【肉ブームはいつまで続く?】肉マイスターが解説する「今後の肉トレンド」

熟成肉、赤身肉、塊肉…今、グルメ界においては空前の肉ブームが到来している。「肉」をウリにする飲食店が数多く現れ、今や女子会で肉、合コンやデートで肉、会社宴会で肉…なんてチョイスも増えているらしい。

この肉ブームは今後どうなるのか、肉好きのビジネスパーソンならば押さえておきたいところ。肉業界に精通し、“肉マイスター”の肩書きを持つ田辺晋太郎さんに、これからの「肉トレンド」を予測してもらった。

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田辺晋太郎さん
音楽プロデューサーとして活動するかたわら、2013年に発売した著書『焼肉の教科書』(宝島社)が25万部を超える大ヒット。現在では肉マイスター、肉のコンシェルジュ、肉王子として、テレビや雑誌などで活躍するほか、肉イベントの企画、飲食店プロデュースなどにも関わる。今年1月、テレビ番組『マツコの知らない世界』で「フライドチキンの世界」を紹介したことでも話題に。

空前の肉ブームで和牛価格が高騰中!焼肉はさらに高級メニュー化!?

 肉トレンドを語るうえで、避けては通れないのが「和牛価格の上昇」。2、3年前には1頭40~50万円だった子牛の取引価格は、現在は平均70万円にまで高騰。血統がいい子牛の場合は1頭100万円を超えるケースもあるという。

「一番の理由は、肉ブームを受けた和牛の消費量の拡大ですが、懸念されるのは、特に雌牛の消費量が拡大している点。雄の去勢牛よりも、子どもを産む前の雌牛のほうがおいしいと言われることから人気を集めているのですが、それにより母牛となる雌牛が減れば、生まれる子牛の頭数も当然ながら減少し、子牛価格はますます上昇すると見られます。高齢化による畜産農家の減少、海外での和牛人気に伴う輸出拡大なども加わり、向こう2年以内には、現在の倍の価格にまで急騰するとも言われています。現在は、肥育農家(仔牛を肉用牛へと育成する農家)が出荷額への反映をこらえてくれているから、我々がスーパーなどで手にする精肉や、焼肉店のメニュー価格にはそれほど反映されていませんが、早晩限界が来るでしょう」

 原料価格の高騰を価格に転嫁すれば、消費者は飲食店の選択にシビアになる。肉ブームに乗って、雨後の筍のごとくたくさんの焼肉店が出店したが、価格転嫁後もお客さんを呼べるかどうか。この数年が、勝負の年になるとみられる。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

ブームに乗っただけの店は淘汰され、「進化のため努力する老舗」が注目される

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 そんな状況下で真価を発揮するのは、「昔からある老舗ながら、進化のための努力を続けてきた店」と田辺さんは言う。たとえ今後、メニュー価格が引き上げられたとしても、クオリティの高さが評価され、客足が途絶えることはないと考えているからだ。

「以前から消費者に支持されている人気店でも、その人気に胡坐をかくことなく、努力と工夫を続けてきた店は、着実にファンを増やし続けています。例えば、焼肉店ながら焼きもすべて店員が行い、最高の焼き加減で提供している店や、焼肉だけでなく肉の一品料理を充実させている店、肉の産地やカット方法にとことんこだわり、よりおいしい肉を提供するための研究を惜しまない店などは、客足が引きも切らない状況。半面、ブームに乗っただけで中身の伴わない店、知名度のある老舗でも努力を怠っている店は淘汰されるとみています」

「進化している老舗店」の代表として田辺さんが挙げたのは、市ヶ谷の「炭火焼肉なかはら」と、吉祥寺の予約の取れない店、「肉山」。

「『炭火焼肉なかはら』は、三ノ輪で長らく人気を集めていた焼肉店『七厘』が2014年に移転オープンした店。店主の中原さんは、実はもともと肉がそれほど得意ではなかったのだそう。だからこそ、どの厚さならば肉のうまみを純粋に味わえるのか、肉のカットについてとことん研究を重ねました。その姿勢と味が、移転後も支持され続けています」

