今回、編集部が注目したのは埼玉県を代表するビッグタウン「大宮」。大宮は新幹線をはじめ数多くの路線が乗り入れる県下最大の商業地として知られ、「みんなが選んだ住みたい街ランキング2015」(リクルート住まいカンパニー調べ)では、首都圏全体で16位、埼玉県内では3年連続ナンバーワンという、常に安定した人気を誇っています。
文化施設、商店街、百貨店、公園など、生活に必要なものがすべてそろった街の様子を見ると「今さら、”次にくる街”として取り上げる意味はあるの?」と思うかもしれませんが、この街の進化はまだまだ終わってはいません。現在もさらなる住みやすい街づくりを目指して、新たな「再開発計画」が各所で進行中です。大宮はいったいこの先、どんな街へと変貌を遂げようとしているのか? 現在の大宮の魅力と今後の大宮の姿を、歩きながら探ってみることにしました。
歩き始める前に、まずは編集部が大宮に注目した理由のひとつである「東口と西口の再開発事業」について具体的に説明しておきましょう。
新幹線の停車駅・大宮と聞くと、ビルが林立する近代的な街並みを想像しがちですが、キレイに整備されているのは西口のみ。東口はいまだ昭和のままの姿を留めています。表通りから眺めると、さほど古い街には見えないものの、一歩奧に足を踏み入れると狭い横丁や路地がやたらと多く、老朽化した店舗や空き地が目につきます。
東口住民と行政の間では「駅前を整備し、有効活用できないものか」という議論が何十年も前から交わされていたようですが、地権者との折り合いがつかず、開発が進まない状況がずっと続いていました。しかしここ数年、ようやく再開発計画が動き始めています。
東口の再開発計画のなかでも、とくに注目を集めているのが、「大門町二丁目中地区」の再開発プロジェクト。これは「現・中央デパート」が建っている一帯(約1.4ha)を整備し、東口の新しい顔をつくろうという計画で、跡地には公共施設(市民会館)や商業施設、オフィスなどが入った18階建ての複合ビルがつくられる予定です(平成32年完成目標)。敷地内には、吹抜けのオープン空間となる「辻広場」なども整備され、住民の憩いの場、街の新たなランドマークとなることが期待されています。
「大宮駅東口まちづくり事務所」の山口所長は、東口再開発への想いを次のように語ります。
「もともと東口は物販から飲食までなんでも揃う商業地として、かつては大宮の賑わいの中心だったんです。それが西口が再開発されたことで、買い物客の流れが変わってしまった。それを再び商業地として発展させ、バランスのとれた街に戻して、お年寄りから子供まですべての人々が集える健全な街にしたい……というのが目的です。大門町二丁目の再開発はそのための起爆剤といってもいいでしょう。西口に一歩遅れをとった感のある東口ですが、今後は東口の発展にも、ぜひ期待していただきたいですね」
一方の西口は、東口とはうって変わり、駅前には巨大なビルが建ち並ぶ整然とした街並みが広がっています。ぱっと見は、開発をすでに終えたエリアに見えなくもありませんが、ここでも新たなプロジェクトが計画されています。
今まさに進行中なのが、そごうデパートの南側の一帯(西口第四地区)の土地区画整理。現在、駐車場や空き地となっている場所に、今後、公園や街路樹などが整備され、平成30年ごろには、住宅と商業施設が共存する緑豊かな地区に生まれ変わる予定だとか。
すでに第四地区の一角には、私立保育園、公立保育園、一時保育施設などを備えた子育て支援施設「のびのびプラザ大宮」が完成していて、若いママたちの子育ての拠点・交流の場として早くもにぎわいを見せはじめています。また、隣には3階建ての「市営大宮駅西口自転車駐車場」(自転車2100台・原付300台収容)も。駅から徒歩10分圏内にマンションが少ない大宮には自転車で駅に通勤する人が多いため、駐輪場が整備されたことは住民にとってはうれしい限り。
これまでは、商業地、オフィス街のイメージが強かった西口ですが、今後は住環境の面でも、より魅力的な街へと発展していきそうです。
再開発によって、これまで以上に暮らしやすい街へと進化を遂げつつある大宮ですが、現状の大宮を見ても、十分に魅力的です。まず、大宮の最大の魅力といえるのが、都心へのアクセスの利便性。私鉄を含めると大宮駅には14路線が乗り入れていて、池袋や新宿、渋谷、東京、品川などの主要ターミナル駅へは、乗り換えなしでいくことができます。
また、上野〜東京間をノンストップで結ぶ「上野東京ライン」が2015年3月に開通したことにより、東京駅までの所要時間は46分(京浜東北線快速利用時)から32分に、品川駅までは55分(京浜東北線快速利用時)から40分に短縮され、都心部や横浜方面の通勤や通学がより便利になりました。
