住まいの雑学
連載江戸の知恵に学ぶ街と暮らし
やまくみさん正方形
山本 久美子
2012年12月21日 (金)

落語「御神酒徳利(おみきどっくり)」から探る 江戸時代の正月事始め

落語「御神酒徳利(おみきどっくり)」から探る 江戸時代の正月事始め
「冬の宿 嘉例のすゝはき(ふゆのしゅく かれいのすすはき)」歌川豊国(うたがわとよくに)(三代)画/東京都立中央図書館 特別文庫所蔵

連載【落語に学ぶ住まいと街(14)】
落語好きの住宅ジャーナリストが、落語に出てくる江戸の暮らしを参考に、これからの住まい選びのヒントを見つけようという連載です。

落語「御神酒徳利」とは…

師も走るという忙しい年末となりました。江戸時代も現代も、正月を迎えるに当たって、いろいろな行事があったようです。さて、煤(すす)払いから騒動が始まる落語を一席。

とある江戸の旅籠(はたご)では、年に一度の大掃除に当たる煤払いの最中。先祖代々から伝わる将軍家から拝領した御神酒徳利(おみきどっくり)が転がっているのに気付いた、通い番頭の善六。無くしちゃならないと、とりあえず台所の水甕(みずがめ)に入れておいた。ところが、そのことをすっかり忘れてしまい、御神酒徳利が見当たらないと店中で大騒ぎしているのに、自宅に帰ってしまう。
自宅で徳利のことを思い出したのだが、旅籠の主人に知らないといった手前、言い出しづらい。そこで、女房が知恵を授けることに。算盤(そろばん)で遺失物の在りかを占って分かったことにすればいいと。

店に戻った善六は、算盤をパチパチとはじいて、徳利の在りかを見事に言い当てる。この話を聞きつけたのが、旅籠の泊まり客。大坂の豪商・鴻池(こうのいけ)屋の番頭だった。鴻池屋の娘が大病で長い間苦しんでいるので、占いの先生にぜひ大坂に来て占ってほしいと頼まれてしまう。女房に相談すると、礼金が出るなら行っておいでと言われ、大阪へ向かうことになる。

さてその道中、泊まった宿で財布がなくなり、占いを頼まれた善六は大弱り。夜逃げの支度にかかったまさにそのとき、宿の女中が親の病気のために財布に手を出したと打ち明けに来る。またもや紛失物の在りかを言い当てて、目的地の大阪へと向かう。

大阪に着いた善六は、困り果てて水行(みずぎょう)を始める。すると不思議なことに、稲荷明神が夢に現れて、娘の治療法を告げる。その通りに占うと、娘は全快。鴻池屋は大喜びで、お礼にと善六に旅籠を一軒持たせてくれる。そして、女房と力を合わせて、旅籠は大繁盛したというおめでたい落語だ。

江戸時代の正月事始めは?

江戸時代は、師走になると正月を迎える準備を始める。これが「正月事始め」だ。一般的には13日(8日とする資料もある)とされており、13日には江戸中で煤払いをするのが慣わしとなっていた。きっかけは江戸城で煤払いが行われる日だった(実際には1日から12日までにかけて掃除をし、13日には祝儀をしたそうだが)からで、江戸中の家が一斉に大掃除をするようになったという。
現代の生活では煤が出ないが、江戸時代には室内で火を使うと煤がたまった。先に笹や藁を付けた長い竹竿を使って、軒先や天井などの高いところに付いた煤を払い落とすのが煤払いだ。ただし、単なる大掃除ではなく、新年を迎えるに当たってのお清めの儀式でもあったようで、落語に登場する大きな店などでは、食事や酒が振る舞われ、時には胴上げをしたりもしたという。掃除が終わると、早い就寝が許された、つまり奉公人などの夜遊びも許されたということのようだ。

煤払いが終わると、翌日からは注連飾り(しめかざり)や羽子板などの縁起物や正月用品を買い求める歳(年)の市が始まる。深川八幡では14、15日に、浅草観音では17、18日にと各地で行われたが、浅草が最も盛況だったという。また、15日から年末にかけては、江戸のあちこちで餅つきが始まる。餅を買うには、15日までに餅屋に注文するか、餅つきに出向いてもらうかしたようだ。この餅つきも落語の題材になっていて、「尻餅」という落語がある。お金がないので、代わりに女房の尻を叩いて、餅つきにきてもらったように見せかけるというストーリーだ。
大晦日までは、普段ツケで買い物をするので、ツケの催促である「掛け取り」が恒例行事だった。この掛け取りは多くの落語に登場するが、「掛け取り万歳」は借金取りをいろいろな手段で撃退するにぎやかな落語だ。

落語「御神酒徳利(おみきどっくり)」から探る 江戸時代の正月事始め

「江戸自慢三十六興 浅草年之市(えどじまんさんじゅうろっきょう あさくさとしのいち)」歌川豊国(うたがわとよくに)(三代)画、歌川広重(うたがわひろしげ)(二代)画/東京都立中央図書館 特別文庫所蔵

現代の年末行事は?大掃除は?

江戸時代の大掃除は、煤払いだけでなく、障子を張り替えたり、竈(かまど)にたまった灰をかき出したり、歳神様を迎える神棚をしつらえたりした。当然ながら、家宝の御神酒徳利に御神酒をいれて供えるので、紛失すれば大騒ぎになるわけだ。現代では13日では早すぎるというので、28日などに行われることが多い。しかし現代では、日経トレンディが選んだ「2012年ヒット商品ベスト30」で29位に「お掃除ロボット」が入るように、自動で掃除をするロボットなども活用されており、掃除道具も様変わりしている。

しかし、正月事始めの風習は現代も続いており、餅つきや「歳末大売り出し」のセールなどもあれば、門松や注連飾りを飾って正月を迎える家庭も多い。京都の花街・祇園では、今でも13日に「正月事始め」が行われ、舞妓(まいこ)さんたちが日ごろからお世話になっている踊りの師匠やお茶屋を訪れ、一年のお礼と新年に向けた挨拶を行っている。

さて、立川志の輔師匠の「古典落語100席」によると、落語「御神酒徳利」は、「六代目三遊亭圓生が昭和天皇の前で初めて演じた御前落語として一躍、有名になった噺」だという。この噺が選ばれたのは、悪意のある人物が出てこない、めでたい噺だからだとか。やはり正月を迎えるなら、おめでたいほうがいい。

■参考資料
「一日江戸人」杉浦日向子著/新潮文庫
「古典落語100席」立川志の輔選・監修/PHP研究所
「展示解説書」深川江戸資料館
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/dc8bf0c1134dae340e61cda16d35e4fa.jpg
連載 江戸の知恵に学ぶ街と暮らし 落語・歌舞伎好きの住宅ジャーナリストが、江戸時代の知恵を参考に、現代の街や暮らしについて考えようという連載です。
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