住まいの雑学
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田島 久也
2011年9月22日 (木)

電気代ゼロでも涼しく過ごせる!? 「微気候デザイン」って何?

去る2011年7月1日、東京都千代田区外神田にある“3331 Arts Chiyoda”にて行われた講義「微気候デザインって何? 今年の夏を涼しく過ごす伝統のデザイン」に参加してきました。

「微気候」という用語を初めて聞いたという方も多いと思います。私もその一人でした。簡単に説明すると、微気候とは、住まいとその周辺に形成されたミクロな気候のこと。“気象の変化は地球の営みであり、人為的に変えることは不可能。しかし身の回りの空間なら、植栽で夏の日射しをコントロールし、通風などに配慮した建物を設計することで、夏を涼しく快適に暮らせる”というのが微気候デザインの考え方です。

微気候デザインのベースには、日本の伝統的民家の知恵が隠されています。エアコンがなかった昔の民家には、暑さを逃がすさまざまな工夫がありました。例えば、熱を室内に入れないよう日射しを遮り、室内の風の流れを良くするなど配慮することで、現代の住宅よりはるかに涼しい室内環境が実現していたのです。もちろん消費エネルギーはゼロ。温暖化や節電が叫ばれている今こそ、この先人の知恵に注目すべきではないでしょうか。

では実際に、伝統的民家の知恵が微気候デザインにどう活かされているか紹介していきましょう。

■微気候デザインのポイント(1):風通しを良くする
夏涼しく過ごすためには、風通しが重要です。伝統的民家では、屋外に吹く風を南の窓から取り入れ、室内を吹きぬけて北側の窓から外へ逃す。また、室内で熱せられ軽くなった空気は、建物の上部から外に抜け出ていくつくりになっていました。現代の住宅で通気性を高めるには、水平方向の風の流れと併せて、室内で熱せられた軽い空気が屋内に溜まらないよう、最上階に排気口をつくると快適性が増します。

■微気候デザインのポイント(2):日射しを防ぐ
夏の強い日射しは屋根や外壁を熱し、室温を上昇させます。特に屋根は壁の約1.7倍も日射熱を受ける重要な部分。伝統的民家では、屋根材に断熱性に優れた茅を用いることで、室内に熱が入ってくることを防いでいました。室温の上昇を防ぐためには、屋根の断熱性能にこだわることが重要なのです。ちなみに茅葺き屋根は、夜露を吸って日中にその水分を蒸発させることで、室内を冷やす効果まであります。
また、日射しは屋根や壁を熱するだけでなく、窓からの直射日光で室温を上昇させます。伝統的民家はこの点をどうしていたかというと、縁側の軒や庇で室内に日射しが入らないようにしていました。この軒や庇は、太陽が高い夏は日射しを遮り、太陽が低い冬の日射しは室内に取り入れます。年間を通して室内の快適性が保たれるつくりになっていたのです。これは現代の住宅でも比較的容易に取り入れることができます。

■微気候デザインのポイント(3):熱や湿度を調整する
最近の住宅では見かけなくなった土間。土間は熱を蓄える効果があり、夏は日射しが入らないので日陰の涼しさを体感でき、冬は屋外の気温が低下しても蓄えた熱を夜間に出して室温の低下を防ぎます。土間には湿度を調整する機能もありました。現代の住宅では、南側の部屋の床に蓄熱性の素材を採用すれば、伝統的民家に備わっていた室温調整機能を再現することができます。

■微気候デザインのポイント(4):和の素材を用いる
現代の住宅の床はほとんどがフローリングで、壁はビニールクロスで調湿性がありません。一方、伝統的民家の床は畳や板材が用いられていました。これらの素材には吸放湿効果があり、湿度を調整してくれます。同じ効果は壁に用いられている漆喰にもあります。人間の体感温度は湿度にも影響され、こういった吸放湿効果のある素材を採用すれば室内の快適性アップにつながります。

電気代ゼロでも涼しく過ごせる!? 「微気候デザイン」って何?

■微気候デザインのポイント(5):周辺は緑豊かに
室内環境は、建物周辺の微気候に大きく影響されます。いくら通気性の良い住まいでも、周辺がコンクリートジャングルでは熱風しか入ってきません。心地良い涼風を取り入れるために有効なのは、周辺に植物があること。特に木々は蒸散作用により周辺の気温を下げてくれます。併せて、日陰が増えることで地面からの放射熱も抑えてくれます。周辺に緑が多い効果は想像以上に大きく、夏場、直射日光が当たる部分と緑による日陰部分の地面の温度差は、15℃程度の差が出る場合もあります。

■微気候デザインのポイント(6):夏場の風向きに沿った窓
地域や周辺の地形によってそれぞれ風向きが異なります。夏涼しく快適に過ごすには、風向きに配慮して窓の位置や大きさを考えて家を建てることが重要です。

微気候デザインを取り入れると、快適な暮らしだけでなくエネルギーの使用を大きく抑えることが可能になります。ミサワホーム総合研究所の試算によると、良好な微気候の形成に配慮した住宅は、全く配慮してない住宅と比較し、50年間で52%ものCO2を削減できると予測されています。省エネにも、環境対策にも、そして健康的な生活をも実現する「微気候デザイン」。今後どれほど普及していくか注目してみてはいかがでしょうか。

■取材協力
微気候デザイン研究所 代表 清水敬示さん

工学博士、一級建築士、微気候デザイン研究所代表、ミサワホーム総合研究所スペシャリスト、 東京都市大学非常勤講師。建築家Paolo Soleriに師事し、Arcology(生態的建築)を学ぶ。茶室「慶来庵」の設計(オランダ国立民族学博物館)。ミサワホームでは工業化住宅の技術開発、住宅商品の企画・設計に携わる。(財)住宅都市工学研究所において、自然環境・生態系に調和した伝統的生活環境の調査研究. 現職では微気候デザイン手法の研究開発をはじめ、啓蒙普及やコンサルティングに取り組んでいる。

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