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街を変えるリノベーション
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小野 有理
2014年4月1日 (火)

リノベーションで街を変える!鳥取市が動き出した一夜

登壇者・参加者みなで気持ちを新たに記念写真。ここにいるみんなが鳥取を始め、全国の街を変える当事者だ(写真撮影/小野有理)
写真撮影:小野有理

鳥取市と言えば「砂丘」?では、鳥取市の街がどんな雰囲気かピンとくる人は?他の地方都市と同じく、いま鳥取市では空き家が増えつつある。しかし、そんな空き家をリノベーションして面白く使いなおし、街がうまく回り始めている。

3/1(土)、そんな鳥取市がいま面白いぞ、とリノベーション業界の第一人者たちが集まった。今回、皆が集まったのは「みんなあつまれ!とっとリノベーション -まちへたからをさがしにいこう-」(主催:鳥取市・鳥取県建築士会東部支部・住もう鳥取ネット、共催:一般社団法人HEAD研究会)のため。

全国各地の、リノベーションで街を面白く変えている人々が最新の情報を共有しあうシンポジウムだ。聴衆は全国から220名以上が集まり、会場は熱気でムンムン。鳥取市にとって「街を動かすリノベーション」のきっかけになったであろうシンポジウムをリポートしよう。

自分の感性を大事に「まちを耕す」人って、どんな人?

シンポジウムは3部構成。第一部、鳥取民藝美術館常務理事の木谷清人さんが鳥取民藝運動の祖となった吉田璋也(よしだしょうや)の紹介を軸に、民藝とリノベーションの深いつながりを説明して幕を開けた。いずれも、街に眠る宝を掘り起こし新たに息を吹き込むことで、少しずつ社会や街を良い方向へ向かわせる。見逃せないムーブメントだ。

続いて「とっとリノベのいま」がスタート。鳥取を始め、全国で「まちを耕しているひと」たちを集めて活動の軌跡を共有する場だ。進行役の大島芳彦さん(ブルースタジオ)を筆頭に、鳥取市のリノベを先導する本間公さん(工作社)、鳥取県でゲストハウス「たみ」を運営する三宅航太郎さん(うかぶLLC)、市内の近代建築遺産をアートイベントの拠点とする「Hospitale Project」運営の野田邦弘さん(鳥取大学教授)、鳥取市内から韓国ソウル市まで幅広くカフェを経営する山根大樹さん(Trees)、北九州小倉魚町のまちリノベを実践する嶋田洋平さん(らいおん建築事務所)、そして、長野市善光寺門前町の街リノベーションを手がける広瀬毅さん(LLP.ボンクラ)の、計6人が会話に花を咲かせた。

「東京ではお金をかける人がいて、お金があるとそれなりのものができてしまう。でも地方ではそのような投資も無いが故に、お金にとらわれずに面白味のあるものができる」と、地方でのリノベーション実践が刺激的だと述べた大島さんのイントロからスタート。それぞれが今やっていることをプレゼンテーションした。

地方のリノベーションは面白い。都会に比べ可能性が広がっている!?

前述の本間さん、山根さんの2人は鳥取市出身。大資本や大会社、大都市がいいと思うことも無く、「鳥取の街が好き」「楽しいことが好き」と自分の感覚を大事に、気負い無く事業をスタートした。

高校卒業後、飛騨高山で家具職人の修行を2年積んだ後、バックパッカーとして1年世界を回り鳥取に戻った本間さんの、「働きたい会社が無く、友達の依頼で家具や内装を手伝ったりしているうちに、気づいたら今のようになっていた」という言葉が印象的だった。

地方で建物をリノベーションするには、建物だけでなく街と人との関係性を強く意識しないと難しい。大都市では目まぐるしく建物が淘汰され、新しいものに入れ替わって行く。人が多いぶん資本力も大きく、入れ替わりのスピードも早い。だからこそ、そのスピードと目的・ゴールが一致すれば大きなことを成し遂げられるとも言えるだろう。

地方ではそのようなスピードを伴う巨大な力はあまり働かないため、いま目の前にある建物を街や暮らす人と一緒に少しずつ変えて行けるメリットがある。大資本が一気にさらって行く前に、周辺の人や建物とじっくり・ゆったりどんな暮らし・営みがしたいのか考えながら着実に前に進む。だからこそ際立った・面白いものが生まれる、というのも納得だ。そんな良さを「とっとリノベのいま」から学んだように思う。

