アノお出汁を……
「玉子サンド」「自由軒のカレー」「蒸し寿司」と続いた我々の料理解析ツアー。ひと息ついて、居酒屋でマッタリしています。
「なんか忘れてない?」と妻。
「うん、なんか忘れてる」と私。
「私ちょっと、憧れがあってさ。ずいぶん前の毎朝やってた某ドラマで登場した関西のお出汁」
「ああ〜!」
「うろ覚えだけど、昆布にお酒を塗って、焙ってっというやつ……」
「そういえば大阪に来て関西出汁をちゃんと楽しんでないよね」
「うん」
「やっぱりうどんかしらん」
「いや、ちょっとベタなのは外して『肉吸い』と『かやくごはん』ってどう?」
「ほほう」
「肉吸い」をいただく
というわけで翌日の午前中、大阪は千日前のとあるうどん店へ。
「肉吸い」発祥となったお店だそうです。なんでも吉本新喜劇の座長を勤めていた某芸人さんが、二日酔いでご飯を軽くしたかったために肉うどんのうどん抜きを頼んだことが「肉吸い」の始まりだそうです。
いわゆる関西風の澄んだ汁に牛バラ肉がどっさりと入り、上にたっぷりのネギをちらして中に半熟玉子が一つ、というシンプルな作り。
玉子かけご飯と一緒にいただくのが定番の食べ方。
見かけとは裏腹にかなりこってりとした味。これは確かにご飯と一緒に食べた方が良い感じです。
「お昼にちょうど良いとして、二日酔いには逆に辛いかも……」
「うん、これはむしろうどんが入っていた方があっさりしてたかな」
「味付けはカツオ節と砂糖って感じかなぁ……」
この日は最初から強烈なボディーブローをくらった感じです。
「いやあ、お腹いっぱい」
「美味しかったんだけど、ガツンとくるね」
とかなんとか夫婦で話しながら、腹ごなしにと大阪の街を歩きます。
ランニングシャツで走ってるデカい看板とか、河でプカプカ浮いてるデカいアヒルとかを見物。
あれ!? ナンの事だかサッパリですか?
お次は「かやくごはん」ナリ
さてお腹もこなれてきた所でかやくごはんのお店です。
小耳に挟んだ所では有名な作家先生が愛したお店(実際には事前にその先生の著作を読んでから行ったんですけどね)。
おお、麗しい感じの「かやくごはん」です。
里芋煮やカレイの煮付け、お味噌汁やはまぐりのすまし汁などと一緒にいただきます。
そこはかとなく深い味わい。そしてホッとする。
大阪の「かやくごはん」は、具がわからないくらい細かく刻んであるのが特徴。ごぼう、油揚げ、コンニャクなどが入っているのがわかります。出汁がしっかりと効いていて、やはり昆布とカツオでしょうか。
実は「肉吸い」を食べてから色々歩いたとは言え、かなりグロッキーに近い感じでこのお店に入ったんですが、スルリと食べてしまいました。
イメージでは関西の出汁はもっと砂糖とか使って甘めの味付けかと思っていたのですが、意外にも昆布とカツオのアッサリとした味。でも奥の方にほんのりとした甘さが感じられます。
妻も「コレは再現するの難しそうだな……」
となりながらもさっそく食後に黒門市場へ昆布を買いに。
お店の人に聞いてみると大阪で出汁をとるのだったら「真昆布(まこぶ)」と教えてもらったので、それを購入しました。
東京で試作
で、東京の自宅にビューンと戻ってさっそく試作です。
最初に大阪で買ってきた「真昆布」を使ってしまうともったいないので、まずは普段使っているいわゆる「かつお風味の顆粒だしの素」で作ります。
で、「かやくごはん」と
「肉吸い」を試作。
「あれ?」
「ん? どうしました? マズイ?」
「いや、大阪の味とは違って東京風になっちゃってるけど……すごく美味しい……」
「え!? ……まさか大阪で食べたのよりも?」
「あ、いやまあハハハ、ほら、そうは言っても帰ってきて久々に我が家の味付けだからさ、ハハハ、やっぱり落ち着くっていう……」
「そ、そうだよね、アハハ」
「うん、やっぱりちゃんと再現しなきゃね」
「うん」
とまあ一瞬やばい空気になりかけたのですが、気を取り直して妻が再現してくれました。
さっそく出汁作り
出汁の材料は
- 真昆布 10cm×10cm2枚
- 酒 適量
- カツオの削り節 20g
- 水 約2ℓ
まず、真昆布にキッチンペーパーでお酒をまんべんなく塗る。
コンロの火で両面を焙る。
約2ℓの水に一晩漬ける。冬場なら冷暗所に、夏は冷蔵庫に。
次の日鍋にあけて火にかけ、沸騰したら昆布を取り出す。
削り節を入れて、再び沸騰したら火を止めて、削り節が沈むまでそのまま放置。
削り節が沈んだら
ザルでこす。
これで出汁の完成です。
何度か実験を繰り返して思ったのですが、真昆布からちゃんと出汁をとると、作っている最中にすごく良い香りがするのです。
これはもう試してもらって各自で感じてもらうしか無いのですが、嗅ぐとなんとも言えない多幸感が……。
う〜ん、ニルバーナでございます。
ちなみに昆布と削り節は2番出汁がとれるので捨ててはいけません。
残った真昆布と削り節に水1ℓを入れ、火にかけて沸騰したら弱火にし10分くらい煮たら出来上がり。
右が一番出汁で左が二番出汁です。
さらに残った真昆布とかつお節は佃煮風にして頂けますのでとっておきましょう。
「かやくごはん」を炊くぞ!
「かやくごはん」米2合分
具材はどれも細かくみじん切りにして
- ごぼう 大さじ 2杯分
- 糸こんにゃく 大さじ 2杯分
- 油揚げ 1/2枚
大体の目安で、後はお好みで増やしたり減らしたり。
炊く時は米2合に対して
- 出汁 360cc
- 酒大さじ 1杯分
- 薄口醤油大さじ 1杯分
- 塩小さじ 1 杯分
- みりん大さじ 1/2杯分
ごぼうの皮を削いで
細かくみじん切り。
糸こんにゃくのアク抜き。
よく水で洗い沸騰したお湯で3分くらい煮る。
水で冷まして、
やはり細かくみじん切り。
油揚げもみじん切りにして、
炊飯器に研いだ米2合分を入れ、出汁360ccを入れ、
各具材と調味料を入れて炊きます。
単純に材料を全部炊飯器に入れて炊いちゃえば良いんです。
「肉吸い」を作るぞ!
炊いてる間に「肉吸い」を作ります。
材料は丼2杯分で
- 出汁 約400cc
- 牛うす切り肉 約100g
- 豆腐 1/2丁
- 青ネギ 適量
調味料は
- 薄口醬油 小 1杯分
- みりん 大さじ 1杯分
- 塩 ひとつまみ
青ネギを斜め切り、
豆腐をさいの目切りにして、
牛うす切り肉をしもふりし(沸騰したお湯にさっと通す)、食べやすい大きさに切る。
出汁を温め、肉と調味料を入れ、
豆腐を入れ、
最後にネギを入れて出来上がり。
「かやくごはん」と「肉吸い」が完成!
じゃじゃーん!
出来上がりましたね。
うん、たしかに大阪で食べた味にそっくりです!
若干、「肉吸い」が上品な味付けになったかな、といったところですが、まあ胃にもたれなくて良いです。
そこはかとなくホッとする味。やっぱり、ちゃんと出汁をとって大正解です。
この出汁はどんな鍋にも、味噌汁にも、そしてもちろんうどんにも合います。当然ですね。
あ、関西出汁にそばは合わないのか?
我々はやりませんでしたが、誰か試してみて下さい。
と、いったところで、しばらく経ったある日。
「また作ってくれない?」
「了解〜」
ちゃきちゃきと作ってくれる妻。
「あれ、なんか忘れてない?」と私。
「うん、なんか忘れてる」と妻。
「なんだろう?」
「ああ!!」
「なに!」
「『かやくごはん』……出汁じゃ無くって水で炊いたぁぁぁぁぁ…」
ま、作っちゃったもんはしょうがないです。「肉吸い」もあるし、他におかずもあるしなので、頂いてみましょう。
「かやくごはん」パクリの
「肉吸い」をズズズ。
「あれ? コレ美味しいよ」
「え? ほんと?」
「『肉吸い』と一緒に食べるならこの方が旨い」
そうなのです。どちらの料理にも関西出汁を使うとダシダシで、同じ味になっちゃうので、一緒に食べるなら「かやくごはん」には出汁を使わない方が断然合います。もともと油揚げだけでも良い出汁が出ると言いますし。
まあ、ちょっと何かがアレな結果ですが。
出汁を使うなら、メインの1品ぐらいにしとけってことですかね。
ちなみに、出汁入れないバージョンの「かやくごはん」は酒大さじ 1杯分、薄口醤油大さじ 1杯分、塩小さじ 1杯分。そして具にはニンジン 1/3本分を足しています。
さて、こんなところで4回に渡ってお送りした【料理解析】~旅情編、完結でございます。
「なんか忘れてない?」と妻。
「うん、なんか忘れてる」と私。
「せっかく大阪行ったんだから、何かこう……ナニかしら」
「う〜んそうだねぇ、何かが……」