3年前に書かれた乃木坂46・高山一実さんの初短編小説『キャリーオーバー』

文芸・カルチャー

更新日:2018/12/4

キャリーオーバー

高山一実

 僕は幼い頃、いじめに遭っていた。

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“家が貧乏”という至って単純な理由だったが、原因がわかっていても改善のしようがないのが辛い所だ。例えば僕の服にはバリエーションがない。家に三着しかないプリントがはげ、色あせたトレーナーを何年着ただろう。

 学校行事のクリスマス会で、千円程の予算でプレゼント交換をしようとみんなで決めたというのに、母が200円しかくれなかったことがあった。僕はクレーンゲームで大物ゲットを試みたが失敗し、手元には100円だけが残ったので、仕方なくわたパチ・・・・を買って会に臨んだ。その日から僕はいじめられっ子のレッテルを貼られたのである。「お金が全てじゃないよ~」という正義の味方キャラも一人くらいはいてもいいはずだったが、僕には周りの奴らより優れている点が皆無だった故に『何もできない奴+【プラス】貧乏=【イコール】友達になりたくない奴』が完成してしまった。僕には味方がいなかった。

 だからこそ金への執着は年を重ねても収まることはなく、むしろ成長と共に強まっていく一方だった。周りの奴らの体格が大柄になるにつれいじめの程度もエスカレートし、僕は完全に世の中から、人から心を閉ざした。力もない。頭もない。金さえあれば……金さえ……と秒刻みで繰り返していた。そんな地獄をなんとか耐えぬき、僕はようやく自分で稼げる日を迎えた。

 働き始めた日から一ヶ月が経った日、帰りの電車の中吊りに目を奪われた。

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