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地震・豪雨…防災対策、大丈夫?
やまくみさん正方形
山本 久美子
2014年2月2日 (日)

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

マンション耐震改修の事例(写真撮影:筆者)
写真撮影:筆者

東京都では1月11日~25日の期間、都民の建物の耐震化への取り組みの重要性を訴えるために「2014 冬 耐震キャンペーン」を展開していた。その一環として、マンションの「耐震改修事例見学会」が開催されたので見学してみた。

マンションの耐震改修とは?

まず、マンションの耐震改修について、基本を理解しておこう。
耐震改修は、最初に耐震性能を評価し、耐震補強の要否を判定する「耐震診断」を行い、その結果補強が必要とされた場合に「補強設計」を作成し、その設計に基づいて「耐震改修」を実施する手順を踏む。地方自治体によっては、診断、設計、改修のそれぞれで補助金を用意している場合がある。

耐震補強の方法はさまざまある。考え方としては、耐震壁を増やしたり、柱を補強したり、柱周りに隙間を設けて揺れを逃がしたり、鉄骨ブレースと呼ばれる筋交いのようなタスキ掛けの鉄骨を挿入して補強したりして、耐震強度を上げる方法のほか、制震ダンパーや免震装置を組み込むことで地震の揺れを低減させる方法がある。

今回のマンション耐震改修事例見学会は、1月16日(蓮根ファミールハイツ)と17日(クラウンハイツ)の2回、各20名の定員で開催された。いずれも、制震ブレース工法を中心とした改修を行った事例。制震ブレースとは、地震の揺れを低減する摩擦ダンパーを組み込んだ鋼管ブレースのこと。鋼管の直径が約19㎝と細く、採光や通風への影響が少ないのが特徴。

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

【画像1】クラウンハイツ耐震改修前の外観(写真提供:青木あすなろ建設)

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

【画像2】バルコニー側に取り付けた制震ブレース。クラウンハイツでは、制震ダンパーをウグイス色に着色した(写真提供:青木あすなろ建設)

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

【画像3】クラウンハイツの断面図。3~9階は赤色で示されている外付け鉄骨フレームに青色で示されている制震ブレースを挿入。1~2階は枠付鉄骨ブレースと耐震壁で補強した(画像提供:青木あすなろ建設)

制震ブレースによる耐震改修事例

筆者が耐震改修の事例として見学したのは、江戸川区にあるクラウンハイツ。総戸数34戸、9階建ての分譲マンション(1~2階はテナントオフィスと駐車場)だ。1~2階(テナント部分)は在来工法による鉄骨枠付きブレース補強4カ所、鉄筋コンクリート耐震壁4カ所、3~9階(居住階)は制震ブレース補強21カ所、袖壁新設28カ所の工事で、耐震補強した。

クラウンハイツは、1~5階がSRC造、6階以上がRC造と6階部分で構造形式が切り替わる。それにより、6階の耐震強度が最も低かったため、制震ブレースの本数が多くなっている。改修前は構造耐震指標(Is値)の最も低い6階が0.30だったが、補強後は震度6~7程度の地震でも倒壊する危険性が低い0.6以上になった。

改修設計は江戸川建築設計協同組合が、施工は青木あすなろ建設が担当。この工法を採用したのは、敷地などの状況から採用できる工法が限られるなか、管理組合が提示した以下の条件をクリアしたからだ。

・居住者が転居せずにいながら補強工事を実施できること
・補強後の使用環境に支障がないこと(鋼管が細いので開口部への影響が少なかった)
・工事中の騒音や振動が小さいこと
・修繕積立金と江戸川区からの工事費の補助金でまかなえること

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

【画像4】バルコニーの外に設置した制震ブレース。もとは段違いのバルコニーだった。右側の手すりが従来のもの、真ん中の突き出た構造体が元のバルコニーの一部で、床を伸ばして左側の手すりを取り付けた(写真撮影:筆者)

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

【画像5】室内からバルコニーを見た様子。思ったよりは目障りにならなかった(写真撮影:筆者)

マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した

【画像6】1階部分の耐震補強の事例。鉄骨枠付きブレースで補強し、その上に簡易な壁でおおい、見えないようにしている(写真撮影:筆者)

約7カ月の工事期間を経て、2011年2月末に耐震改修が終わった。東日本大震災の前に完了していたので、「地震で以前のように建物のきしむ音がすることもなく、耐震補強をしていて本当によかった」という声があったという。

分譲マンションの場合は、多数の区分所有者の合意形成が必要となる。耐震改修工事費用は、約1億3000万円。耐震改修が実現したのは、修繕積立金と補助金で工事費用を支払えたという点が、大きなポイントだ。また、理事長のリーダーシップで合意形成をまとめたこと、騒音の生じる工事を1日おきとするなど、居住者への丁寧な配慮をしたことなどもポイントのようだ。

急がれる旧耐震基準のマンションの耐震化

南関東で、今後30年以内にマグニチュード7クラスの地震が発生する確率は70%といわれている。阪神大震災では、倒壊した建物の多くは、1981年の建築基準法改正前の構造基準(旧耐震基準)で建築されたものだったことから、旧耐震基準の建物の耐震化が急がれている。

そのために、東京都は区市町村が行っている耐震診断・改修事業費の一部を負担したり、耐震化の相談窓口の設置や耐震改修工法の展示会、イベントなどの開催をしている。

また、東京都では巨大地震に備えて、「東京における緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を施行した。これは災害などの緊急時に救助のためなどの通行を確保するために、指定された道路の沿道にある建築物については、耐震化の状況を報告し、耐震診断を義務化するもの。マンションもその対象となる。

2014年の耐震キャンペーンでは、マンションの管理組合や賃貸マンションのオーナーを対象とした、マンション耐震セミナーや耐震改修の事例見学会などが実施されている。事例見学会の目的について、東京都 都市整備局 市街地建築部 耐震化推進担当課長の小林秀行さんは、「東日本大震災以降、都民の方の防災意識が高まり、マンションの耐震診断を実施される事例が増えています。診断の結果、耐震改修を検討される方々が、実際の耐震改修の事例を見学されて理解が深まることで、耐震改修を支援をしよう考えています」と語った。

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