さらに注目すべきは、大宮は新幹線の停車駅であるという点です。新幹線が止まる街に暮らすということは、出張や旅行に便利なだけでなく、新しいライフスタイルを可能にしてくれるはずだと、「スーモカウンター大宮店」の菅原友梨さんは語ります。
「大宮のカウンターにいらっしゃるお客様のなかには、都内に通勤する方だけでなく、栃木方面への新幹線通勤を考えて、物件をお探しの方も意外に多いんですよ。また、転勤の多い企業にお勤めの方で、自分は単身赴任で地方に住みつつも、家族が住む拠点となるマンションを大宮に購入したい、と希望される方もいらっしゃいます。新幹線の止まる大宮は、単身赴任の方が自宅と勤務地を行き来する際にもすごく便利なんです」
新幹線を利用すれば、大宮駅から新潟や長野へは約1時間半、仙台へも約1時間。2015年3月に開業した北陸新幹線を使えば、富山や金沢などへも2時間半程度でアクセス可能です。確かに家族と離れて暮らす単身赴任者や、出張の多いビジネスパーソンにとってこれほど恵まれた住環境は、ほかにはないといってもいいでしょう。
「地方に暮らす実家の両親と密な関係を保ち続けたい、と考えるファミリーにも大宮はオススメです。おじいちゃんやおばあちゃんに孫の顔を見せてあげたいと思ったら、新幹線に飛び乗ってすぐに会いにいけるし、逆に週末を利用して、気軽に両親を呼び寄せることもできるわけです。ちょっぴり大げさな言い方になりますが、新幹線は使い方次第では、家族みんなに幸せを運んでくれるツールにもなりえるんですよ」(菅原さん)
前置きはこれくらいにして、いざ街に繰り出してみることにしましょうか。大宮駅で電車を降りて、まず驚かされるのが、エキナカ(JR駅構内)の充実ぶりです。構内のコンコースには、総菜やスイーツ、手みやげ、レストランなど70店舗以上が入った「ecute大宮」があり、平日は22時まで営業している(一部ショップ除く)ため、会社帰りの買い物にも重宝しそうです。
また、駅直結の「LUMINE1・2」には、「ビームス」「ユナイテッドアローズ」「トゥモローランド」「ジャーナルスタンダード」など、若者に人気のセレクトショップが、これでもかっ、と言わんばかりにずらりと軒を連ねています。
かつては”ダサイタマ””ヤンキータウン”などと揶揄(やゆ)されて、いまいちパッとしない印象があった大宮ですが、そんなイメージはもはや、どこにも存在しません。都内までわざわざ遠征しなくても、駅の中を歩くだけで、今どきのおしゃれアイテムは、ひととおり手に入ってしまうのです。
改札を出ると、西口と東口に分かれますが、西と東とでは街の印象がガラリと異なります。西口は先ほど述べたように、1980年代の新幹線開業を機に再開発が進んだエリアで、駅前には「そごう」「ビックカメラ」「マルイ」「DOMショッピングセンター」「JACK大宮」など、大規模商業施設が林立する近代的な街並みが広がっています。
なかでもにぎわいの中心となっているのが「大宮アルシェ」。ここは埼玉における”渋谷109的”なスポットで、ティーン向けのアパレルブランドが多く入っているほか、地元FM局NACK5(79.5MHz)のサテライトスタジオなどもあり、いつもイキのいい肉食系女子たちで大にぎわい。
一階と地下フロアには、ゲームソフトやパソコンなどを販売する「ソフマップ」もあって、こちらは草食系ヲタ男子の牙城……。渋谷と秋葉原が同居したようなアルシェを見ると、明らかに大宮にもミニ東京化の波が押し寄せているのが感じられます。
さらに中山道方向へと1〜2分歩くと、ホールやコンベンション施設などを備えた31階建ての複合施設「大宮ソニックシティ」や、オフィスや公共施設が入った「シーノ大宮」のビル群が。この界隈にはスーツ姿のビジネスパーソンの姿も多く、西口は商業地であるとともに、オフィス街の機能も果たしていることが分かります。
では、次に東口を歩いてみましょう。東口は同じ商業地でありながらも昭和っぽいレトロ感漂うエリア。駅前には「一番街」「すずらん通り」「さくら横丁」「ウエストサイドストリート」などと名付けられた、路地や横丁が多く延びていて、戦後の闇市を彷彿とさせるような、混沌とした街並みが広がっています。
さらに東口の南側には、居酒屋やキャバクラが密集する歓楽街「大宮南銀座」が広がっていて、夕刻ともなると仕事帰りのビジネスパーソンや、地元サッカーチーム「大宮アルディージャ」のサポーターら、酔客の姿でごったがえしています。
余談になりますが、埼玉は、「大宮アルディージャ」とともに「浦和レッズ」の本拠地となっていますが、大宮の居酒屋でレッズファンを公言するのは禁物です(笑)。市町村合併により、現在、大宮と浦和は同じ「さいたま市」となったものの、昔から旧大宮市民と旧浦和市民の間にはライバル意識が強く、「県庁所在地である浦和が埼玉の中心だ!」、「いや、新幹線が停車し、街としても繁栄している大宮が中心だ!」という、マウンティング論争が今も続いているのです。南銀座で楽しく飲むつもりなら、赤いTシャツ(レッズカラー)ではなく、オレンジのTシャツ(アルディージャカラー)を着ていくことをオススメします。
