マネーと制度
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西村 祥子
2011年7月5日 (火)

「何が何でも繰り上げ返済」の落とし穴

住宅ローンの元本を減らすことで、大きな利息軽減効果が見込まれる繰り上げ返済。「オトク」「お得」とメリットばかりが紹介され、「何が何でも繰り上げ返済!」と思い込んでいる人も多いかもしれません。しかし、繰り上げ返済を盲信していると、かえって損をすることにもなりかねないってご存知ですか?
陥りがちな繰り上げ返済の落とし穴を、いくつか紹介してみましょう。

落とし穴その1■予備費
病気やけがで働けなくなったり、会社が倒産したり、人生、何が起こるか分かりません。そんなときのために、手元には月収の3カ月~半年分の予備費は残しておく必要があるといわれています。もし、手元に予備費がないと、万が一収入が途絶えてしまった場合、金利の高いフリーローンなどを借りることにもなりかねません。そうなっては本末転倒ですね。繰り上げ返済は、余裕資金で行うことが鉄則!です。

「何が何でも繰り上げ返済」の落とし穴

カーローンの金利は、住宅ローンより高いのが一般的。


落とし穴その2■目的別貯蓄
教育費や車の買い替えなど、住宅ローン以外にも、大きな出費が必要になることはあります。予備費以外に貯金ができたからといって、何も考えずに繰り上げ返済してしまうと、例えば数年後に、金利の高い教育ローンを借りる羽目になったりしませんか?住宅ローンはいまや空前の低金利時代。教育ローンやカーローンの金利は、住宅ローンより高いのが普通です。近い将来、住宅以外に大きな出費が見込まれる場合は、「繰り上げ返済しない」ことも賢い選択。繰り上げ返済は、将来のお金の出入りを予測し、計画的に行いましょう。

落とし穴その3■固定金利選択型
固定金利選択型ローンを利用している人は、「固定期間が明ける前に」と、駆け込みで繰り上げ返済を考える人も少なくないようです。しかし、固定期間が明けて金利が上がれば、当然ながら月々の支払額はアップします。この時、繰り上げ返済で期間短縮されていると、支払期間が短い分、支払額はさらにアップすることに。一方、金利変更後の繰り上げ返済なら、金利の状況に応じた対応も可能。あせらず、状況を見極めることも大切です。また、金利が固定されている特約期間には、繰り上げ返済手数料を高く設定している金融機関もあるので、この間の繰り上げ返済にはなおさら注意が必要です。

落とし穴その4■住宅ローン控除

年末の住宅ローン残高に応じて、所得税の税額控除が受けられる「住宅ローン控除」。控除の対象となる住宅ローンの要件として、「償還期間10年以上」とあるのをご存知ですか? 期間短縮型で繰り上げ返済を頑張りすぎて、払い済み期間と残返済期間の合計が10年を下回ると、住宅ローン控除が受けられなくなってしまうのです。それでも、繰り上げ返済をしたほうがオトクとなるケースのほうが多いのですが、繰り上げ返済のタイミングなどによっては、思うような効果が出ず、損をすることになる場合もあるので、注意しておきたいですね。

繰り上げ返済には、このように思わぬリスクも伴います。しかし、繰り上げ返済の効果が魅力的であることは確か。最近では、普通預金の残高に応じて住宅ローンの金利を0%にする預金連動型のサービスも登場していますし、長期のマネープランは、ファイナンシャルプランナーなど、専門家に相談する手もあります。繰り上げ返済については、ローンを組んでいる金融機関でも相談に乗ってくれることが多いので、「何が何でも」という思い込みは捨てて、長い目で見た返済計画を立てるようにしたいですね。

【アドバイスいただいた専門家】
ファイナンシャルプランナー
大石 泉さん
「自分らしく生きたい!」という人を、住まい・マネー・キャリアの三本柱でサポート。個人相談はもちろん、各方面での講演や、住宅情報誌、新聞、雑誌などの執筆も多い。
■オールアバウト「シングルのマンション購入」ガイド
http://allabout.co.jp/r_house/gp/360/
■ガイドプロファイル
http://profile.allabout.co.jp/pf/moneylife.1/

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