猫の飼育に関する誤解や偏見は大家さんに限らず、住宅の設計者や仲介、管理を行う街の不動産会社、分譲マンションを建設・販売する大手不動産会社など不動産・建築関係者でも少なくないように思います。
不動産・建築関係者の猫に対する誤解や偏見をなくす第一歩は、猫の習性をもっと知ってもらうことです。特に、二次元的な犬の動きに対して、猫は三次元で動く、つまり立体的な空間を使う動物である点を理解することが大事です。
高いところから見下ろすのが好きで、脱走の名人でもある猫は、犬の場合より設計上・管理上の工夫が多く必要になるからです。特に、完全室内飼いが前提になりますから、室内を立体的に動ける環境にしてあげたいものです。
一戸建ての注文住宅なら、猫の習性に詳しい設計者と一緒に理想的な住宅を建てられるかもしれません。しかし、不特定多数の顧客を想定して採算重視で建てられる賃貸住宅や分譲マンションでは、ペット飼育可やペットとの共生を売り文句にしていても、犬はともかく猫の習性に無頓着としか思えない設計のものが少なくないのが現実です。
実は、猫と暮らす際に最も気をつけないといけないことは、逃走防止のための工夫です。
猫は新しい環境に敏感で好奇心が旺盛です。特に外への興味が強い生き物なので、隙さえあれば外に逃げてしまう恐れがあります。逃走経路になる玄関、窓、ベランダやバルコニーにはフェンスや網戸などを設置して飛び出しを防ぐことが、結果として屋外のさまざまなリスクから猫の命を守ることに繋がります。
犬なら逃げられない構造でも、猫なら簡単に脱走してしまうことがあるので注意が必要です。NPO法人東京キャットガーディアンでも、人の出入りする瞬間を狙って猫カフェスペースから脱走する名人がいます(室外や屋外には出られないようになっています)。もちろん、個体差があるので、そうでないおっとりした猫や外に出ることに臆病な猫もいるわけですが。
ペット共生をうたう一戸建て住宅でも、設計者がこのような猫の習性をまったく知らないでつくった残念な中庭がありました。少しでも外に出してあげたい優しい気持ちは理解できますが、猫の場合は壁や塀で囲まれた中庭といえども安心できません。まして、そこに高木を植えるなどもってのほかです。
犬なら壁や木は登れないので大丈夫ですが、猫は木に登ってやすやすと脱走してしまいます。また、高い板塀で囲ってあっても、板が横組みで隙間があると爪を引っ掛けて登りますから、縦組みにしたり隙間をなくしたりする工夫が必要です。
さらに、逃走防止だけでなく、高い場所からの転落リスクにも気を配る必要もあります。アニメなどの影響でしょうか、猫は高いところから落ちても綺麗に着地できるイメージがありますが、高い場所に登るのは得意でもそこから垂直に飛び降りるのは苦手です。
実際に2、3階程度の高さから落ちて大怪我をしたり死んだりすることもあるそうです。転落防止のためには、ベランダやバルコニーに出さない工夫が第一ですが、万一出てしまった場合に備えて、逃走と転落を防止するネットやフェンスを張るなどの対応が必要です。
部屋を猫仕様にリフォームする際、キャットウォーク(猫用の通路)と昇り降りのためのキャットステップ(猫用の階段)の設置を指示したら、飾り棚のように綺麗に表面加工した化粧板が取り付けられたケースがありました。
ネコ科ではチーターだけが爪をスパイク代わりに使って走りますが、他のネコ科の動物は歩くときや走るときには爪を隠すので、床が滑りやすければ肉球があるとはいえ滑ることがままあります。特に、毛足の長い猫や足腰の弱った高齢猫はそうです。結局、滑りにくいよう紙やすりで化粧板の表面を削らざるをえませんでした。
このほか、植栽部分に飾り砂を敷いたため、野良猫に格好のトイレを提供してしまったマンションがあります。猫は排泄後に砂をかけて自分の臭いを消そうとする習性があり、砂場をトイレにすることが多いからです。また、マンションの平置き駐車場に野良猫が集まるようになったため、管理員が手製のフェンスをつくって侵入を防ごうとしたものの、何度継ぎ足して高くしても猫の侵入を防げなかった例もあります。
用心深い猫からすれば、車やフェンスの陰から外を見通せ、普段あまり人のいない駐車場は絶好の隠れ場所です。少しでも爪が引っかかるなら高いフェンスでも登ってしまいますし、フェンス以外の侵入路があったのかもしれません。
このような猫の習性については、猫を飼ったことがない人にとっては理解するのがなかなか難しいでしょう。しかし、習性を理解しないまま家をつくってしまうと、猫の命に関わることでもありますので、設計は習性をよく理解した人が行うべきです。今回は失敗例を紹介しましたが、次回はペットと人がうまく共生している事例をご紹介しましょう。
※次回は2015年11月10日(火)の予定です