8. 暴走するスティーブン
スティーブンが、母親のリンダを罵倒します。
「消えろ、ババァ!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」
その一喝にビビったリンダは、走って逃げました。
「ふん、俺に親なんていらねえんだよ・・・」
そう言ってスティーブンはタバコを吹かしました。
廃ビルでのスティーブンの暮らしは、退廃を極めるものでした。
生活費の捻出方法は、すべて転売。人気のあるコンサートのチケットを予約でゲットして、売り切れになってからファンに倍額で売るというもの。得た利益はすべて暴飲暴食などに費やされました。
しかし、平穏な生活は突然、終わりを遂げます。
「大変だ!」
不良仲間のボブが血相を変えて廃ビルにやってきました。
「ジムが下手を打ちやがった! ローリング・ストーンズのチケットを転売しちまったんだよ!」
「な、なんだって!?」
辺りがざわつきます。転売行為には不良グループごとに「縄張り」があり、グループごとに転売するバンドが決められているのでした。
「もうじき愚裏威怒(Greed、強欲)の奴らが殴りこみにくるぞ!」
スティーブンたちがいるグループの「禍絶捨盗呂降炒(Catastrophe、破滅)」はグレイトフル・デッドが担当バンドで、それ以外のバンドに手を出すことは「戦争」を意味していました。
スティーブンは足がガクガクになり、震えが止まりませんでした。ケンカをしたことなかったからです。
「そうだ!」
スティーブンは廃ビルを飛び出しました。
9. 武器を調達しよう
父親のビクターはいつものように家でジャズを聞いていました。椅子に深く腰かけ、マイルス・デイビスのソロを楽しんでいました。
ガチャ ガチャガチャ ガタンッ
何度も聞いたはずなのに、聞き覚えのない雑音が混じります。いったい何だと身体を持ち上げました。
スティーブンが、ビクターの机の引き出しから拳銃を取り出していました。
「な、何をするんだ、お前!?」
「うるせぇっ!」
ダーン!
スティーブンは頭上に威嚇射撃をすると、拳銃を持って走って逃げました。
10. お前の信じた道を進め!
スティーブンが廃ビルに戻ってくると、仲間たちは戦闘の準備を終えていました。
金属バットやナイフ、マシンガン。それぞれが武器を構えています。
スティーブンも拳銃を握りしめました。
「オラァァァァァァァァァ!」
パラリラパラリラ〜! 爆音でエンジンを鳴らしながら、愚裏威怒が攻めてきました。
スティーブンは物陰に隠れて、隙間から愚裏威怒の連中に拳銃を向けます。
「照準を合わせて、引き金を引くだけ・・・」
そうつぶやいても、どうしても引き金を引けません。
「そこにいやがったか!」
後ろから声がしました。振り向くと肩に「愚裏威怒」とタトゥーの入った大男が斧を持って立っています。
「死ねぇぇぇぇぇぇええええ!」
斧が振り下ろされ、鮮血が飛び散りました。
しかし、それはスティーブンの血ではありませんでした。
「スティーブン、気をつけろ!」
「父さん!?」
スティーブンを覆うようにビクターが立っていました。背中に斧が突き刺さっています。ビクターはジャズで鍛えた勘で、息子の危機を察知したのでした。
そして、その斧を自分で引き抜き、大男をぶった斬りました。
「ぎゃあっ!」
大男が叫び声をあげながら倒れます。ビクターも血を噴き出しながら崩れ落ちました。
「父さん!」
スティーブンはビクターを抱きかかえました。足元には血だまりができていきます。
「スティーブン・・・」
息も絶え絶えにビクターが言います。
「おまえの・・・信じた道を進め・・・」
そうしてビクターは命を落としました。
(つづく)
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