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連載元編集長の鎌倉古民家リノベ移住
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長井純子
2016年2月26日 (金)

古民家リノベ[3] 築90年の開放感ある間取りも断熱でポカポカ

古民家リノベ[3] 築90年の開放感ある間取りを断熱で冬暖かく
写真撮影:長井純子
古民家といってもリノベーションするからには私より長生きする耐久性が欲しい。昔ながらの日本家屋の通風・採光の良さとイマドキの夏涼しく冬暖かい家が理想。そして間取りは、気軽に友人を招きワイワイできる、開放感のある宴会仕様に。これらを小さな古い平屋で実現するためには、基礎と構造柱以外はほぼ全面的に変更する、建て替えに等しい大規模なリノベーションとなった。
●連載「元編集長の鎌倉古民家リノベ移住」
10誌以上の住宅情報誌の編集長を経験してきた筆者が、都内マンション暮らしから鎌倉の築90年古民家への移住を決意。物件との出会い、リノベーションのパートナー探し、プランの検討、コストダウン方法など実体験に基づくノウハウや失敗談を含めた本音を7回連載でお伝えします。

建て替えでも増築でもなく、リノベーションを選んだ理由

一目惚れした古民家は、こじんまりした平屋なのに、間取りは3畳の和室など細かく仕切られた昔ながらの間取り。設備面で使えそうなのも、ここ10年以内に修繕された屋根・給湯器・一部サッシくらい。全面的に手を入れることになるので、建て替えを考えなかったわけではない。

実際、不動産会社のチラシにも「土地としてもご検討下さい」とあった。築90年ともなれば、建て替えのほうが結局安くつく、とか、性能面で安心、という考え方もある。しかし、土地に惚れたわけではない。便利な場所に風情のある古民家が建っていたのが良かった。土地だけで考えるなら、もっと条件がいい物件があっただろう。建て替えではここを選んだ意味が薄れる。

敷地面積には余裕があったので、自宅兼カフェや友人が宿泊できるプラスαのスペース確保のため、増築も検討した。しかし法令上の制限で、増築すると家全体を準防火仕様に変更する必要が生じ、増築分だけでは済まない莫大なコストがかかることが判明。結局、一目惚れした素朴で温かみのある木の外観を生かすためにも、一切増築せず、現状の広さの中でプランのやり繰りをすることにした。

収納たっぷりで開放感のある宴会仕様の間取りが増築なしで実現

第2回で書いたように、プランの要望は欲張って17項目もあった。荷物が多いのに、見た目はスッキリ暮らしたい。大人数の来客にもスムーズに対応できる家にしたい。できれば自宅兼カフェもしてみたい(これは早々に諦めた)。冷暖房効率も気になるし、季節がいい時には明るく風通し良く、エアコンに頼らず暮らしたい。

各社各様のプラン提案があった中、ポイントになったのが「縦空間の利用」だった。依頼した会社のプランは、小屋裏収納や吹抜けで縦空間をフル活用したもの。玄関とリビングの2カ所は吹抜けで、元々あった柱や梁を見せる。実際住んでみると天井が高い分、実際の床面積以上に広がりを感じる効果があった。

小屋裏は神奈川県の場合、最大高さが1.4m以下でかつ、その面積が1階床面積の半分未満であれば床面積に算入されず設けることができる。つまり小屋裏収納をつくっても、増築にあたらないのだ。屋根自体が高くない平屋なので、膝立ちもできないが、この6畳分の小屋裏収納を確保することで、安心して他の空間を開放感あるプランにできた。

LDK、和室、サニタリーは全て引き戸とし、それぞれの空間で仕切ることも、引き戸を開放して広々とした一体の空間にすることも可能に。寝室と収納を確保し、それ以外は開放して気軽に人を招くことができる「宴会仕様の家」という希望通りのプラン。収納の追加など微々たる修正をした程度で、ほぼ最初の提案通りのプランで着工に。家の中心となる6畳の和室以外は、水まわりの位置などもすべて変更するフルリノベーションとなった。

【画像1】リノベーション依頼会社からのプラン提案は2案。どちらも縦空間をフル活用し、吹抜けにして梁を見せる空間と、床を張って小屋裏収納にする空間の両方があった。小屋裏で収納スペースを確保して広々暮らすという提案が決め手に(写真撮影/長井純子)

