この写真展は、東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故によって広範囲に飛散した放射性物質に汚染された福島県内の土壌や苔、木の実などを使って、ネガティブフィルム(35 ミリサイズとブローニーサイズ)に放射線感光させて放射線を浮かび上がらせた作品群だ。
福島市内を流れる渡良瀬川の、親水公園で羽根を休める水鳥の間に、何らかの放射性物質が怪しく緑色にV 字型に光輝いている様子、あたかも天体写真を撮影したかのような宇宙に星空が輝いている様子の放射性物質の輝く様子、放射線が幾重にも飛散している様子など展示される。中には、放射線の影響でほぼ全体が鮮やかな水色に感光した二本松市の霞が城跡の写真や、あたかも福島市内が赤や黄色の炎が噴き出して燃えているかのような写真もある。全13点ほどが展示される予定。
【会期】 2014年1月9日(木)から1月14日(火)
午前11時から午後7時まで、入場無料
(最終日は午後5時まで、会期中無休)
【会場】ギャラリーNIW http://gallery-niw.jp/
東京都文京区関口1-44-8
(東京メトロ有楽町線江戸川橋駅1b出口徒歩3分)
【撮影】野口隆史
【主催】放射線視覚化プロジェクト
【協賛】Village Woodfield
【後援】NPO法人 みんな地球のこどもじゃん
【お問い合わせ】 pvr@hotmail.co.jp
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■放射線はなぜフィルムに写り込むのか?
放射線(γ線、β線、α線)は電磁波の一つです。光やX 線も電磁波です。光やX 線で写真フィルムが感光するのと同じように、γ線などの放射線もフィルムを感光させる能力があります。
放射性物質から1 秒間に放射される回数を表す単位にベクレルがあります。原発事故後、米やキノコ、魚などから放射性物質が測定された記事などによく使われるようになっています。ベクレルはご存知のようにフランスのノーベル物理学者、アンリー・ベクレルの名前が由来ですが、彼が放射能のウランと写真乾板を机の引き出しの中にしまいこんでいたら写真乾板が感光していることに気が付き、ウランから放射線が出ていることを偶然に発見したことで知られています。温故知新ではありませんが、今回、デジタル時代になって使われなくなってきているオールドメディアの一つ、写真フィルムを使うことで放射能が視覚化できると思い付いたのです。
■どうやって放射線感光させているか?
福島県内での風景を撮影したフィルムを、絶対に光が差し込むことの無い空き缶の中で、その撮影した地点で採取した土壌や木の実などと一緒に一カ月ほど放射線感光させています。
例えば福島市内の弁天山から福島市内を一望する風景を撮影したとします。撮影したポイントで放射性物質に汚染された土壌や苔などを採取して、ジップロックなどのビニールに入れます。それを光が漏れることの無い空き缶に入れて、ダークバックの中でフィルムをパトローネからケースから引き出し、空き缶の中にしまいこんで蓋をします。念のために空き缶の蓋のつなぎ目を黒いビニールテープで目張りをして、ひと月ほど時間をかけてフィルムを放射性物質から発せられる放射線に感光させます。その後、再びダークバックの中でフィルムを取り出し作業をして、現像して、フィルムスキャナーで画像を読み込むというプロセスを行っています。(※ 念のために原発事故の影響を受けなかった札幌市内で、赤レンガ庁舎を撮影して上記と同じようなプロセスを行いましたが、多少のフィルム劣化は見られたものも、放射線が発光している様子などはありませんでした。)
【撮影者略歴】 野口隆史(札幌市在住、1960年4月15日生まれ)
1986年朝日新聞社に入社。2000年春に早期選択定年退職するまで同社写真部、水戸支局、社会部、北海道報道部で、スポーツから海外の紛争地まで幅広いジャンルで撮影、取材に携わってきた。2000年からはフリーのフォトジャーナリストとして活動。
現在は取材・撮影プロダクション「ホロト・プレス」の代表を務めながら、時事通信社、AFP 通信社のフリーランスフォトグラファーとして報道写真にかかわっているほか、札幌交響楽団のオフィシャル撮影、その他さまざまな媒体の、アートシーンからドキュメンタリーの撮影を行っている。
先の東日本大震災の写真では、AFP通信を通じて広く世界に配信され、雪の中で不明者を捜索中の自衛官が遺体を見つけて手を合わせた瞬間を捉えた写真はNYTimes,WashingtonPost をはじめ世界各国の有力紙に掲載。中でも英国Gurdian 紙はEyewitness のコーナーで全面見開きでRespect for the dead というタイトルで扱われている。この写真はネイチャーズ・ベストフォトグラフィー・ジャパンでスミソニアン特別賞を受賞し、現在、米国ワシントンDC のスミソニアン博物館で来春まで展示されている。