リフォーム・内装
50歳から考える、老後の暮らし
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藤井 繁子
2016年2月15日 (月)

バリアフリーだけじゃない! 「段差」と「手すり」は使いよう

バリアフリーだけじゃない! 「段差」と「手摺」は使いよう
写真提供:パナソニック
高齢者が通うデイサービス施設の中には、あえて段差・坂・階段を残して、手すりや支えを使って歩くことでリハビリを兼ねるというポリシーの所がある。同じように自宅でも足腰を鍛えるためには、安直に「バリアフリー化」してしまうのは良くないのかも? という疑問が湧き、介護リフォームの専門家に意見を聞いてみた。

進化する! 介護リフォーム&設備・器具

高齢になっても元気で過ごせるような住まいとは?を考えるために、介護リフォームを多く設計・施工しているパナソニックの住環境プランナーの嶌崎氏に現場のお話を伺ってみた。

【画像1】パナソニック エイジフリーショップス株式会社の嶌崎氏(左:住環境プランナー)と、高橋氏(右:東部住環境ソリューション部部長)。パナソニックグループは1998年から介護サービス事業を開始、介護リフォームは既に30万件を超える実績。福祉用具・リフォームカタログを見せていただき、その豊富な種類と進化した器具類にビックリ!(写真撮影:藤井繁子)

【画像1】パナソニック エイジフリーショップス株式会社の嶌崎氏(左:住環境プランナー)と、高橋氏(右:東部住環境ソリューション部部長)。パナソニックグループは1998年から介護サービス事業を開始、介護リフォームは既に30万件を超える実績。福祉用具・リフォームカタログを見せていただき、その豊富な種類と進化した器具類にビックリ!(写真撮影:藤井繁子)

まず、段差の善し悪しについて聞いてみた。

嶌崎氏:確かに、階段のように15cm以上ある段差につまずくケースは少ないかも知れませんが、2~3mmの敷物や敷居につまずいて転倒するというのが高齢者の特徴です。なので、玄関やお風呂のように大きな段差がある所は手すりなどを付けて補助をしますが、居室間の敷居等は撤去したほうが安全です。

【画像2】敷居の撤去リフォーム例。工事費目安(1カ所)約2~4万円。介護リフォームは介護保険で20万円/年までカバーされ自己負担は10~20%(写真提供:パナソニック)

【画像2】敷居の撤去リフォーム例。工事費目安(1カ所)約2~4万円。介護リフォームは介護保険で20万円/年までカバーされ自己負担は10~20%(写真提供:パナソニック)

【画像3】Before:上がり框(かまち)のスペースが狭く段差も大きく不安定 → After: 下駄箱を移設し手すり付きの2 段用ステップを設置。手すりなどの設置は高さなど利用者に合わせて設計するので、ほとんどがオーダーメイド(写真提供:パナソニック)

【画像3】before:上がり框(かまち)のスペースが狭く段差も大きく不安定 → after: 下駄箱を移設し手すり付きの2 段用ステップを設置。手すりなどの設置は高さなど利用者に合わせて設計するので、ほとんどがオーダーメイド(写真提供:パナソニック)

リフォーム事例とともに費用を考慮すると、扉の敷居や敷物など小さな段差は無くしたほうが安全。大きな段差は撤去するにも費用がかさむので、手すりなどを付けて自分で上り下りする意欲を手助けしたほうが良いという考え方のようだ。

【画像4】日本の住宅、表だけでなく裏にも段差! 手すり付きステップ台で解消(写真提供:パナソニック)

【画像4】日本の住宅、表だけでなく裏にも段差! 手すり付きステップ台で解消(写真提供:パナソニック)

家の中でも段差の多い風呂場は家庭内事故が多い場所。ヒートショックの問題も大きいが、転倒事故や溺死も少なくない。
体が不自由になってくると不安になり、お風呂に入りたくても我慢している高齢者が多いと高橋氏。

嶌崎氏:そんな高齢者宅に手すりを付けるだけで、「自分でお風呂に入れた!」と喜んでいただけるケースがあります。床に滑らないスノコを置くことで入口との段差は解消できます。ただ、床が高くなると、浴槽の底と床の高さのギャップが大きくなるので注意が必要です。併せて、バスボード(ベンチのようなフタ)を設置したり、浴槽の中にも台を置いたりして段差を軽減するようにしています。

【画像5】入浴用イスと、浴槽内イス(写真提供:パナソニック)

【画像5】入浴用イスと、浴槽内イス(写真提供:パナソニック)

【画像6】大掛かりなリフォーム以外にも福祉用具(スノコ・バスボード等)を置くだけで、高齢者も安心して自分で入浴できるようになる(資料提供:パナソニック)

【画像6】大掛かりなリフォーム以外にも福祉用具(スノコ・バスボード等)を置くだけで、高齢者も安心して自分で入浴できるようになる(資料提供:パナソニック)

利用者にも介護者にも、ゆとりが生まれるリフォーム

浴室以上に、トイレは生活にとって重要だ。どんな備えが必要だろうか。

嶌崎氏:日本のトイレは中でスリッパに履き替える習慣があるので、その高さ分の段差があったほうがドアも開け閉めしやすいという場合があります。その場合も、手すりを適切な場所に付けて、開閉時の転倒を防ぐ必要があります。

【画像7】開き戸は体も引っぱられ転倒のきっかけに。引き戸へのリフォームで開閉が楽になり車椅子での出入りも可能に(写真提供:パナソニック)

【画像7】開き戸は体も引っぱられ転倒のきっかけに。引き戸へのリフォームで開閉が楽になり車椅子での出入りも可能に(写真提供:パナソニック)

【画像8】ドアの開き方向を付け替え、手すりを付けることで、トイレへの動線を安全にしたリフォーム(写真提供:パナソニック)

【画像8】ドアの開き方向を付け替え、手すりを付けることで、トイレへの動線を安全にしたリフォーム(写真提供:パナソニック)

嶌崎氏:私がホームヘルパー2級の講習を受講した際に、介護用おむつを渡されて自分も付けて寝て用を足す体験をしました。高齢者の方々が、どんなに辛いのかが身にしみて分かります。トイレをはじめ基本的な生活が自分でできることによって、健康寿命を延ばすことになると確信して適切なリフォームのご提案を心がけています。

「手すりをつけるだけで、そんなに変わるものですか?」と思った私に
「変わるんですよ!自分独りでできることが増えると元気になるのです。外出する自信ができたと、喜ばれたりします」と嶌崎氏。

そうなのだ。年をとるごとに、できなくなる事が増えるばかりの生活で、人の手を借りずにお風呂に入れるようになることがどんなにうれしいか。高齢者自身が元気を取り戻せば、お世話をする家族にも時間や心のゆとりが生まれるという相乗効果もあると高橋氏は教えてくれた。
住まいの段差は手すりを活用しながらメリハリを付けて対応することで、転倒を防ぐだけでなく心のバリアも取り除くものだと知った。

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