をあがめてる人たちは無責任だと思いますもん。夢は確かに逃げないかも知れないけど、後ろから年齢っていう、どう足掻いても勝てないモンスターが追っかけてきてますからね。夢にたどり着く前にそのモンスターに食われちゃうっていう。ちなみに、夢破れてトキワ荘プロジェクトを卒業した人はどういう道に進むんですか?」

菊池さん「最近は、ソーシャルゲームのイラストの仕事を通じてゲーム会社に入る人が増えましたね。あとはWEBデザインだったり、出版社に入って漫画の編集者をしたり、イラストレーターになったり。でも全然関係ない仕事に就いて地元に帰る人が一番多いですよ」

「地元に帰っちゃうんだ……」ガチな話すぎて真顔になる僕

「地元に帰っちゃうんだ……」ガチな話すぎて真顔になる僕

トキワ荘で暮らす人々

それぞれの作品について語り合う入居者のみなさん※写真提供/トキワ荘プロジェクト

それぞれの作品について語り合う入居者のみなさん※写真提供/トキワ荘プロジェクト

ヨッピー「入居者の方ってどういう仕事に就いてる人が多いんですか? やっぱりイラストレーターとかアシスタントとか?」

菊池さん「漫画の原稿だけで食べている人が10%、アシスタントで食べてる人が15%、20~30%くらいが漫画関係とアルバイトの兼業で、残りの4割はいわゆる普通のアルバイトで生計を立てています。トキワ荘プロジェクト出身者は卒業者も含めると350人ぐらいいるんですけど、その内デビューできた人は41人ですね。やっぱりかなり競争の激しい世界なんですが、それでも率としてはすごく良い方なんです」

ヨッピー「なるほど。そうやって暮らしながらプロの漫画家になる道を模索しているんですね」

菊池さん「はい。とはいえ、先ほども言いましたが、『漫画家になる方法』ってみんなよく分からないんですよ。普通の仕事ならどこかの会社に入って修行を積んで仕事を覚えて、一人前になって独立して昔の職場の付き合いで仕事をもらう、みたいな一般的な流れがあると思うんですけど、漫画家はそうじゃないんで、なかなか一人でやるのって難しいんですよ。でもトキワ荘のコミュニティ内にいれば情報は勝手に入ってくるし、相談する相手もいるわけで。バイト探しの相談にも乗りますし、トキワ荘に来た企業の依頼を斡旋することもできます。MANZEMIっていうめっちゃガチで漫画の描き方を学ぶ講習会をやったり、大手出版社と漫画家志望者を繋ぐイベントを京都でやったりもしています」

トキワ荘プロジェクト主催のMANZEMI。プロの漫画家に漫画について習う。

トキワ荘プロジェクト主催のMANZEMI。プロの漫画家に漫画について習う。
http://tokiwa-so.net/news/manzemi/715/

こちらは京都で行われた『マンガ出張編集部』 大手出版社から48編集部参加した。

こちらは京都で行われた『マンガ出張編集部』 大手出版社から48編集部参加した。
http://tokiwa-so.net/news/kyoto/1402/

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菊池さん「そもそも、プロになったらなったで、確定申告をどうするかとか、アシスタントはどうやって探すのか、なんて分からないことだらけなんですよ。漫画描くのは得意だけどネットは全然わからない、みたいな人もいるし。そういった人々をサポートするのが我々の使命だと思っています。アイデアも自分で作れてマネジメントもできてネットにも強い、なんて人は自分一人でやれば良いんですよね。『漫画はやりたいけど他のことはよく分からない』っていう人にとってこそ、トキワ荘プロジェクトの価値があるのかな、と思っています」

ヨッピー「なるほど……! 僕も『プロ無職』とか適当に名乗ってますけど、そういう難しいことって全然分かんないですからね……」

文章中にも書きましたが、「みんな楽しく漫画を描いてハッピー!」みたいなものを想像してやってきたのですが、現実はかなり厳しいみたいだ。

僕の友人にはプロの漫画家やイラストレーターがいる上、普段からグウタラしてる連中ばっかりなので、外にバリバリ取材をしに行ってる身としては、「家の中にいるだけで原稿が描けてうらやましい」とか日頃思ってた意識を改めたいところであります。

実際に入居者の自宅にお邪魔してみよう

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そんなわけで今度は実際に入居者の方にお話を聞くべく、西武池袋線の清瀬駅にやってきました!

