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団地がリノベ、DIYで進化中!
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hato
2013年11月26日 (火)

住民たちの手で団地がホテルに!「サンセルフホテル」の一日

女将のはるえさん。サンセルフホテルのおもてなしには欠かせない存在(写真撮影:伊藤友二)
写真撮影:伊藤友二

先ごろSUUMOジャーナルでご紹介した、茨城県取手市の取手井野団地(UR都市機構)で行われている「取手アートプロジェクト」(https://suumo.jp/journal/2013/10/21/54024/)。このプログラムのひとつで、住民たち自身が運営する宿泊型アートイベント「SUN SELF HOTEL(サンセルフホテル)」の一日を追いかけました。

サンセルフホテルとは?

「サンセルフホテル」は、団地を舞台に、住民有志を中心に運営される宿泊型アートイベントです。客室は団地の空室、ホテルマンは住民たち自身。特定の週末にのみオープンし、完全予約制・限定1組(2013年9月現在)。2013年4月に第1回目が実施され、9月に第2回目を迎えました。企画はアーティストの北澤潤さん。
ホテルマンたちの年齢層も幅広く、下は1歳10カ月から上は88歳まで!30人ほどのメンバーのうち6割が団地住民ですが、なかには団地の外から通ってくる高校生ホテルマンもおり、小さな子どもたちの面倒を見ていたりと、多世代が交流するとてもアットホームな雰囲気です。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像1】最年少ホテルマン。みんな笑顔に(写真撮影:伊藤友二)

お出迎え~ソーラーワゴンで団地散策

オープン当日。これまで半年以上かけて打ち合わせと準備を重ねてきた住民、もといホテルマンたちは、緊張と期待でソワソワ。いよいよゲストを乗せたバスの到着時刻が近づき、お出迎えのためバス停へ。ゲストをフロントへご案内します。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像2】特設のフロントは旧ショッピングセンター広場(写真撮影:伊藤友二)

フロントではまず、宿泊についての説明が行われました。
このホテルのメインイベントは、宿泊客自身が日中団地内で蓄電をし、その電気を使って団地上空に浮かべる「よるの太陽」。これが「サンセルフ」というホテル名の由来にもなっています。残った電気で客室内の灯りなどをまかない、さまざまなルームサービスを楽しんだ後、電気が尽きるとともに就寝時間となります。
ずっしりと重みのある太陽を模したルームキーを受け取り、いよいよ客室へ。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像3】この日だけは団地の扉がホテルのドアに(写真撮影:伊藤友二)

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像4】客室。藍染めのファブリックが爽やか(写真撮影:伊藤友二)

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像5】アメニティ。オリジナル甚平が可愛らしい(写真撮影:伊藤友二)

ゲストが宿泊するのは、団地内の空室をホテルマンたち自身が改装した客室。藍染めのカーテンや甚平、手づくりのインテリアなど、ホテルマンたちの個性が散りばめられています。前述の通り、室内のすべての電化製品は、バッテリーを持ち込んで初めて使えるようになっています。
ゲストが客室に落ち着くと、ウェルカムスイーツが運ばれてきました。コックチーム(もちろん住民たち)手づくりの、団地やサンセルフホテルにちなんだ形のクッキー。こうしたアイデアも、住民たち自身の創意工夫です。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像6】団地やサンセルフホテルにちなんだウェルカムスイーツのクッキー(写真撮影:伊藤友二)

スイーツで一息つくと、さっそく蓄電のための団地内ツアーが始まりました。ゲストは特製のソーラーワゴンを押しながら、住民たちの案内で団地内を散策します。
高度経済成長期に建てられた郊外団地は、緑の多さ、ゆとりある共用空間といった特徴が魅力となり、近年、若い人たちを中心に団地が見直される理由となっています。ここ井野団地は近隣にも自然が多く、敷地内には川が流れており、カモやうさぎを見かけることもあるのだとか。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像7】住民たちが団地の魅力を案内しながら、蓄電(写真撮影:伊藤友二)

散策の後はコミュニティカフェ「いこいーの+TAPPINO」でデザートタイムの後、子どもホテルマンたちによる景品付きのビンゴ大会と、宿泊記念品としてキャンドルづくりが開催されました。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像8】ビンゴは子どもたち自身が司会もつとめた(写真撮影:伊藤友二)

また、サンセルフホテルには”ルームサービス”として団地ならではのさまざまなアクティビティを用意されています。この日、ゲストは子どもたち手づくりのカードゲームや、住民とのおしゃべりを楽しみました。

ルームサービスを楽しんだ後は、客室内の電気の扱いについてホテルマンからレクチャー。各電化製品にどれほどの電力がかかるのか、交流電気は直流電気に比べ20%ほどの電力ロスが発生してしまうことなどが解説されます。
この日の蓄電量は187W。室内の全ての電化製品をONにした場合の電力消費量は136W/h。1時間程度で消えてしまう計算ですが、例えば一番明るいキッチン照明(30W/h)をONにして他の電化製品を切れば、約6時間。プラネタリウムやアロマディフューザー、CDプレーヤーといったルームサービスを楽しんでも、賢く使えば就寝時間まで十分にもつ電気量といえます。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像9】客室内の灯りはLED電球を使い省電力化(写真撮影:伊藤友二)

