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Mar 29 2024

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”ワルプルギスの夜”の由来は? 大阪文化館・天保山開催の『魔女の秘密展』がガチだった

宮崎駿監督の名作『魔女の宅急便』や、一大旋風を巻き起こしたアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』など、現代日本の物語にはしばしば”魔女”が登場します。海外でも『ハリー・ポッター』シリーズに代表されるように、魔法を題材にした作品が数多くありますし、グリム童話には魔術を使って人間を動物や石などに変えるような怖い魔女と出くわすことも。今ではすっかり身近な存在といえるかもしれません。
ですが、なぜ空を飛ぶ時にホウキに跨るのか? どうして三角帽子を被っているのか? ……そういった謎に答えられる人は少ないのではないでしょうか。

そのような、ヨーロッパにおける起源や歴史、現代での受容のあり方までを網羅した『魔女の秘密展』が、大阪文化館・天保山で開催中。ドイツ・オーストリア・フランスの30ヶ所以上の美術館・博物館で所蔵されている約100点の作品が展示されているほか、魔女裁判の再現や日本の人気マンガ家の原画の展示まで、”魔女”の過去から現在までを一挙に体感することができます。

※すべての画像が表示されない場合は下記URLからご覧ください。
https://otajo.jp/46472 [リンク]

大阪文化館・天保山の入口前でまず目に入るのが、大きなホウキ。黒いマントや三角帽子を着用して、”魔女”になりきって空を飛ぶような記念撮影もできるようになっています。

(アルブレヒト・デューラー ≪空を飛ぶ魔女≫ 1500-1503年 ローテンブルク、中世犯罪博物館)
(c)Mittelalterliches Kriminalmuseum in Rothenburg ob der Tauber

ところで、”魔女”はホウキでいつでもどこでも好きなところに飛んで行けると思っていませんか? この展示を監修したドイツ文学者の西村佑子さんは、「行き先を勝手に決めたり、途中下車したりすることはできない」といいます。ではどこに行くのか、というと、悪魔が催すサバト(黒ミサ)に参加するため。ヨーロッパの”魔女”は、ホウキに限らず、ヤギや豚、火かき棒にも乗って飛んでいきます。

『魔女の秘密展』では、ドイツルネサンス期に活躍した画家アルブレヒト・デューラー(1471-1528)の雄ヤギに乗った魔女の図や、空を飛ぶ効力があるという軟膏を塗ってもらっているうら若い魔女の絵なども見ることができます。これまでの魔女像とは、ちょっと違った印象を覚える人もいるのではないでしょうか。

(≪聖マグダラのマリアの誘惑≫ 1600年頃 クレムスミュンスター、ベネディクト修道会財団-美術品コレクション)
(c)Kremsmünster-Benediktinerstift

この特別展、実は2009年にドイツ・プファルツ歴史博物館で開催された特別展『魔女ー伝説と真実』を新たに構成したもの。キリスト教の枠では収まらない民間の信仰や治療、天候不順や疫病の原因として、物乞いのような弱者が魔女として迫害されてきたことなどを詳らかにしており、15世紀に猛威を振るった魔女裁判を中心に歴史的資料が充実しています。

15世紀半ばから300年間でおよそ6万人の老若男女が拷問によって自白や密告を強要されて、魔女として処刑されたといいます。
ここでは、その拷問器具だけでなく、裁判の審問官による追求を経験できる部屋や、火あぶりになる様子をプロジェクターなどで再現するコーナーもあり、その苛烈さを知ることができます。

また、安野モヨコさんの『シュガシュガルーン』や、渡辺航さんの『まじもじるるも』といったマンガの原画も展示。吉河美希さんの『山田くんと7人の魔女』のような連載中の作品も選ばれていて、作家自身のコメントも寄せられているので、ファン必見です。

(グスタフ・アドルフ・シュパンゲンベルク ≪ワルプルギスの夜≫ 1862年 ハンブルク市立美術館)
(c)CHamburger Kunsthalle /bpk Photo: Elke Walford

展示初日の2015年3月7日には、監修者の西村さんによる記念講演会が実施されました。テーマは「ワルプルギスの宴」。
こう聞くと、つい『まどマギ』に登場する最大の敵「ワルプルギスの夜」をイメージしてしまいがちですが、実はドイツ中部ハルツ山地のブロッケン山で4月30日の夜に行われるサバトのこと。この日のために、魔女たちはさまざまなモノに乗って飛んで山頂に向かうという伝説があり、しばしば物語や絵画の題材にされています。

西村さんによると、現在ではブロッケン山のふもとの村々では春を迎えるお祭りとして「ワルプルギスの夜」が開催されており、毎年さまざまな魔女のコスプレを楽しむ人達が集まっているとのこと。

グリム童話の魔女に惹かれて研究をはじめたという西村さん。「近世の欧州では、グーテンベルクの印刷技術の普及により、デマや迷信が広がりやすくなり、誰でも告発ができるようになりました。それがインターネットで誰でも発信できる現代とも通じるところがあります」と、このタイミングで魔女の歴史を紐解く意義を強調。「新しい魔女が活躍する作品も楽しいですが、その歴史も知って欲しいですね」と話します。

会場では、人形や衣装、タロットといった魔女グッズを多数販売。そのラインナップを見てまわるだけでも楽しめます。

大阪文化館・天保山での展示は2015年5月10日まで。2015年4月4日には、西洋史学者で『図説魔女狩り』 (河出書房新社)などの著書がある太成学院大学の黒川正剛教授の講演会も開催されます。

大阪の後は、新潟・名古屋・浜松・広島に巡回予定。魔女について知識を深めたいという人はもちろん、ヨーロッパのダークな歴史に関心があるという人は必見です。

魔女の秘密展(オフィシャルサイト)
http://majo-himitsu.com/

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記者プロフィール

ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営。ネット、メディア、カルチャー情報を中心に各媒体にいろいろ書いています。好物はホットケーキとプリンと女性ファッション誌。

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