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冨丸 幸太
2015年5月14日 (木)

公立でもここまで実践的!? 品川区の小中一貫教育に注目!

公立でもここまで実践的!? 品川区の小中一貫教育に注目! (写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
写真撮影/SUUMOジャーナル編集部

子どもがいる、あるいは子どもが欲しい夫婦が住む場所を決める際に重要なのが教育だ。現在、不足が叫ばれる保育園に目が行きがちだが、将来を考えると小学校から始まる義務教育も重要だ。今回は公立で小中一貫制を導入してユニークな教育に取り組んでいる自治体を紹介する。第1回は、小中学校を複数から選べることで有名な品川区だ。

小中一貫校の魅力は、9年間を活用した独自カリキュラム

中高一貫校は知っていても、小中一貫校は初耳の方が多いだろう。「小中一貫校は、小学校と中学校を合わせた9年間の義務教育の質の向上を目的として2004年から始めました。現在、品川区では、義務教育9年間を1~4年、5~7年、8・9年というように『4・2・3』のまとまりで考えた教育を全校で実施しています」と品川区教育委員会の指導課長の渋谷正宏さんは説明する。

全国で指摘されている「6・3」制の課題は、小学校を卒業して、中学校に入学する際のギャップ(段差)が大きいこと。例えば、先生は、小学校はクラス担任制だが、中学校は教科ごとに異なる。学習の難易度も一気に上がる。それによって不登校や問題行動を起こしたり、勉強についていけない生徒がいることだ。

「ただ、小中一貫で9年間同じだと、6・3制にある小学校卒業がないため、けじめがつかず、だれる懸念がありました。そこで『4・3・2』の3つに分けて、4年生と7年生の終了時に”プチ卒業式”を行ったり、制服につけるリボンの色を変えたりして変化を感じられるようにしています」(渋谷さん)。

小中一貫校の魅力は、9年間を最大限活かした先進的なカリキュラムやプログラムにある。その1つが「市民科」と呼ぶプログラムだ。「道徳」「特別活動」「総合学習」を統合してつくったと言うが、従来とは大きく異なる。大学生や若手社会人向けに行うキャリア教育のイメージに近い。

5年生以降、社会人顔負けのビジネスプログラムを実施

市民科の学習目的はさまざまあるが、第一目的は、自分の頭で考えて行動できる自立性を磨き、社会で貢献できる人間を育てること。そのためかなり実践的な授業を行う。5年生以降、体験学習を通じて、経済や経営、お金など生活設計などを学ぶ。具体的には、経済体験「スチューデント・シティ」(5年生)、経営体験「キャップス」(7年生)、生活設計体験「ファイナンス・パーク」(8年生)がある。

例えば、スチューデント・シティでは、現実の店舗を再現した品川区内の施設に行き、経済活動(運営、販売、営業、経理)や消費行動(家計収支や納税など)を疑似体験する。それに必要な経済や金融の基礎知識なども学ぶ。授業時間は事前学習8時間、体験学習6時間、事後学習1時間の計15時間だ。

体験学習は本格的だ。スチューデント・シティ1回目の経済体験は社内会議を開き、自分の役割や仕事の確認、利益目標の設定や開店準備を行ったりする。一方、消費体験は品川区役所で住民登録を行ったり、シティバンクへ行ってローン申請したりする。

【画像1】経済活動を体験学習する「スチューデント・シティ」(画像提供:品川区教育委員会)

【画像1】経済活動を体験学習する「スチューデント・シティ」(画像提供:品川区教育委員会)

7年生で学ぶ体験学習「キャップス」は社会人でも体験する人が少ない内容だ。例えば、仮想の帽子販売店の運営を通じて、ビジネスの仕組みや、その遂行に必要なスキルを学ぶ。グループでディスカッションを行い、販売戦略を立て、それを基にシミュレーションを行い、結果を検証する。こうした体験を通じて、ビジネスで利益を上げるために必要な要素や考え方を体験してもらう。まさに”ジュニアMBA”といったところか。

英語の授業は、担任と専門講師の2人で教える

英語教育にも力を入れている。2011年度より全面実施された新学習指導要領で、小学5・6年生で年間35単位時間の外国語活動が必修化された。それにより全国の学校が取り組んでいるが、ネックとなるのが指導者の力量不足だ。「指導力を高める措置として行ったことが、担任と、外国人や日本人英語指導者を加えた2人以上で指導することです」(渋谷さん)。

【画像2】小学校の英語の授業を担任と日本人英語指導者の2人で行う(画像提供:品川区教育委員会)

【画像2】小学校の英語の授業を担任と日本人英語指導者の2人で行う(画像提供:品川区教育委員会)

授業内容も工夫している。例えば、『桃太郎』や『赤ずきん』など子どもが知っている物語を、歌やサイン(手話)を使って日本語に置き換えずに英語でダイレクトに理解できるようにするなど、親しみやすくかつ実践的な授業を行っている。「昨年度は3校でモデル授業を実施。今年は14校まで広げる予定です」(渋谷さん)。

その他、4年生の修了時に行う宿泊合宿「イングリッシュ・キャンプ」(現在は一部のモデル校のみの実施だが、ゆくゆくは区全体に拡大する方針)、7年生以降になると「品川区グローバル人材育成塾」や「語学派遣研修」に参加できるとのことだ。

【画像3】モデル校で実施中の4年生修了時に行う英語の宿泊合宿(画像提供:品川区教育委員会)

【画像3】モデル校で実施中の4年生修了時に行う英語の宿泊合宿(画像提供:品川区教育委員会)

品川区では9月から一定期間、授業の様子などを公開している。興味がある方は、住まい探しと並行して見学してはいかがだろうか。次回は、最寄駅がJR中央線の三鷹駅や吉祥寺駅などで、住宅街として人気が高い三鷹市の小中一貫校を取り上げる。

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