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☆フラカンの日本武道館完売マニフェスト・鈴木圭介編レポート
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47都道府県ワンマンツアーの合間を縫って開催された武道館完売記念講演会。講師たっての希望により、池袋にある元小学校の教室にて行なわれた。3年B組となっている会場に入ると、黒板の日直のところには、加藤優(金八先生に登場する生徒の名)と記されている。しかし! 黒板の真ん中には「本日、金八先生のコスプレはありません」との文字。正攻法でいくようだ。
開演時間となり、お手製の出席簿とプリントの束を抱えた講師・鈴木圭介が教室に入ってくると受講者からの温かい拍手が。そして出欠をとるところから講演会はスタートした。
*出席簿には、もちろん3年B組の文字
今回の講演テーマは、ずばり〈フラカンの歌詞について〉。「歌詞は見るものでもなく、聞くものでもない」と言ったあと、〈歌詞はあびるもの〉と黒板に力強く書き記す鈴木先生。ここまではかっこよかったのだが、なぜか〈あびる〉のあとに〈優〉と書き足してしまう……まあ、らしいと言えばらしい。そして歌詞の傾向として様々な単語をみずから書き出したあと、みずからコンビニで30人分せっせとコピーしたという講演資料を元に、該当曲をラジカセで流しながらの講話が進んでいく。
*こちらがお手製の講演資料。お馴染みの犬のイラストの横には、猫。昨今の猫ブームを意識してのもの(笑)
*みずから歌詞の傾向として単語を挙げていく先生
今回、取り挙げられた楽曲を列記すると、「裸のブルース」「モンキー」「さっぱり行進曲」「むきだしの赤い俺」「冬のにおい」「深夜高速」「日々のあぶく」「心の氷」「東京ルーリード」の9曲。持参した最新の歌詞ネタノートを見せながら、常に手書きで、書き直しのたびに新たなページに書き込んでいく、という歌詞の制作方法や、経験、年齢を重ねていくうちに、当たり障りのない、核心のみえない歌詞になりがちだが、〈恥ずかしいことを書いたもん勝ち〉〈恥部をどこまで晒せるか〉という教えを与えてくれた、すでに鬼籍に入られた元レコード会社スタッフとのグッとくるエピソードを披露。
また、「我ながら天才だと思った。フラカン版〈雨上がりの夜空に〉」と自画自賛の「むきだしの赤い俺」の冒頭のフレーズ〈皮をむいて欲しいの〉について図説をし始めるも途中で挫けたり、「深夜高速」は、中島らも氏の小説の一節からインスパイアされて書いたことや、〈立ち喰いそば屋のだしの匂いが/うっすら染みつくシャツのえりを立てて〉という「東京ルーリード」の一節は、ずっとあたためてきたフレーズだったことなど、それぞれの歌詞にまつわる裏話や秘話、エピソードを〈あびる優〉的なオヤジギャグを交えながら語っていったのだった。
その後、歌詞からみたフラカンの〈結婚式で唄えるラヴソング〉(全7曲。「君のこと」「落ち葉」「カルフォルニア」「馬鹿の最高」「初恋」「いろはにほの字」「はじまりのシーン」)と〈色艶歌〉(全9曲。「むきだしの赤い俺」「プラスチックにしてくれ」「雨よ降れ」「くるったバナナ」「小さな巨人(ジャイアント)」「台風8号」「JUMP」「MILK SOUL BLUES」「ダイナマイト・ブルース」)の話をしたところで予定時間終了。講演中、何度も〈性〉と黒板に書き重ね、最終的に〈性交〉と書いた瞬間、失笑を通り越し教室に静寂が訪れたりもしたが、「歌詞というものは、誰でも書ける非常に簡単なものなので、ぜひみなさんも機会があったら書いてみてください。そして、初めて歌詞を書く人がどんなものを書くのか非常に興味があるので、ぜひ僕に教えてください。最近じゃなかなか自分の中から言葉が出てこなかったりするので(笑)」という話で90分に渡る講演会を締めくくった。
*受講修了書代わりのサイン色紙を、卒業式の金八先生のように感慨深げな顔で手渡す
最後は、これまたみずから用意したBGM(贈る言葉 by 海援隊)とともにひとりひとりに手渡した色紙には、武道館で「孤高の英雄」の〈がんばれ圭介〉の部分を唄ってもらった感謝の気持ちを込めて、〈がんばれ〉のあとに参加者それぞれの名前を入れたメッセージが書かれていた。
*教室後方の黒板には、鈴木先生からのお礼のメッセージが
*講演を終えて、ほっとひと安心の鈴木先生
無事、初講演を終えた鈴木先生と、この日、彼の勇姿を見届けにきたリーダー・グレートマエカワとともに、さっそく講演会打ち上げという名の反省会の模様はこちら。
——講演会お疲れ様でした! 初講演、いかがでしたか?
