福岡県福岡市のとある一戸建て住宅。ここは、減築によって2階部分をなくし、家屋全体の耐震性もプラスしたリフォーム住宅だ。子どもが独立した夫婦とその母親の3人暮らし。「これからお母様の介護や施主様も年齢を重ねていかれることとリフォーム費用を抑えたいというご要望から、2階部分をなくした減築のプランをご提案しました」。そう話すのは住友不動産株式会社新築そっくりさん戸建事業部の小野勝広さんだ。
施工するまでに、全部壊して新築にする、家の形を変えずにリフォームするといったさまざまな計画が立てられたが、予算の都合や今後のライフスタイルを考えると、2階をなくす減築が一番しっくりきた。
しっくりきたといっても、せっかくつくった2階をなくすことや、間取りが減ることへの抵抗はなかったのだろうか。
「2階のバルコニーから星を眺める時間や長年使っていた寝室をなくす生活は、なかなか想像できませんでした。それに、荷物もたくさんあったから置き場がなくなる不安もありましたね」と取材時に対応してくれた施主の妻は振り返る。「でも、ロフトをつくって天窓もつけてもらったから、天体観察も収納場所もバッチリ。この機会に断捨離もして、処分した荷物は4トントラック2台分にもなりましたよ」
小野さんによると、減築を提案しても、部屋が減って荷物を置く場所がなくなることを心配する人が多いという。しかし、荷物を置くだけのために普段使わない部屋を残すことは、客観的に見ると、それこそ「もったいない」。ならば、使わない部屋は潔く減らし、収納専用のスペースを設ける。適材適所で有効に活用することにより、掃除や家屋全体のメンテナンスの手間や費用も抑えることができるのだ。
減築は「部屋を減らして家を小さくする」「2階をなくして平屋にする」といった事例が多い。耐震性の向上や空調効率の改善が一般的なメリットとしてあげられるが、ほかにどんなメリットがあるのだろうか。2階を減築して平屋にしたMさんのお宅の場合だと、このようなメリットがあげられる。
例えば、これから家族が増えて子ども部屋を確保したい人やゲストルームを必要とする人には減築は向かないだろう。一方、同居家族が減った人や予算を抑えてリフォームしたい人にとって、今後「減築」はキーワードになる。
「リフォームを考えている方から『減築したい』という声はまだ少なく、こちらからご提案する機会が多いです。ただ、『予算を抑える=減築』ではなく、これからどんな住み方をするか、この部屋をどう使うかをきちんと評価してプランを練っていくことが大切だと考えています」と小野さんは話してくれた。
どんな家に住むかを考えるとき、否応なくこれからどう生きるかを考えさせられる。減築を選択する人は、自分に必要なものと不必要なものを見極めることができ、どことなく身軽に生きている印象を受ける。既存の家を活用するにも予算が足りない場合や好みの間取りにならないことから、妥協したまま住んだり、新築を選択したりする人も少なくない。減築は、自分らしい暮らしを手に入れるための新たな選択肢になるだろう。