「五月が丘まるごと展示会」が初めて行われたのは2007年のこと。発起人は、この団地に住む彫金作家の坂田玲子さんと、陶芸家の山田順子さんだ。五月が丘に縁のあった画家の宮迫千鶴さんから、街ぐるみのアートイベントとして有名な「伊豆高原アートフェスティバル」の話を聞き、「五月が丘でもできないだろうか?」と考えたのが発端だという。
「五月が丘が『高齢化が進む団地』と紹介されているのをテレビで見たことがありますが、住民は全くそんなことは思っていません。団地の外の人にも参加してもらうことで、こんなにパワフルな人が多く住むこの街のよさも、イベントで体感してもらえたら」と倉本さん。
はじめは20に満たない数だった参加者も増え、今では住民自体も楽しみに準備するイベントに。また、住民との触れ合いのなかで街の魅力を伝えることで、「ここに住みたい」というファンを増やし、街全体を活性化することにも成功しているようだ。
そもそもアーティストが多く移り住んでいる伊豆と違って、五月が丘はごく普通の会社員家庭が多いベッドタウン。参加者も、アーティストではなく、趣味で作品をつくっている人が多い。「参加テーマは別になんだっていいんです。『趣味でこういうのつくってるんだけど、参加できるかな?』という感じで、気軽に参加してもらえれば…」と倉本さん。
また、「主体となっているのが女性たちということもあり、面倒な規制は一切なし。始めるのもやめるのも、お休みするのも自由。そんなゆるいつながりのなかで楽しくやっています」とにこやかに話してくれた。
イベントを始めてから「同じ趣味の人が身近にいると分かって、交流できるようになった」と話す人も多いという。高齢化も確かに進んで一人暮らしの世帯も多いなか、「イベントで知り合って声を掛け合うようになった」という声も。「ほかの街から引越してきて、イベントを通して街に溶け込みつつある人もいますよ」と、倉本さんが紹介してくれたのは、パッチワークや布小物などを制作している谷さんだ。
全国的にも、高齢化が進む団地が増えている昨今。街やそこに暮らす人々を元気にする試みの一つとして、「五月が丘まるごと展示会」の開催はとても面白いケースだと思う。街の元気は人に伝わり、結果的に新たな住民を街に呼び込んで、団地にとっての好循環を生み出している。来年はまた参加して、参加住民の方との楽しい会話を楽しみたいものだ。
倉本さんは、自身が出会ったアーティストにも声をかけ、イベントに誘っている。この日は、若手日本画家の荒川智史さんやパフォーマーのKURAUさんが参加。KURAUさんは団地内のお肉屋さん前で「動くマネキン」のパフォーマンスを披露。道行く人の注目を集めていた。