ルームサービス~よるの太陽

日没を控え、太陽チームはいよいよメインイベント「よるの太陽」の準備へ。
実は今回、「よるの太陽まつり」と題して、誰でも参加できるイベントとして団地内に告知しているのです。刻一刻と暮れていくなか、 “太陽”となるバルーンを膨らませたり、屋根の上へ配線したりと忙しく働くホテルマンたち。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像10】“太陽”となるバルーンはLED電球で光らせる(写真撮影:伊藤友二)

一方、コックチームは夕食の仕込みで大忙しでした。中心メンバーは、この団地に二十年以上住み、子どもたちを育て上げてきたお母さんたち。メニューは、事前にゲストへアンケートを取り、好き嫌いなどを聞いた上で、みんなで相談しながら考えたものです。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像11】この日のメニューは色とりどりの野菜が楽しいカレー(写真撮影:伊藤友二)

夕食が終わると、いよいよ「よるの太陽まつり」が始まりました。バルーンがゆっくりと上空へ、団地の屋根の上へとのぼっていきます。子どもたちの大きな声で「10、9、8…」とカウントダウンが始まりました。いよいよ、点灯です。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像12】一度はバルーンが割れてしまうというアクシデントを乗り越え、団地に上がった「よるの太陽」(写真撮影:伊藤友二)

夜の団地に、ゲストたち自身がつくった電気で太陽が昇りました。ホテルづくりに参加していない住民も集まって、太陽を眺めながらくつろいでいる様子が印象的でした。

ラジオ体操~出発

翌朝8時。サンセルフホテルの朝は、ルームサービスのメニューのひとつ「ラジオ体操」で始まりました。
ラジオ体操の後は、みんなで朝食。パンよりごはん派というゲストの好みに合わせ、鮭の西京漬や卵焼きなど、ホッとするような和食が並びました。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像13】朝のルームサービス、ラジオ体操(写真撮影:伊藤友二)

食事の後は客室で「宿泊日記」を書いてもらい、いよいよチェックアウトです。
フロントに並んだのは、ホテルマン手づくりのお土産たち。どれも、ホテルマンたち自身の特技やアイデアが発揮された、世界でたったひとつのプレゼントです(値段はついていません)。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像14】フロントにお土産コーナーが出現。どれも一点物!(写真撮影:伊藤友二)

帰りのバスの時刻が近づき、別れを惜しみつつバス停へ。その場にいたホテルマン全員でお見送りです。
何度も手を振り、笑顔で団地を後にするゲストたち。見送るホテルマンたちの顔も、高揚感と充実感で輝いていました。

サンセルフホテル(SUN SELF HOTEL)

【画像15】バスに乗り込むゲストを見送るホテルマンたち(写真撮影:伊藤友二)

団地外に住む50代男性のホテルマンは、「地域デビュー」のため、この活動に関わるようになったそうです。東京生まれ、都内に勤める会社員で、18年前に近隣の戸建てを購入。
「定年退職してからやることがなくなって、地元と交流がなかった…なんてことがないように。いずれ夫婦どちらかが亡くなったとしたら、一人で戸建てに住んでいるより団地のほうがいいんじゃないかと思いますね」

また驚いたのは、第1回目のゲストだった親子が、今度はホテルマンとして参加していたこと。自宅のある浅草から週末に通い、準備に携わってきたのだそうです。
「(前回宿泊の)別れ際に、息子が泣いたんです。短い滞在だったのに、人とのつながりを感じているんだなあと。ここではみんな子どもを見守ってくれるし、安心して参加できます」

印象的だったのは、ホテルマンたちが世代の垣根を越え、互いの良さを認め合い、一緒に力を合わせている姿。そしてゲストに対する、本当に心のこもったおもてなしです。
前回ご紹介した「とくいの銀行」はじめ、人と人とのつながりを生み、それぞれの人が持つ才能や力を引き出すことが、サンセルフホテルを他のどこにもない魅力的な場所にしているのでしょう。

無事太陽も上がり、アーティストの北澤さんいわく「大成功」に終わった第2回。現在、第3回(2014年3月〜4月のいずれかの週末に実施)の準備中で、2013年11月29日まで宿泊予約を受け付けているそう。今後のホテルマンたち、そして井野団地の活躍がますます楽しみです!

●SUN SELF HOTEL
HP:http://www.sunselfhotel.com
●井野団地ホテルマン日記
HP:http://sunselfhotel.com/blog/
●取手アートプロジェクト
HP:http://www.toride-ap.gr.jp
https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2015/05/a8e27edbb109e1b071a7d334b4ec9262.jpg
団地がリノベ、DIYで進化中! リノベーションやカスタマイズだけでなく、企業や学生、アートともコラボ!団地を新しい形で再生させる取り組みが活発です。
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