ビジネス

任天堂 営業赤字はユーザーが同社のゲームで満足しないため

 全世界で6191万台を売り上げ、社会現象を巻き起こした「ファミリーコンピュータ」発売からちょうど30年。任天堂は常にゲーム業界を牽引してきた。しかし今、業績に急ブレーキがかかっている。任天堂は「ゲーム会の雄」として生き残れるのか、ジャーナリストの永井隆氏が報告する。

 * * *
「たった1本のゲームに本当に魅力があったら、ハードごと買ってくれる」

 任天堂の岩田聡社長は、6月にロサンゼルスで開かれた世界的なゲームの見本市「E3」で、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューにこう語った。

 E3の任天堂ブースは賑わっていたが、同社の経営は今、大きな岐路に立っている。

 2012年3月期、2013年3月期と2期連続の営業赤字。2009年3月期には売上高が1兆8000億円以上、営業利益は5552億円に達していた。直近の2013年3月期の売上高は6354億円と2009年3月期の約3分の1。決算数字だけを見れば、ジェットコースターのような展開である。

 なぜ任天堂は苦境に立たされているのか。よく指摘される理由が、若者を中心とする「コンソール離れ」だ。

 ここ2~3年、スマートフォンやタブレットでのソーシャルゲーム市場が拡大。ユーザーの裾野は広がっているものの、逆に据え置き機(コンソール)へのニーズは低下したと言われている。

 もう一つ、業界の構造的変化が背景にある。“スマホ化”にともない、サードパーティ(他社プラットフォームへの製品供給者)であるソフトメーカーが、「任天堂向け」ではなく、「スマホ向け」の開発に注力し始めたことだ。

 サードパーティは1社あたりの規模が小さい。スマホ向けゲームなら小資金で作れるから、どうしても優先させてしまう。コンソール向けの大型タイトルになるとソフト1本に数十億円の開発コストがかかるケースもあるため、高いリスクは取りにくいのである。

 しかし、「ソーシャルゲームの普及で任天堂が苦境に陥ったというのは印象論に過ぎない。本質は別にある」と語るのはゲーム業界の調査・コンサルティングを行なうインターラクトの平林久和社長。

「大きなトレンドで見れば、家庭用ゲームソフトの国内市場は1997年がピークで、約5800億円。インターネットの登場もあって、そこから長い下落トレンドとなりました。

 ソーシャルゲームが盛り上がってきたのは2009年ごろからですが、実はここにきてソフト市場は3000億円強で下げ止まっています。つまりソーシャルゲームと家庭用ゲームは対立の構図にない。 確かにソーシャルゲームの勢いは強く、市場規模は4000億円以上になっていますが、これは“新市場”が生まれたと見るべきです」

 だが現実に2期連続の営業赤字がある。厳しく言えば、ユーザーがスマホのゲームで満足しているというよりも、「任天堂のゲームで満足しなくなった」と見るべきだろう。2万円以上のハードと5000円前後のソフトその支出に見合うだけの価値が提案できずにいるのである。

※SAPIO2013年8月号

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン