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佐藤 由紀子
2015年8月3日 (月)

“早い・安い・簡単” 自分でつくる家「ベニヤハウス」とは

ベニヤ合板を組み立てて自分でつくる家「ベニヤハウス」って?
画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人
「安い、早い、簡単」。といっても料理の話ではない。早くて、安くて、簡単につくれるセルフビルドの家「ベニヤハウス」の研究・設計・施工に取り組んでいる人がいる。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科の教授で小林・槇デザインワークショップ代表の小林博人氏だ。「ベニヤハウス」について話を聞いた。

震災をきっかけに誕生した、特別な知識がない素人でもつくれる家

ベニヤの合板を使って自分で建てられる家・ベニヤハウスの第一号は、2012年、宮城県南三陸町に建てられた、地域の交流施設『南三陸ベニヤハウス』だ。「大震災後の職人不足、資材不足の非常時に、職人の手を借りずに低コストで簡単に建てられる家はできないかと考えたのがきっかけです。宮城県石巻市にはもともと多くの合板工場があり、地域産業の振興にも役立つことができればと、津波で水に浸った被災べニヤを安く譲ってもらい利用することにしました」と小林教授は話す。

【画像1】作業中の『南三陸ベニヤハウス』。ベニヤ合板のパーツを組み合わせて柱・梁をつくる(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:土井亘)

【画像1】作業中の『南三陸ベニヤハウス』。ベニヤ合板のパーツを組み合わせて柱・梁をつくる(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:土井亘)

ベニヤ合板とは間伐材を桂むきにしたベニヤをシート状に重ねたもので、(1)山の木を育てるために間引きする間伐材を使うため、地球環境にやさしくエコ(2)低コスト(3)反りや狂いがなく品質が安定している(4)市場に多く出回り世界中どこでも手に入りやすい、といった利点がある。

特別な技術や知識がなくても誰でもつくれるように、455mm(合板の規格の短辺の半分)単位としてカットしたベニヤ合板のパーツに、あらかじめ切り込みを入れておき、パーツの切り込みを相互に差し込みながら柱や梁をつくり組み立てていく工法を開発した。そうすることで特殊な工具や釘などを使わなくても組み立て・解体・移築が簡単にでき、傷んだ箇所を部分的に交換することも可能だ。

【画像2】『南三陸ベニヤハウス』内部にある集会室。明るく清々しい(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人)

【画像2】『南三陸ベニヤハウス』内部にある集会室。明るく清々しい(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人)

利用者自らが建設することで『自分の家』に

第二号は、宮城県石巻市前網浜の地元漁師のための集会所兼倉庫として漁師自身が自分の手で建設した『前網浜ベニヤハウス』だ。『南三陸ベニヤハウス』の工法をベースに、デジタル加工機を使って切り出し、より正確なプレカットを行ったこと、分かりやすい図で表現した組み立てマニュアルを作成することで作業効率が向上したという。漁師が自分自身で建設する過程を経て、『自分の家』となった。

【画像3】地元の漁師たちが漁に出ていない時間をつかって建設した『前網浜ベニヤハウス』(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人)

【画像3】地元の漁師たちが漁に出ていない時間をつかって建設した『前網浜ベニヤハウス』(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人)


【画像4】『前網浜ベニヤハウス』内部。職人がつくったように美しい。畳は避難所で使用した畳を無償で提供してもらった(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:Manuel Oka)

【画像4】『前網浜ベニヤハウス』内部。職人がつくったように美しい。畳は避難所で使用した畳を無償で提供してもらった(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:Manuel Oka)

ベニヤハウスは海外でも建設されている。ミャンマーの子どものための学習施設は、電気がないため金づちと釘だけでベニヤ合板をつないでいくシンプルな工法を採用した。一方、フィリピンのコゴン村の保育園は最新のデジタル加工機で正確にプレカットしたパーツを、ビスや釘ではなく、くさびでつなぐ木組みの技術で建設。現地の状況や環境に合わせて工夫し、より「早く、安く、簡単に」組み立てができるよう改良した。そして、ミャンマーでもフィリピンでも、まず子どもとのワークショップを行い工法を理解してもらうことで、その子どもたちと親、地域住民と力を合わせてつくり上げていったという。

【画像5】ミャンマーの学習施設。ベニヤのほか、地元で手に入りやすく周囲の環境になじむ竹を使用(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人)

【画像5】ミャンマーの学習施設。ベニヤのほか、地元で手に入りやすく周囲の環境になじむ竹を使用(画像提供:小林・槇デザインワークショップ/写真撮影:小林博人)

費用と期間はどれくらい?

べニヤ合板によるセルフビルドハウスは、災害時など緊急に家が必要な人や発展途上国などで「早く、安く、簡単に」応急仮設的な家を手に入れることができるが、どのくらいの費用、期間で建てられるのか。

「『前網浜ベニヤハウス(床面積100m2)』の場合、5、6名の漁師さんが1日約4時間作業をして3、4カ月かかりましたが、一日中作業したとしたら2カ月位で建てられたと思います。これを一軒の家として建設した場合の費用は、セルフビルドを前提として、100m2・3LDKの家で800万円位、配管や下水などの工事を含めて1000万円以下が目標です」(小林氏)

ベニヤハウスは構造強度などを検証してあり、15年~20年はもつ構造だという。基礎は施工業者による、地面に木杭を打つものや、住宅用のコンクリートの基礎など、専門的な知識・技術が必要とされるものを用いており、より簡単な基礎をつくることが今後の課題だという。現在製作し8月にコンテナでネパールに搬送する予定の個人用住宅のキットの場合、地震対策として、あえて地面に基礎を緊結しない方法を採用するが、風に吹き飛ばされないよう砂袋で重しをする方法をとるという。

セルフビルドでコストを削減、家への愛着がわいて修繕も可能に

このベニヤ合板を使ったセルフビルドの工法を住宅でも展開しようと取り組んでおり、現在は石巻市前網浜で個人用住宅を計画中だ。『前網浜ベニヤハウス』で既に建設を経験した漁師たちがいるため、そこからつくり方を伝え広めることもでき、彼らの仕事になる可能性もある。今後の目標を伺うと「災害時などいざというときに家を自分でつくれるよう、全国各地でプレカット材をパッケージしたキットを用意するシステムがつくれたら」と、さまざまな課題に取り組んでいる。

「使う人が自分で建てることに意義があります。大きなプラモデルをつくるように楽しく、完成すれば達成感があり、家への愛着がわきます。また、自分の家がどうやってできるのかを知り、何かあったときに自分で直せるのも利点です。協働作業をすることで地域のコミュニティも生まれます」(小林教授)

べニヤの『セルフビルドハウス』は建築の原点を思わせるシンプルな工法だが、災害などで家を失った人が、早く安く簡単に住宅を手に入れる画期的な方法だ。早く家を持ちたいという夢を叶えるだけでなく、地域産業の振興やコミュニティづくりに役立つ点でも多いに意義があり、今後どのような局面で使われ、どう広まっていくか注目したい。

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