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コハマジュンイチ
2015年5月7日 (木)

実家の親が認知症。その時、不動産の売却はどうすればいい?(1)

実家の親が認知症。その時、不動産の売却はどうすればいい?(1)(写真:iStock / thinkstock)
写真:iStock / thinkstock

65歳以上の国民の7人に1人が患うといわれる認知症。認知症と診断された人の財産管理を担い、売却等の法律行為を本人に代わって行うために「成年後見制度」というものがある。親の住む住宅を売却することになったふたつの実例の中から、知っておきたいポイントなどを、実務経験の豊富な司法書士 武田十三さんに伺った。

突然親が認知症に。実家を売るにはどうすればいい?

大阪府北部の閑静な住宅街にある一戸建てに暮らすMさん(80歳)。5年前に妻を亡くして以来、人一倍健康に気を使ってひとりで暮らしていた。しかし、最近物忘れがひどくなり、専門家に見てもらうとやはり「認知症」と診断されてしまった。3人の子どもたちが相談し、Mさんには施設に入ってもらい、その費用に充てるため家は処分することにした。

さて、認知症のMさんは「制限行為能力者」とされ、不動産を売却するといった法律行為を為す意思能力が欠いているとされる。そこで「成年後見人」という代理権者を裁判所に申し立てし、所有者に代わって売却の契約を行う。それが、成年後見制度だ。

「成年後見人」は誰がなるべき?

だが、成年後見人は誰がなればいいのか、という問題がある。Mさんの子どもたちは、長男、そしてその妻、次男の3人だ。長男は、上場会社に勤め経済的に安定しているが、時間的余裕がない。その妻が、適任と思われるが実はこのふたりは、過去Mさんに結婚を反対された経緯もあり、Mさんとずっと疎遠で仲が悪い。そこで、そのことをよく知っている次男が名乗り出て、自らを後見人候補として家庭裁判所への成年後見の申し立てを行った。

次男は裁判所へ呼び出され、裁判官に代わる「参与員」によって面接が行われた。独身である次男は、定職につかずアルバイトで生活していた。金融会社からの借入もある。しかし、お父さんとの仲がよく面倒見の良い性格のため候補として申し出たが、裁判所からは経済的な理由で、「不適格」とされてしまった。

後見人は被後見人との関係や、職業経歴等、その適格性が面接や書類によって総合的に判断される。後見人には医療や介護に関わる責任もあり、仲のよい親子関係が、被後見人と後見人のベストな関係と思われるかもしれないが、それだけでは適格性は認められない。「財産の管理」を担う後見人候補の経済的な自立も判断の基準になる。

結果、Mさんの例では、親族に代わって弁護士が成年後見人として選ばれた。その他に司法書士、社会福祉士などが職業後見人として選ばれることがある。

家族や親族以外の「職業後見人」や「市民後見人」が増えつつある

Mさんの次男のように「認知症になった親の世話は、当然子どもが」といった心情を持つ人も多い。しかし、後見人になると「家族だから許されるだろう」といった考えは通じず、被後見人に対する責任が生じる。裁判所も「成年後見には公的な性格があり、財産を誠実に管理する義務がある」と判断している。

親子や親族といった血縁関係を超えて、ドライに被後見人(この事例の場合Mさん)の幸せや利益のためだけに成り立っているのが成年後見制度だ。制度開始時点では、親族が後見人になる事例が多かったが、被後見人の財産にまつわるトラブルも多く、弁護士や司法書士といった「職業後見人」や、また、本来他人である一般の市民が「市民後見人」として成年後見を請け負うケースも増えてきている。

身近な問題として捉えたい、成年後見制度

Mさんの場合、弁護士である職業後見人によって、無事自宅の売却までたどり着けたが、これからの高齢化社会を考えると、身寄りのない高齢者、老々介護世帯の増加で、ますます親族後見人のなり手も少なくなってくる。といっても職業後見人だけでは、足りなくなってくるのは明白。

そこで、さまざまなNPO法人や行政が市民後見人の育成に取り組んでいるのが現状だ。大切な家や土地といった資産の管理に関わる成年後見制度。難しい法律用語が並ぶ法制度ではあるが、年齢にかかわらず、今や身近な問題として捉えておくべきかもしれない。

●取材協力
武田十三事務所
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