鳥取での個々の取り組みのような事例を、さらに推し進めたのが同じく登壇した嶋田さん(北九州市)と広瀬さん(長野市)の事例だろう。嶋田さんが関わる北九州市小倉では、行政と民間が連携し街づくり会社「北九州家守舎」を設立。広瀬さんも長野市善光寺で「まちづくり会社」を設立し、「個人が勝手」にでも「行政が押し付ける」でもない、「みなでつくる暮らし」実現への一歩を始めている。

リノベーションで街を変える!鳥取市が動き出した一夜

【画像1】各地のリノベーションの実践者が自らの活動を話す。(写真撮影/HEAD研究会)

地元がどよめく提案がたくさん。鳥取を勝手に変える「リノベ大喜利」の中身

第三部ではシンポジウムの目玉、リノベーション大喜利(通称リノベ大喜利)が催された。この大喜利は、開催都市の空き家や空き店舗を題材に、地元と外部の混成チームが一緒になってリノベーション提案をし、座布団を奪い合うもの。

外部から参加するメンバーにとっては、シンポジウムの前日に鳥取入りして初めて見る物件ばかり。発表までの半日の間に、何が出来そうなのか、必死で案を練る。そんな短時間でも、地元の聴衆に対して「こう使えるのでは」と披露された案は、地元にいるとなかなか気づかない、“隠れた街の宝を掘り起こす”案ばかり。よそ者だからこそ気づける・言えるメリットは、実はとても大きいのだ。

先頭を切った「鳥取駅前改造計画」は、駅ロータリーを緑化し車輛進入禁止にした上で、駅構内に鳥取砂丘の砂を敷き詰め、駅前の鳥取大丸店屋上に露天風呂を設置するなど会場がどよめく大胆な案を披露。

続く旧銀行を対象にした「とっとりサンド・JK」は、リノベーションされたレトロカフェに女子高生が集う姿にヒントを得て、時代をつくる若い女性のために「女子高生が集まる場」に変える案を提出した。

「川端ガレリアで式を挙げませんか」は、古い商店街アーケードをミラノのガレリアに見立て、バージンロードとして活用する提案。商店街総出で結婚式に携わり、皆でつくる結婚式が街のファンを増やすだろうと示唆した。

最後の「若桜街道に賑わいを」は、鳥取の精神的支柱、久松山と駅とをまっすぐつなぐ若桜街道を題材に、街道を人々に開かれた場とする案だ。駅まわりの中心部に駐車場がない、との市民の声を挙げて、街道沿いに駐車場を確保した上で、大学誘致や店を持ちたい人への仮店舗の貸与など、単なる通路にとどまらない街道の使い途を示した。

結果は「鳥取駅前改造計画」が聴衆の支持を集め座布団を獲得。いずれの案にも発表後には聴衆から活発に感想や質問が出され、地元の人々にとっても、街を「新たな視点で見直す」ことが身近になる、濃い時間だったのではないだろうか。

リノベーションで街を変える!鳥取市が動き出した一夜

【画像2】(左上)駅の完全緑化など大胆な活用を提示(「鳥取駅前改造計画」より)、(右上)旧銀行を女子高生が集まる場所に(「旧銀行・JK計画」)、(左下)古い商店街のアーケードを活用したバージンロード(「川端ガレリアで式を挙げませんか?」)、(右下)街道の歩道も人々が集うモールへ(「若桜街道に賑わいを」)(画像提供:各グループより)

リノベーションで街を変える!鳥取市が動き出した一夜

【画像3】各グループが意表をつくリノベーション案をプレゼンし合った「リノベ大喜利」(写真撮影/小野有理)

関係者が集まることで熱気が最高潮に

今回参加して感銘を受けたのは、全国から関係者が集うことで、開催都市側が一致団結し大きな一歩を踏み出す力が生みだされる構図だ。懇親会の最後、主催の鳥取市担当者や鳥取県建築士会東部支部長らの主要メンバーが壇上にあがり、お互いに「やってみせます!」と宣言する姿は、新たなステージへと進む節目の宣言のように見えた。今後の鳥取市の暮らしに、私はワクワクしている。

リノベーションで街を変える!鳥取市が動き出した一夜

【画像4】懇親会の最後、市の職員も街への情熱を語り、一致団結して前に進むことを宣言した(写真撮影/小野有理)

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街を変えるリノベーション シャッター街や空き家をリノベーションで再生し、地域を元気にする動きがあちこちで始まっています。
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