買う
107
小野 有理
2014年3月24日 (月)

家中どこも暖かくて光熱費約4割ダウン 暖かい家は、命を守る家でもあった

リビング・ダイニングと続く大きな窓。どこに座っていても庭が楽しめ、寒い冬でも差し込む日差しが暖かい。前の家だと室内からこんな楽しみ方はできなかった(写真撮影:小野有理)
写真撮影:小野有理

家を探していると「高断熱・高気密な家がいいらしい」と耳にすることも多いのでは?電気代も値上がり必至な昨今、少しの電力で家全体が暖まる「省エネルギー」対策としても、高断熱・高気密住宅は注目を集めている。しかし、その住み心地はどうか。実は、高断熱・高気密住宅は、省エネルギー性以外にも大事な役目を果たしていた。

古い一戸建ての寒さが身にしみる。ついに建て替えを決意

風が冷たいけれどもピンと晴れた3月。成城学園前に広がる住宅街の一角に、Eさん夫妻を訪ねた。梅や山桃の樹が枝を広げ、手入れが行き届いた庭。玄関には堂々とした灯籠が出迎えてくれる。新しい家に建てなおす前から大事にし、年月を重ねた庭を、今も風情そのまま残している。約2年前、Eさんは1階をご自身用に、2階を2世帯の賃貸住宅に、古い家をそっくり建て替えた。

「もともとは武家屋敷の名残をとどめる古い建物。価値は分かっていましたし、ずいぶん耐震や断熱など改修を重ね大切に住んできました」(Eさん)。それでも冬は本当に冷える。部屋のあちこちに暖房器具を置き床暖房も設置しても、部屋の出入りには凍える日々。なんとか耐え忍んできたものの、2011年の震災で、改修が必要になったこともあり建て替えの決意を固めたという。

壁・窓は外の寒さをシャットアウト。でも、空気は常時フレッシュに保つ仕組み

建て替えるとき、夫妻が一番こだわったのが家の性能だ。少し前に娘さん家族のために、近くに家を建てていた。孫がぜん息持ちだったため、「ぜん息には室内のホコリを減らし、冬の室温を暖かく保つのが良い」と聞いて選んだ家。そこで、「孫のぜん息がおさまった(※1)」(Eさん)のを見て、二人はその良さに驚いたという。その秘密は、高断熱・高気密で室内温度を保ちつつ、24時間換気システムで空気をいつもフレッシュにする手法だ。

Eさん宅の換気システムは、単に空気を入れ替えるだけではない。冬場なら、外の冷たい空気を、室内から排出する暖かい空気で温めながら、家の中に取り込む。また、換気口のフィルターを通して空気を入れ替えするので、外からの花粉やホコリも一緒に排除できる。アレルギーを持つ奥さんにとっても、これはうれしい機能だ。「孫のぜん息のように、私の目のアレルギーも良くなったようです(※1)」とうれしそうに話す奥さん。だが、Eさん夫妻にとってうれしいことはそれだけではなかった。

※1 個人の意見であり、医学的な因果関係を裏付けるものではありません

冷暖房する面積も時間も増えたのに、光熱費は削減。暮らしの質もあがっています

取材の中でEさんがおもむろに取り出したメモ用紙。光熱費がどのくらい変化したのか、入居から1年分の実績を、今回の取材のために遡って計算してくれていた。「ざっとした計算ではありますが」と断りつつ教えてもらった数値は、いずれも前の家のときと比べ、最大で光熱費を夏は約70%、冬はなんと50%半ばにまで抑えられたという。冷暖房する面積は広く、時間も長くなったのに、ここまで削減できているのは驚きだ。

以前は部屋ごとに暖房を置き、その部屋を使う少し前から温めて移動する生活だった。暖房をつけては消し、を繰り返しているので、常に暖かいわけではない。しかし今では、家全体に暖房が入っている。その調整は2カ所だけ。「日常的に使うスペースは全て、一つの暖房システムの下にあります。なので、常時、その一つをオンにしているだけ」。どこにいつ移動しても、温度差がない生活だ。

昔からの庭を大事にしてきたEさん夫妻。以前の家だと庭を楽しむには縁側に出るか、外に出なければならなかった。冬にのんびり庭を眺めるにはやはり寒い。しかし、今はリビングやダイニングに大きく開いた窓から一日、庭を楽しむことができる。「こんなに窓が大きくても寒くない。家事をしながら梅を眺める暮らしが気に入っています」(奥さん)と、より暮らしを満喫しているようだ。

冬、暖かい家は「命を守る家」でもある

取材の最後、Eさんに「家を建てるときに考えた3つの視点」を教えてもらった。まずは住み心地を左右する「快適性」、防犯・防災に優れているかの「安全性」、最後にその二つをバランスさせる「コストパフォーマンス」だ。この中の「快適性」と「コストパフォーマンス」を重視したとき、Eさんは、低コストで室温が保たれる高断熱・高気密な住宅に惹かれたという。

実は快適性は、高齢者にとっては、単なる心地よさの追求に留まらない。「とにかくヒートショックが怖かった」70代の夫妻。この先に来る老いとどう向き合うか、を考えたとき、部屋ごとに温度がまるで違う家に住んでいては、ヒートショックを起こしてしまうと考えたのだ。

厚生労働省の人口動態統計によると、家庭内事故が増加しており、中でも多いのが浴室での死亡(いわゆるヒートショック)だ。温かい浴室から寒い脱衣スペースへ、もしくは寒い脱衣スペースから急に熱いお湯に浸かる、など急な温度変化に直面すると血管が激しく伸縮する。結果、脳卒中や心筋梗塞を引き起こしてしまうことをヒートショックと呼ぶ。若いと耐えられる伸縮も、高齢者は耐えきれず死亡につながることもある。

高断熱・高気密にして、家全体を同じような気温で保つことで部屋ごとの気温の差を解消する。家の中に潜む「命の危険」を無くして、住んで安全な家に変える。耐震性もアップし「もう怖いものはありません」と微笑むEさん夫妻の家は、まさしく「命を守る家」だった。

家中どこも暖かくて光熱費約4割ダウン 暖かい家は、命を守る家でもあった

【画像1】床に幾つかの換気口が。冷暖房や24時間換気用の吸い込み口や吹き出し口だ。写真はその一つ(写真撮影:小野有理)

家中どこも暖かくて光熱費約4割ダウン 暖かい家は、命を守る家でもあった

【画像2】Eさん宅の窓ガラス。ガラスが通常のものよりも分厚い複層ガラスが使われている。これが外気温に影響されないコツ。また、サッシもよくあるアルミだけでは、熱を通しやすいので樹脂を配合したサッシに(写真撮影:小野有理)

●取材協力
セキスイハイム不動産株式会社
前の記事 SNSで理想の間取りを公開できる、「マイホームデザイナー」って?
次の記事 地価が本格的な上昇局面に!? 国土交通省が公示地価を発表
SUUMOで住まいを探してみよう