肝膿瘍は、肝臓の中に膿がたまった袋(膿瘍)ができる病気の総称だ。肝膿瘍は細菌性とアメーバ性の2種類ある。
細菌性肝膿瘍は頻度の低い疾患だが、糖尿病、肝硬変、抗がん剤投与など免疫低下例でリスクが高い。感染経路は日本人に多い胆管炎などに伴う胆管経路、消化管の炎症や大腸がんなどに伴う門脈経路、敗血症の菌が肝臓に入る肝動脈経路、腹膜炎などからの直接感染、肝臓の外傷に伴うものなどがある。
アメーバ性肝膿瘍は赤痢アメーバにより腸炎を起こし、潰瘍部分から門脈を経て原虫が肝臓に達して膿瘍を起こす輸入感染症の一つだが、まったく渡航歴のない同性愛者にもみられることから、性感染症としても注目されている。
杏林大学医学部付属病院感染症科の河合伸教授に聞いた。
「肝膿瘍の頻度は、細菌性は10万人に対して6~10人、アメーバ性が0.6人程度と考えられますが、アメーバ性については、年々増加しております。患者は30代以上の男性が8割と圧倒的に多く、国内での感染が7割とされ、男性同性愛者のHIV感染の増加と関連して増加しているように思われます。世界では腸アメーバや肝膿瘍の患者は3800万人と推計されていますが、この病気はエイズ診断の指標疾患には含まれません」
肝膿瘍の症状は、発熱と右脇腹痛、食欲不振、全身の怠感などで、眼が黄色(黄疸)になることもある。赤痢アメーバでは、腸炎を起こしイチゴゼリー状粘血便がみられる。細菌性の膿瘍が破れて菌が血管に入り敗血症を起こし、死に至るケースもある。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年6月28日号