【画像1】リノベーション依頼会社からのプラン提案は2案。どちらも縦空間をフル活用し、吹抜けにして梁を見せる空間と、床を張って小屋裏収納にする空間の両方があった。小屋裏で収納スペースを確保して広々暮らすという提案が決め手に(写真撮影/長井純子)

古民家でも冬暖かく夏涼しく。快適生活のための住宅性能

築90年ともなると、当然、耐震性も心配。また古民家というと、隙間風でしんしん底冷えし、夏はクーラーが効かず蒸し暑いイメージ。暑いのは我慢できても、冷え性の私は寒いのは絶対無理。快適に暮らすためには、こういう目には見えない住宅性能にこだわることが大切。しかも、ここまで家を丸裸にする工事は、後からでは困難だし、高くつく。やるならこのタイミングしかない。

予想通り、解体が始まってみると、床をめくればスケスケで中から外が見え、外壁も継ぎ目から外の光が差し込む。基礎も大変簡素で、地面がすぐに顔を出す。そのせいもあり、梅雨時には、あっという間に新品の畳がカビだらけになった。工事現場でそんな古民家の現実を目の当たりにして、断熱、耐震補強、防湿コンクリートなど住宅性能アップ工事は最優先でお願いした。そして建て替えとほぼ同等の一連の工事が入り、古民家に新しい命が吹き込まれた。

【画像2】左:床をめくったら、簡素な基礎が出現。隙間だらけで外からの光もたくさん入る。湿気も冷気も室内直結な状況を実感。右:梅雨時一週間で黒々とカビが生え始めた新品の畳。目を疑ったが、これで防湿コンクリート工事を追加する決心がついた(写真撮影/長井純子)

【画像2】左:床をめくったら、簡素な基礎が出現。隙間だらけで外からの光もたくさん入る。湿気も冷気も室内直結な状況を実感。右:梅雨時一週間で黒々とカビが生え始めた新品の畳。目を疑ったが、これで防湿コンクリート工事を追加する決心がついた(写真撮影/長井純子)

解体が進むと、昔ながらの土壁や漆喰壁が姿を現し、90年分の膨大なホコリとともに重ねてきた月日を感じさせた。屋根板の裏はすぐ屋根材で、通気性が良すぎて、冬は冷気が夏は熱気が屋根からそのまま入ってくる。今回外壁と屋根を残すことにしたので、断熱材をすべて内側から入れ、その上に壁材、塗装、と内側に重ね、床壁天井ぐるりと断熱対策が施された。

私自身寒さが苦手ということもあり、住宅性能に関わる提案は、薦められたものは基本すべて導入した。大きな窓も多かったので、そこから熱が逃げないようサッシは複層ガラスにして、結露や隙間風対策も万全。おかげでエコリフォームを対象にした補助金制度である「省エネ住宅ポイント」も満額利用することができるというオマケもついてきた。

【画像3】左:解体が始まると、隠れていた建築当時の姿を現す。左手が漆喰壁、右手が土壁。見るからに外の冷気も熱気も直通。右:縦空間を有効活用することによって生まれた工事中の小屋裏収納。天井が低くても、6畳あればかなりの収納量を確保でき、さらに立派な丸太の梁も拝めるプラスα空間となった。天井裏にもすべて断熱材を設置し、換気のための小窓も設けた。

【画像3】左:解体が始まると、隠れていた建築当時の姿を現す。左手が漆喰壁、右手が土壁。見るからに外の冷気も熱気も直通。右:縦空間を有効活用することによって生まれた工事中の小屋裏収納。天井が低くても、6畳あればかなりの収納量を確保でき、さらに立派な丸太の梁も拝めるプラスα空間となった。天井裏にもすべて断熱材を設置し、換気のための小窓も設けた。

リノベーションでは、つい間取りやインテリアなど表面的なことに目がいきがち。だが、古民家で快適に暮らすためには、住宅性能面の検討が必須。性能面の進歩は目覚ましく、古民家を建てた当初とは天と地の差がある。また住み始めてからの追加工事も困難なので、当然コストもかかるが後悔する前にぜひ先手を打ってほしい。特に私のように大きな窓が多い、天井が高い大空間、などの開放感ある間取りを希望する場合、必ず断熱などの住宅性能もセットで検討を。このおかげで、寒さが苦手な私も、初めての冬を快適に過ごしている。

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連載 元編集長の鎌倉古民家リノベ移住 10誌以上の住宅情報誌の編集長を経験してきた筆者。都内マンション暮らしから鎌倉の築90年古民家へ移住するまでのノウハウや失敗談を7回連載でお伝えします。
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