「肉山」で供されるのは、じっくり火を通した赤身塊肉。噛みしめるたび肉の旨みが口いっぱいに広がる。

「店主の光山さんは、生まれ育った大阪生野区の定番『塩ホルモン』に注目し、この美味しさを東京の人にも伝えたいと約10年前にホルモン店を出店し、人気店に育て上げました。その後、赤身肉の魅力にいち早く注目して研究を重ね、『肉山』を出店。人気に甘んじることなく、『みんなにおいしい肉を』を追求し進化を続ける姿がさらなる人気につながり、消費者を引き付けているのです」

8,568通り、あなたはどのタイプ?

「新しいスタイル×伝統」が一つのキーワードに

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 新しい店であっても、「今までにない美味しさ」を追求している店は、支持される店に育つ可能性を秘めているという。

 田辺さんが注目しているのは、この4月に広尾にオープンしたばかりの「お肉屋けいすけ三男坊」。

「ここは焼肉店スタイルの店構えではあるのですが、ロースターが特徴的。遠赤外線でじっくり肉を焼くスタイルで、余分な脂が落ちても熱源に当たらないので煙が出ません。この方法だと、一般の焼き肉店で出るような薄い肉だとパサパサになってしまいますが、塊肉ならばベストマッチ。まるでオーブン調理したようにジューシーに仕上がるんです」

 扱う肉は、高森和牛。山口県岩国市で年間150頭のみ生産されている希少な和牛で、血統をたどると日本の在来牛であり天然記念物の「見島牛」に行きつく伝統ある牛だ。脂の融点が低いので霜降りでももたれないし、赤身は肉本来の力強いうま味がたっぷり。

「この店のような、『今までにない新しいスタイル×伝統』というスタイルは、今後の肉トレンドのキーワードにもなりそうです」

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▲田辺さん注目の新店「お肉屋けいすけ三男坊」のコースメニュー。高森和牛の魅力が存分に味わえる

中期的には「しゃぶしゃぶ」と「羊料理」の進化に注目

 2020年の東京オリンピックを見据え、中期的に注目されるのは「しゃぶしゃぶ」と「羊肉」だという。

「高齢化社会の進行に伴い、『しゃぶしゃぶで肉をあっさり食べたい』というニーズはさらに高まっており、外国人観光客からの人気も高いのですが、しゃぶしゃぶ店のスタイルは約40年前からほとんど変化していません。焼肉がこれだけ進化しているのですから、しゃぶしゃぶももっと工夫の余地があるはず。例えば、たれや食材で『ご当地しゃぶしゃぶ』を展開するなど、地域ごとに特色を出していくのも一つの方法。僕自身、しゃぶしゃぶの新たな展開方法を考えている最中です」

「羊肉」は、イスラム系の方の訪日が増える中、「ハラル(=イスラム教において合法なもの)対応」として注目される分野。

「鶏肉もハラルではありますが、羊肉のほうが日本における市場の白地部分が大きく、今後の普及余地が大。羊料理を提供する店が増えるだけでなく、羊料理のバリエーション拡大も予想され、今後の発展が楽しみな分野です」

 和牛価格の高騰は懸念されるものの、飲食店の努力や工夫は消費者にとってはうれしいこと。しゃぶしゃぶや羊肉の進化にも、大いに期待できそうだ。
 トレンドを知った上で食べるお肉は、さらにおいしく感じるかも?今晩にでも、おいしい肉料理を皆で楽しんでみてはいかがだろうか。

ゴールデンウイークは肉をガッツリ!
田辺さんプロデュースの「肉グルメ博」

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4月29日(金・祝)~5月5日(木・祝)、渋谷の東急百貨店東横店において「肉グルメ博」が開催!田辺さんが厳選した予約困難店17店が一堂に会し、自慢の肉料理&この期間だけの限定料理を提供。記事内で紹介した「肉山」も出店、希少部位であるカイノミを高温の油でさっと揚げた「牛カツ」などが味わえます(写真右上)。
※ながの東急百貨店でも「肉&グルメ博」を同時開催。4月28日(木)~5月5日(木・祝)。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭

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