そして歩くこと徒歩10分……、

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じゃん! こちらがトキワ荘プロジェクトの清瀬荘だー!
立派な一戸建て!
ちなみに写真に写ってる変な人は、今回の取材を受けてもらった覆面イラストレーターの「仮面凸」さんであります。

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仮面凸/カメントツ

グラフィックデザイナーから脱サラして昨年からフリーのイラストレーターとして活躍中。「コメダ六芒星」や「ギャン泣きジバニャン」などがTwitterでも話題に。

コメダ六芒星

ギャン泣きジバニャン

不思議な長崎

仮面凸さんがイラストを担当した「長崎の法則」はAmazonでも発売中。
http://www.amazon.co.jp/dp/4803006059

仮面凸公式ブログ
http://www.kamentotu.com/

実際の暮らしを聞いてみる

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ヨッピー「家賃っておいくらなんですか?」

仮面凸「光熱費とネット代込で5万円ですね。この清瀬荘には6人の入居者がいます。みんな漫画家志望ですね」

ヨッピー「やっぱり一日中漫画描いてるんですかね?日頃の生活サイクルってどんな感じですか?」

仮面凸「まあ、昼過ぎに起きて、まずは頭を使わなくて良い、手を動かす作業をするんですね。イラストとか作画の仕事です。で、腕が疲れてきたらネーム(漫画のコマ割や構図、ストーリーなど)を考えます。それが夕方から深夜までって感じですね。24時を過ぎるとみんなが外から帰って来るからダラダラ話したりとか」

ヨッピー「ネームっていうのはいろんな出版社に持ち込む用の?」

仮面凸「はい。そうです。企画ごと雑誌社に持ち込んだりとか」

仮面凸さんの作業台。ここで毎日漫画を描いて過ごす。

仮面凸さんの作業台。ここで毎日漫画を描いて過ごす。

共同のお風呂はこんな感じ。多少古いけど広い。

共同のお風呂はこんな感じ。多少古いけど広い。

トキワ荘に入って良かったこと

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ヨッピー「トキワ荘に入って良かったことってなんですか?」

仮面凸さん「やっぱり、漫画家さんとの交流会とか編集者さんとの出会いを提供してくれるっていうのは大きいですね。あとはイラストの仕事を紹介してくれたり。トキワ荘出身のプロの作家さんがアシスタントを募集してると、僕らみたいな現トキワ荘の人をアシスタントで雇ってくれたりとか。あとは単純に同じ夢を見てる人たちと暮らしてるとおもしろいですよ」

なるほど。これは確かにそうかも知れない。
全然つながりのない人と一緒に話すより、仕事なり趣味なりで共通なものがあるとおしゃべりも捗るし情報交換にもなる。

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ヨッピー「漫画家になろう! って思ったきっかけは?」

仮面凸さん「元々はグラフィックデザイナーとして地方タレントのグッズを作る仕事とかをしてたんですけど、仕事が嫌になって辞めて、そこから自動車工場で働いたんです。その時に『自分の好きなものってなんだろう?』とずっと考えて、『あ、漫画が好きだわ』って。それで漫画家になろうと思いました。」

ヨッピー「やっぱり、漫画家の道って厳しいですかね……?」

仮面凸さん「昔とだいぶ変わってるんですよね。昔は漫画家って、子弟制度みたいなものがあって、師匠のところでアシスタントとして修業を積んでデビュー、みたいな感じだったんですけど、今はとにかくネットでウケないとなかなか編集の人が拾ってくれないんですよ。ネットはもう子弟関係とかなくて完全に実力ですからね。昔みたいに見込みのある人を編集が拾って育てて、っていう感じじゃなくて、今はとにかくネットでウケてる人を拾う、っていう焼畑農業みたいな構図になってるんで、なかなか難しいです」

ヨッピー「あー確かに。僕の友達の漫画家で、Twitterでウケてフォロワーが23万人の奴がいるんですけど、いろんなところから連載の話がめっちゃ来たっていってました」

仮面凸「でしょう。ネットに向いてないタイプの漫画もあるんでどうにかしたいんですけどねぇ……」

ほかの人の部屋も見せてもらった。割と片付いてる。

ほかの人の部屋も見せてもらった。割と片付いてる。

今後の展望は?

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仮面凸さん「やっぱり、賞取ったりして漫画一本で食べていけたら一番良いですよね。今は漫画とかイラストの仕事と、普通のアルバイトの収入が半々くらいですけど、アルバイト辞めても暮らして行けるようにはなりたいですね!!」

……というわけで「漫画家志望者」の暮らしを取材させてもらったのですが、いかがでしょうか。
想像以上に厳しい世界のようで僕も面喰いましたが、出版社の勢いが落ちている一方で、WEBのコンテンツの需要は年々高まっていますし、個人的にはこういった、日々がんばっているみなさんの努力が報われるケースは今後増えていくような気がします。

シェアハウスが流行っていることもありますし、トキワ荘プロジェクトのような漫画家志望者以外にも、音楽家や芸術家といったクリエイターが集まって暮らす形態はどんどん増えていくかも知れませんね。

ちなみに仮面凸さんの漫画は普通に面白かったので、今後、このCHINTAI情報局に仮面凸さんの漫画レポートが載る日が来るかも知れない……!

(ヨッピー+ノオト)

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