東京でアナーキーな人が集う街として、その座を譲らない高円寺。中でも無法地帯と化しているのが「なんとかBAR」という店だ。
リサイクルショップ「素人の乱」店主でもあるオーナーと、何らかのつながりのある人間が入れ替わり立ち代わり店主を務める、いわゆる1日店長の店で、その歴史に名を刻んだ店主の肩書きは無職、フリーター、外国人、そして社民党党首(つまり福島みずほさん)にまで及ぶ。さらに、異質なのは店主だけではない。終電間際に訪れて突然ライムを叩き付けてくる立川在住のDJ、開店から夜明けまでエロ発言を繰り返しキッスをせがむ子持ちの女性など、推定8割5分の確率でフシギなお客さんが訪れるお店なのである!
これだけでも十二分にその異質さが伝わるかと思うが、この日とて例外ではなかった。
去る2015年7月17日、アーティストとして最近いろいろと話題となった、あのろくでなし子さんが店主を務める日があるという情報をネットサーフィンによりキャッチした私は、ある期待に胸を膨らませつつなんとかBARへと駆けつけたのである。
その期待とはもちろん、例のアレ (※自主規制!) をかたどったおつまみが出るのではないかということ!!
蒸し暑い夏の夜、家路を急ぐ人、これから飲みに繰り出す人、既に酔いつぶれている人をかきわけながら、なんとかBARのある「北中通り商店街」にたどり着いた。
近くまで来ると、なにやら既に強力な地場が発生している!!
なるほど、園子温さんの個展が開催されていたんですね。その裏に、本日のお目当て、なんとかBARの看板が。なんだかドキドキしてきます。
そして、本日の1日店長、ろくでなし子さんを発見!
この店は、夜はだいたい19時くらいからオープン(公式サイトより)というゆるい営業で、閉店時間も店主次第。そんなわけで、だいたい19時くらいに行ってみたら、ろくでなし子さんを囲みつつ、店内は早くもワイワイと楽しいムードに満ちていた。湿り気、いっさいナシ! カラッと明るいその店の奥に鎮座していたのは……
うわー!
そしてメニューも、期待通りでした!! というか、期待を超えていました!
この日は、なんとかBARで毎月第3金曜日に店主を務めるペペ長谷川さんと、ろくでなし子さんがタッグを組むイベントということで、メニューはこのような具合に。
もちろん、このメニューが毎日出るわけではありません!!
店主は自分の出すメニューを自分で決めることができ、価格設定も自由。所定の分担金を支払えば、1日店長として雇ってもらえるというシステムで、先述のオーナー・松本哉氏と知り合いであることが、店を出す条件なのだ。
ろくでなし子さんも、「先日、知人にこのお店に連れて来てもらった際、店の関係者の知人なら店長になれると聞き、私もやりたい! とノリで言ったら、その場にいたペペさんの担当の日に一緒にやることになったんです」と話す。なんと、このキテるイベント、開催が決まったのはたった2週間前だったそう!
それでは、普段は絶対に口にしない言葉をテーマとしたおつまみの数々に、しばし酔いしれてください。
まず運ばれてきたのは、こんな3点セット! 楕円型のいかくん(ろくでなし子さん曰く“ビラビラしたヒモ”)に、穴状のおせんべいの真ん中にチーズをぎっしり詰め込んだおかき、そして、どこか郷愁を誘う響きのマンゴーだ。
まずは隣り合わせたお客さんとカンパイ! この方はろくでなし子さんのファンの方で、この店には初めて訪れたそう。
そのお隣には、ろくでなし子さんの裁判にあたり署名を集めていたというお姉さんも! いきなりのフルスロットルだ。
そして、先ほどからチラチラと見えていたのでもしやと思ったのだが……
そう、これが噂のおむすび! この日一緒にお店をやっていたお姉さんが心を込めて握ったモノだそう。開店後まもなく、500円から300円に値下げするという粋なはからいも!
なんだか嬉しくなってきましたー。
食べてみると、思いのほか優しい味付けのケチャップライスだ。キレイなやつじゃなくて大丈夫ですよ〜とお伝えしながら出していただいたのだが、なかなかどうして優しい色合いです。
続いて、本日の店主の一人であるペペさんのメニューもいただいてみる!
「貝シリーズ」と題されたそのラインナップの中に、「おすすめ!」と銘打たれたホッキ貝の刺身があったのでさっそく注文。さらに、女性の貞操の象徴でもあるハマグリの酒むしもあったので、もう今日はとことんアレな1日にするべく、追加注文してみた。
ペペさんは寿司も握るそうで、「どこで料理を覚えたんですか?」と聞くと「……YouTube!」との自信にあふれた答えが返ってきた。
そんなわけで、店員を務めていた女性が、スマホでYouTubeを見ながらホッキ貝を開くことに!
しかしうまく行かず、しばらく貝はカウンターの上に置かれくたーっとしていた。
そして、いよいよご開帳の時が……ペペ氏が「きょう一番のイベントだよーっ!」と叫ぶと、店内のお客さんが集まってくる!
いよっ!
ご開帳〜! すかさずスマホでこの光景を収める面々。
店内にはろくでなし子さんの著書『わたしの体がワイセツ?!』を編集した女性や、
あの『完全自殺マニュアル』の著者、鶴見済さんもご来店していたり
「本日のDJ」と紹介された、常連のDJ男性(帰国子女)がセネガルのハードロックを聞かせてくれたり、「いま『ぼぼんぐわァ』という映画の宣伝をやってまして……」と語る謎の青年ともカンパイしてみたり
写真NGが出てしまったものの、越路吹雪の「ろくでなし」をBGMに踊り狂う男性もいたり(この写真はその跡地)……と、お客さんもなんだかやっぱりどうかしてる!!
農業を営むお客さんが誇らしげに差し入れた、パックリ割れたにんじんと、まるまるとしたプチトマトが、この日の朗らかな喜びを象徴しているかのようでした。
お店情報
なんとかBAR
住所:東京都杉並区高円寺北3-4-12
電話:なし
営業時間:昼:だいたい12時〜、ない日もあり 夜:だいたい19時〜終電くらい、ときには翌日夕方まで
定休日:不定休
書いた人:増山かおり
1984年、青森県七戸町生まれ。東京都江東区で育ち、早稲田大学第一文学部卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに。『散歩の達人』(交通新聞社)、『LDK』(晋遊舎)、『New Roses Web』(産経デジタル)などで執筆。著書に『JR中央線あるある』(TOブックス)、『高円寺エトアール物語~天狗ガールズ』(HOT WIRE GROOP)。