西口を歩いたあとに東口を訪れると、あまりのイメージの違いに、最初は「ここがホントに新幹線の停車駅なの?」と、とまどいを感じるものの、決して居心地が悪いというわけではありません。大規模店舗ばかり目立つ無機質な西口と比べると、東口には昔ながらの個人商店も多く残っていて、人間的なふれあいやぬくもりが感じられます。
「最近ずっと顔を見せなかったけど、元気でやってたのかよ?」、「暑い日が続いてるから、スタミナのつくものを食べて夏バテに注意しなきゃ駄目だよ」などといった、温かい会話が商店街のあちこちで聞かれ、いい意味での、昭和の原風景が今も東口には残っていることが分かります 今後、東口は再開発によって徐々に変わっていくはずですが、こうした街の温かみは失わずにいてほしいものです。
地元の人は、こうした近代的な風景と、昭和の風景が入り交じった大宮を、どうとらえているのでしょう? 東口の商店街の一角で約70年前から草履店「はまや」を営んでいる店主に、たずねてみました。
「確かに西口は、昔と比べたらすいぶんキレイになったし、東口のここいら(一の宮通り)も最近は若い人向けの古着屋や美容院が増えたりと新陳代謝はそれなりにあるんだよ。でも、街が変わろうとも、住んでる人の気質は変わっちゃいない気がするね。大宮の古くからの住民ってのは、おおらかっていうのかなぁ……。古くから交通の要衝で、いろんな場所から訪れる人を当たり前に受け入れてきたせいか、他者にたいして寛容なところがあるんだよ。ちょっと足を延ばせば「氷川さま」や「大宮公園」など緑も多いし、公園を自分んちの庭だと思えば、これほど暮らしやすい街はほかにはないんじゃない。せっかく大宮に来たんだったら、ぜひとも氷川さまにもお参りしてってよ~」
「はまや」の店主のアドバイスにしたがい、さらに歩みを進めると、やがてケヤキの大木が生い茂る氷川神社の参道に到着。参道の先にはアルディージャのチームカラーと同じオレンジ色(朱色)の氷川神社の楼門が、存在感たっぷりに鎮座しています。
そもそも大宮は、ここ「武蔵一宮・氷川神社」の門前町として発展し、氷川神社を「大いなる宮居」とあがめたことから「大宮」という地名がつけられたのだとか。氷川神社の裏手には、東京ドーム14.5個分の敷地面積を誇る「大宮公園」が広がっていて、緑豊かな園内は周辺住民たちの憩いの場となっています。
広範囲に歩いてみると分かりますが、駅から離れた場所に、個性豊かな見どころや遊びどころが多いのも大宮の魅力といえます。さいたま新都心方面へと歩けば、「さいたまスーパーアリーナ」や巨大商業施設「コクーンシティ」が。北方向へと歩けば、鉄道マニア垂涎(すいぜん)のスポットとして知られる「鉄道博物館」などもあるので、週末や休日は、ファミリーで自転車に乗って郊外エリアを探索してみるのも楽しそうです。
以上、実際に大宮を歩いてみて感じた街の魅力を、まとめてみると次のようになります。
□交通至便で、都心部だけでなく主要な地方都市へのアクセスも容易。
□駅周辺は巨大な商業圏となっていて、生活に必要なものはすべてそろう。
□洗練されたクールな街並みと、人間的でエネルギッシュな街が同居している。
□郊外エリアに、ネイチャースポットや個性的な見どころが豊富。
□再開発によって、さらに住みやすい街へと進化することが期待されている。
こうやって見てみると、大宮の街としてのポテンシャルの高さがよく分かりますよね。唯一気になるのが物件価格ですが、大宮の新築分譲マンションの相場は、70㎡で4500万円程度と、埼玉エリアのなかでは若干お高めですが、都心への利便性、商業施設の充実ぶり、新幹線停車駅であることなどを考えると、納得の価格だと言えます。
最近は、「コクーン3」がオープンするなど商業施設が充実しているお隣の「さいたま新都心駅」が注目を集めていますが、さまざまな表情を持つ街という点では、大宮がまだまだ一歩リード。歴史のある街だからこそ、腰を据えて住んでみると、さらなる魅力を発見できそうです。
再開発が進行中とはいっても、大宮の未来予想図はまだ完成しているわけではありません。自分たちで街を作り上げていこう意識をもった人が多く集まることによって、街はさらに快適な場所へと進化していくはずです。開発を終えた後の街に住むのも、悪くはありませんが、開発が進む前に住み始め、刻一刻と変わっていく街を間近に見ながら暮らすのも、刺激や発見があって楽しいかもしれません。
取材・文:鈴木さや香 撮影:中村宏覚