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連載今週の住活トピック
やまくみさん正方形
山本 久美子
2015年5月20日 (水)

ついに不動産取引もテレビ会議の時代に!?

ついに不動産取引もテレビ会議の時代に!?
写真:iStock / thinkstock
IT(Information Technology)活用を不動産取引の現場にも広げようという流れを受けて、対面が義務付けられている「重要事項説明」でテレビ会議などのIT化(以下、「IT重説」)の試みが始まろうとしている。国土交通省はまずは社会実験を行うとして、そのための「ガイドライン」を公表した。

重要事項説明でIT化の社会実験が行われる理由

「重要事項説明」とは、不動産の売買契約を締結するまでの間に、不動産会社が購入予定者に対して購入物件にかかわる重要事項の説明をしなければならないと宅地建物取引業法で定められているもの。賃貸借契約の場合も同様だ。(貸主と直接契約する場合は除外)。

このとき、宅地建物取引士(2015年4月より宅地建物取引主任者から改称)が、重要事項の内容を記載した書面に記名押印し、その書面を交付した上で、口頭で説明しなければならないとされている。つまり、対面で宅地建物取引士証を提示して、書面を読み上げて確認をするといったことが行われている。

IT化のすそ野を広げるためには、対面ではない方法や書面の電子化などを検討すべきだという指摘を受けて、国土交通省は2014年4月に「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会」を立ち上げ、検討した結果を最終とりまとめとして、2015年1月に公表した。このとりまとめによると、まずは社会実験を行い、その結果を検証するべしとなっている。

この背景には、業務が効率化される、ユーザーの利便性が向上するといった肯定的な意見がある一方で、高額な取引で権利関係が複雑なだけにトラブルのリスクが高まる、宅地建物取引士のなりすましのリスクや個人情報が漏えいするリスクがあるといった慎重な意見も多く、賛否が分かれていることがある。

「IT重説」はテレビ会議などで行う

最終とりまとめの記載内容を実現できるように具体化したのがガイドラインであるが、実際のIT重説はどのように行われるのだろうか。

まず、社会実験でIT化が認められているのは「賃貸取引」と「法人間取引」。個人が買主や売主となる売買取引は対象外となる。

重要事項の説明で使われるツールは、双方で人物や書面内容がリアルタイムで分かる、テレビ会議など動画と音声でやり取りできるものに限られる。

流れとしては、事前に重要事項説明に関する書面を送付することと、IT重説に関する同意書を取得しておくことがまずは必要だ。同意書には、個人情報保護の観点から、宅地建物取引士に無断で録画録音することを禁じるといった項目も含まれる。重要事項説明の事前送付はメール等の電子書面は認められないが、IT重説実施の同意書については、郵送のほかメールによる返信等でもよい。

IT重説が実施できるのは、事前に登録された事業者のみで、登録事業者は説明をする宅地建物取引士側と説明を受ける側の両方を録画録音する。その際、映像については双方の顔の表情が判別でき、かつ提示する宅地建物取引士証の記載内容が分かる程度の品質であること、音声が明瞭に聞き取れることなどが求められている。

使用する機器やソフト、録画方法など細かいルールも盛り込まれており、要件を満たしていれば、一般的なパソコンやタブレット端末、スマートフォンなどで行ってよいとされている。重要事項説明の終了後は、情報の管理や社会実験としての結果報告なども求められている。

【図1】「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドライン」から登録事業者の責務について(出典:国土交通省)

【図1】「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドライン」から登録事業者の責務について(出典:国土交通省)

重要事項説明でもっとも重視すべきことは、大切な不動産について重要な事項をしっかり理解したうえで、売買や賃貸借の契約を結ぶようにできることだ。その点では、テレビ会議の前にあらかじめ書面が送付されることで検討時間がもてること、録画録音によって記録が残ることで、言った聞いていないといったことが起きにくくなることなどは評価したい点だ。

社会実験では法人間取引などが中心になると思われるため、数多くの不動産を取得しようという国内外の法人投資家であれば、IT化による効率化はメリットになるだろう。一方で、不動産の取引を数多く経験しない個人には、契約という重要な取引がIT化という手法で進められるといった、不慣れな取引シーンで説明の理解に集中できないといったことも懸念される。また、録画録音された情報が悪用されないような配慮も必要だろう。

社会実験の期間は、最終とりまとめから最大2年間とされているが、実際にどの程度の件数で行われるのか、どういった反応が出てくるのか、注目していきたい。

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