京浜急行電鉄大師線「港町駅」前に広がる、タワーマンション「リヴァリエ」。その一角に今年4月、農家の団体が運営するニュータイプのカフェ「THE FARM CAFE」がオープンした。住民同士のコミュニティ形成に繋がる取り組みや、「災害時備蓄米」の保管など、さまざまな試みをしているというこちらのカフェ。よくあるマンション内のカフェと何が違うのだろう? 現地を訪ねてみた。
広々としたワンフロアの店内は、陽光が燦々と差し込む温かみのある雰囲気。なんでも、千葉の農事組合法人「和郷園」を運営する株式会社和郷が、店舗デザインやコンセプト設計などに携わっているという。なぜ、農業系の企業とタッグを組むことになったのか、「リヴァリエ」の事業主である京急電鉄にお話を伺った。
「農家から直送される新鮮な野菜を、住民の方にも味わってもらいたいという思いがありました。また、飲食店であると同時に、マンションに住む人がコミュニティをつくる場所にしたいという構想もあり、ここでイベントを開催するのもいいかもしれないと考えていました。そこで、和郷園の野菜を使って何か出来ないだろうかという話になったんです」(生活事業創造本部の萩原篤さん)
現在では、店長の山本崇臣さんを中心に、月に1回ほど食にまつわるイベントを開催しているという。
「主に小学校入学前(5歳くらいまで)の子どもを対象に、食育をテーマにした『スイートポテト教室』や、ハロウィンなどのシーズンにあわせた『かぼちゃのマフィン教室』、主婦の方向けには『季節のお野菜を使った混ぜご飯教室』などを定期的に開催しています。ほかにも、お座敷席部分を使ったヨガなども実施しています」(山本さん)
毎回10組ずつ参加者を募集しているイベントは、すぐに満席になる盛況ぶりだとか。「リヴァリエ」自体が最近建ったばかりのマンションのため、住民同士はまだ顔馴染みが少ない。そのため、友達をつくる目的で参加する人も多いそう。
なお、「子どもと一緒でも気兼ねなく訪れてほしい」という想いから、入口にはベビーカー置き場を設置。店内の奥にはお座敷席も設けられ、赤ちゃん連れでも安心だ。さらに、窓際には小さい子どもが遊べる場所を広くとっているため、お母さんたちも子どもにばかり気を取られずに、会話を楽しむことができるなど、さまざまな配慮がなされている。
さらに、こちらのカフェでは大地震などの有事を見越し、大量の「備蓄米」を常備。リヴァリエのマンションに住む全1408世帯の3食分をまかなえるという(現在はA棟のみ完成しているため、455世帯分・約330kgの米を常備し、全棟完成時には約1トンを用意するという)。食料の備蓄をマンション内のカフェに置くのは、全国初の試みだ。この取り組みの経緯について、萩原さんは次のように話す。
「災害対策は、今やどのマンションにおいても最も重要視される事項のひとつ。しかしながら、非常食の備蓄に関してはランニングコストの問題もあり、管理する側としては頭を悩ませる問題でもありました。そこで、カフェを始めることが決まったとき、せっかくなら玄米を多めに仕入れて、通常のメニューとして使いながら、備蓄用として保存できないかという話が持ち上がりました」
災害時にはマンション駐車場屋上の緑化スペースにあるベンチが、お米を炊くかまどに早変わり。スペースも保存食も、とことん無駄をなくすアイデアが光っている。ちなみに、備蓄用のお米は店内で販売もされており、常に新しいものを用意しているため、鮮度が落ちる心配もないのだとか。
店長の山本さんは「今後はイベントの種類も徐々に増やし、マンションの住民だけでなく、近隣住民の方にもどんどん参加してもらいたい」と話す。災害時のサポートだけではなく、人の繋がりを生み出す場所として機能する「THE FARM CAFE」。 “マンションコミュニティの拠点”という新たな飲食店の在り方にチャレンジする事例として、注目だ。