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「福島の外部被曝線量は高くない」 高校生執筆の論文が世界で話題に

福島は他の県や国に比べて高いのか。高校生の素朴な疑問は他に類を見ない研究に。

福島の高校生は被曝線量が高い?

福島第一原発事故が起きた、福島県の高校生と、他県、他国の外部被曝線量はどれだけ違うのか。福島高校の生徒を中心に216人のデータを比較した英語の研究論文が昨年11月、専門誌に掲載された。オンライン版は無料で公開されており、全世界で3万ダウンロードを超えている。

執筆した福島高校3年の小野寺悠さんと、論文執筆をサポートした東京大大学院の早野龍五教授(物理学)が2月8日、日本外国特派員協会での会見後にBuzzFeed Newsの取材に応じた。

発端は素朴な疑問

論文執筆プロジェクトの発端は小野寺さんら高校生たちの素朴な疑問だ。

「福島県で生活する私たちの被曝線量は国内の他の地域や、他国と比べて高いのか」

小野寺さんたちは、実際の生活パターンから測ってみたいと考えた。1時間ごとの外部被曝線量を調べることができる個人線量計「D-シャトル」を使えば、それが可能になる。福島高校の教諭のつながりや、事故後に高校で特別講義をするなど交流を深めていた早野さんら科学者のネットワークを使い、比較研究の土台を作り上げた。

福島市周辺、いわき市など沿岸部、そして会津と県内各地から6高校、神奈川県や広島県など国内6校、フランスからは40人、ポーランドから28人、ベラルーシから12人の高校生、教員が参加した。教員も含めて協力者は216人に及んだ。

調査に参加した216人は2014年6月〜12月の期間中、原則として2週間、線量計をつけて生活した。どこにいたか日誌もつけてもらった。データをもとに年間の被曝線量を換算すると、差はごくわずかだった。集団の真ん中にあたる中央値で比較すると、福島県内では0.63〜0.97ミリシーベルト、県外では0.55から0.87ミリシーベルト、海外0.51〜1.1ミリシーベルトだ。

フランスの高校生が発した一言「福島に人は住んでいるのか」

英訳など論文をサポートした早野さんには忘れられない問いかけがある。2014年、フランスの高校生からこう質問された。

本当に福島に人は住んでいるのか

確かに、原発周辺の地域は人が戻っていないが、小野寺さんが住む福島市内も沿岸部のいわき市も、郡山市も、そこで暮らしている人たちがいる。

「その高校生は無邪気に聞いている。だからこそ問題は根深い。広島や長崎と同じように、福島の高校生が成長して海外に行くたび、同じ質問を投げかけられるのではないか。その時に大事なのは、しっかり根拠を持って、発信できる力をつけることだ」

そう考えた早野さんは、論文の英訳は手伝ったが、基本はすべて生徒たちに委ねた。

「客観的な根拠と事実から判断する」

専門誌掲載にあたって、査読者から「なぜ2週間の記録で、年間の被曝量に換算できるのか」という質問があった。早野さん自身は答えなかった。「日本語でいいから、回答を考えてほしい」。小野寺さんにボールを投げた。

小野寺さんの回答はこうだ。「高校生がデータをとった2週間は、朝起きて、登校し、授業を受けて下校するという高校生の基本的な生活を送っているときに計測したもの。1年間で換算しても問題はない」

小野寺さんは、論文執筆を通して学んだことがある。

「計測の結果、線量が高かったとしても、公表していました。データは計測するだけでなく、公表して、みんなで考える。リスクがあれば、それを回避する方法を考えればいい。客観的な根拠と事実に基づいて、判断することが大事なのだと思います」

「伝統になってほしい」

震災発生時、中学1年だった小野寺さんは一時的に親族を頼って関東に避難した。父親の指示で、室内でも放射線量の低い場所で生活していたという。その頃、早野さんはTwitterで原発事故や放射線について発信を続けていた。来年には定年を迎える。

もうすぐ震災から5年。取材の合間に「福島高校の伝統になるといいな」と早野さんがつぶやいた。

「科学の方法をつかって考えること、福島から情報を発信すること。高校生から考えること」。それが早野さんが願う「伝統」だ。