高齢になっても元気で過ごせるような住まいとは?を考えるために、介護リフォームを多く設計・施工しているパナソニックの住環境プランナーの嶌崎氏に現場のお話を伺ってみた。
まず、段差の善し悪しについて聞いてみた。
嶌崎氏:確かに、階段のように15cm以上ある段差につまずくケースは少ないかも知れませんが、2~3mmの敷物や敷居につまずいて転倒するというのが高齢者の特徴です。なので、玄関やお風呂のように大きな段差がある所は手すりなどを付けて補助をしますが、居室間の敷居等は撤去したほうが安全です。
リフォーム事例とともに費用を考慮すると、扉の敷居や敷物など小さな段差は無くしたほうが安全。大きな段差は撤去するにも費用がかさむので、手すりなどを付けて自分で上り下りする意欲を手助けしたほうが良いという考え方のようだ。
家の中でも段差の多い風呂場は家庭内事故が多い場所。ヒートショックの問題も大きいが、転倒事故や溺死も少なくない。
体が不自由になってくると不安になり、お風呂に入りたくても我慢している高齢者が多いと高橋氏。
嶌崎氏:そんな高齢者宅に手すりを付けるだけで、「自分でお風呂に入れた!」と喜んでいただけるケースがあります。床に滑らないスノコを置くことで入口との段差は解消できます。ただ、床が高くなると、浴槽の底と床の高さのギャップが大きくなるので注意が必要です。併せて、バスボード(ベンチのようなフタ)を設置したり、浴槽の中にも台を置いたりして段差を軽減するようにしています。
浴室以上に、トイレは生活にとって重要だ。どんな備えが必要だろうか。
嶌崎氏:日本のトイレは中でスリッパに履き替える習慣があるので、その高さ分の段差があったほうがドアも開け閉めしやすいという場合があります。その場合も、手すりを適切な場所に付けて、開閉時の転倒を防ぐ必要があります。
嶌崎氏:私がホームヘルパー2級の講習を受講した際に、介護用おむつを渡されて自分も付けて寝て用を足す体験をしました。高齢者の方々が、どんなに辛いのかが身にしみて分かります。トイレをはじめ基本的な生活が自分でできることによって、健康寿命を延ばすことになると確信して適切なリフォームのご提案を心がけています。
「手すりをつけるだけで、そんなに変わるものですか?」と思った私に
「変わるんですよ!自分独りでできることが増えると元気になるのです。外出する自信ができたと、喜ばれたりします」と嶌崎氏。
そうなのだ。年をとるごとに、できなくなる事が増えるばかりの生活で、人の手を借りずにお風呂に入れるようになることがどんなにうれしいか。高齢者自身が元気を取り戻せば、お世話をする家族にも時間や心のゆとりが生まれるという相乗効果もあると高橋氏は教えてくれた。
住まいの段差は手すりを活用しながらメリハリを付けて対応することで、転倒を防ぐだけでなく心のバリアも取り除くものだと知った。