2005年より民営化に向けた道筋を探ってきた日本郵政グループが、紆余曲折を経ていよいよ本格的に動き出した。
6月30日に日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社が東京証券取引所に株式上場の申請を行った。審査が通れば今秋にも“親子上場”が実現し、日本郵政株を100%保有する政府が徐々に株式を市場に放出。国の関与を薄めていく算段だ。
だが、金融機関からは上場後の業務拡大や肥大化を懸念する声が相次ぎ、日本郵政グループに対する「民業圧迫」批判はしばらく止みそうにない。
「ゆうちょ銀行は預金の限度額を現在の1000万円から2年後に3000万円まで引き上げたい方針のため、全国2万4000の郵便局ネットワークと信用力を武器に他の金融機関から預金の“預け替え”が加速するのではと見られている。
また、ATMの時間延長や住宅ローンなど融資業務の開始、がん保険をはじめとする医療保険の拡充……と、新規事業を次々と打ち出せば競合する金融機関との軋轢が生じてくるのは目に見えている」(経済誌記者)
もちろん銀行業務は免許制なので、上場後すぐに新しい事業を始めることは難しいが、ジワジワと迫り来る巨大金融グループの利益奪取の動きに、関係業界は戦々恐々といったところだ。
では、肝心の利用者にとっては、郵政グループの上場はどんな変化をもたらすのだろうか。「国民から見れば便利になる」と予測するのは、金融ジャーナリストの小泉深氏。
「特に住宅ローンの融資業務に関しては、ノウハウを蓄積していない分、審査が甘くなる可能性があります。
これまでメガバンクからは融資を受けられなかった個人に貸し付けるのは当然リスクはありますが、日本人はいくら金利が低くても住宅ローンを焦げ付かすのは最後の最後にするほど“土着性”の高い国民。住宅ローンを返せないから消費者金融に手を出す人もいるくらいですからね。大手銀行とは異なる顧客層を味方にすることができれば、大きな商機に繋がるでしょう」