鈴木「あっという間だったね。時間足りなかった。メインの歌詞の話が終わったあとのネタもまだまだあったし」
——フラカン楽曲における結婚ソングとエロスソング、というネタのあとに、まだネタが待ち構えていたわけですね。
鈴木「そうそう。とにかく色歌のところまではいこうって決めてたんだけど……結果からすると結婚ソングだけで止めときゃ良かったね」
マエカワ「いやぁ、それじゃダメだよ。やっぱ攻めないと」
——当り障りのない歌詞じゃダメだ、恥部をさらせ、という話を講演でされてましたしね(笑)。
マエカワ「だからテーマ的にはすごく良かったよ、エロっていうのは。実際、俺聞いてて恥ずかしかったから(笑)」
鈴木「俺だって恥ずかしかったよ! キン○マの絵を書いたとき背中越しに感じたからね、〈これはダメだな……〉って」
マエカワ「黒板に、〈性〉って漢字を何度も書いてたから、〈今日はこっち推しなんだな〉とは思ってたけど」
——散々重ねた上に「性交」と黒板に書いたときには、もはやクスリとした笑いすらも起きなかったですもんね(笑)。
鈴木「伊作さん(坂西伊作氏/アンティノス時代のフラカンA&R。元エピックソニー映像ディレクター)の話がなかったらどうなってたことやら。この話は実はこれまでほとんど話したことなかったし。でも、退屈してそうだとか引いた感じがライヴよりめちゃくちゃわかるの。普段ライヴだとワーッてアドレナリンが出てるけど、今日は喋ってるだけでわりと冷静で、空気がものすごく読める。だからね、学校の先生は、〈こいつ、この授業に興味ないな〉ってすぐわかってるんじゃないかな。それこそ授業中、寝てる生徒は一発でわかるよ」
——寝てるほうとしては、バレないように姿勢を工夫したりしたものですが。
鈴木「そうそう。先生にはバレてないような気分でいたじゃない。でもね、めちゃめちゃバレてる。あとさ、ちょいちょい先生が授業中にダジャレとか入れるじゃない? あの気持ちもすごいわかったわ」
——冒頭で、黒板に〈歌詞を浴びる〉と書いたあと、〈優〉って書き足したりしてましたよね(笑)。
鈴木「あびるって言ったらあびる優でしょ(笑)。だからなんか、真面目過ぎるとヤバいなって思うんだよ。中学の頃、社会科の先生が、地図帳広げさせて『メッカって場所を探せ。どうだ、メッカったか!』って言っててさ。〈ウケてないのに、なんでそんなこと言うんだろう?……?〉って思ってたけど、初めて教壇に立ってみて、あの先生の気持ちがわかった。あと、合間に小ネタを挟むことで、ちょっとステップアップした気持ちになるんだよね。あびる優みたいなしょうもないことでも、〈俺はここでテクニカルなこと入れたぞ!〉みたいな、攻めの姿勢が取れてるって気持ちになるというか」
——〈中津川〉って書いたあと、「吉田拓郎が〈人間なんて〉を唄ったのが」とか言ったり、ちょいちょい小ネタを挟み込んでましたよね。
鈴木「そういうことをちょいちょい入れることによって、ディティールが深みを増すんだよ」
——今回、ライヴのMCやインタビューでは、なかなか知ることの出来ない、歌詞にまつわるエピソード満載の、貴重な講演でしたね。
マエカワ「こういうのはアリだよね。またやれたらいいよね。ただまあ、今回やってみて、あんまりシモにいくのはダメだっていうのがわかったじゃん」
鈴木「そうね。でもさ、冒頭にも話したけど、3、4日前にボブ・ディラン観に行ったら、知ってる曲を2曲しかやらなかったのよ。5月に出るニューアルバムの曲メインで、あくまでも新曲をガツンと持ってくるという。あのボブ・ディランの攻めの姿勢を見習わなきゃいけなかったんだよな。ボブ・ディランだったら『どうだ! こうなってんだぞ!』ってキン○マ描ききってる。そこは、悔いが残る。下ネタを完全に貫けなかった……」
——今日のメインテーマだったのに。
鈴木「うん。〈音楽〉と〈性〉がいかに密接に結びついてるか、『性=生活だ!』ってところまで推し進めようって思ってたんだけど……でもさ、20代の時ってMCでも下ネタすごい言ってたんだよね」
——講演でも、ここ最近はそういう話や歌詞がどんどん出来なくなってる、と言ってましたもんね。
マエカワ「やっぱ次の課題は、エロのエッセンスをどれだけぶち込めるかってところじゃないかね」
鈴木「そこにいけるまでの空気を、俺が作らないといけないんだなぁ……」
——お! では次回開催もいつかあるってことですね。
マエカワ「いつになるかわからんけど、今回の反省をどこまで活かすのか。期待していてほしいね」
*interview&text:「音楽と人」編集部、photo:吉田圭子