まちの遊休ストックを活用するために、これから実践で求められる資質や知識とは?福岡県北九州市を舞台に2013年8月15日~18日にわたって開催されたリノベーションスクールは、そのユニークな取り組みが話題を集めている。全国から集まってくる講師陣は、いずれもリノベーション業界の最先端で活躍する人ばかり。学びたいと集まってくる学生も、地元だけでなく、全国から多種多業種の人が集まっている。
「リノベーションスクール@北九州」は、4日間のレクチャー&ユニットワークをベースに行われる。カリキュラムの主軸となるユニットワークでは、受講生が10名前後のユニットにわかれ、北九州に実在する遊休物件を「スクール後に実事業化させること」を前提として実務レベルの計画をたて、物件オーナーへと提案するという内容だ。各ユニットには、優れた事業計画へと導くファシリテーターとしてユニットマスターがサポートに入る。
そのユニットワークに挟まれて行われるレクチャーでは、全国のリノベーションの第一線で活躍する方々が「リノベーション事業の組み立て方」や「ビジネスオーナー目線で組み立てるリノベーションの事業計画」などを講義。各ユニットワークでやるべき、道しるべを示すシステムだ。
今回で5回目の開催となるリノベーションスクールだが、これまでに提案された企画から、事業化されたものも5~6件程度あるそうで、企画コンセプトだけでなく、具体的なロードマップや収支計画までが求められているのも特徴だ。
こうしたリノベーションを学ぶ最先端の取り組みが、なぜ北九州で開催されているのか?そんな疑問を、スクールの代表を務める九州工業大学准教授の徳田光弘さんに投げかけてみた。
「現代社会が抱える問題やリアリティは、地方にあると思っています。北九州は、政令指定都市でありながら、人口減少が大きく高齢者率も高い街。そういう側面でいうと、北九州は最も先進地。その北九州で何か取り組みを起こすことは、全国にたくさんある地方都市へのモデルになり得るのではと思っています。
また、講師陣には、リノベの実践者として第一線で活躍する人たちが集まっていますが、皆さんスクール自体を実践の場として真剣勝負で挑んでくれています。それだけに、スクールを終えた後の成果も感動も大きいですね」(徳田さん)
4日間の集大成となるのが、実際のビルオーナーも前にした公開プレゼンテーション。この状況は、ユーストリームで全国にもライブ中継された。今回の提案では、ホステルやものづくりカフェ、女性士業向けのシェアオフィスなどの提案が行われた。プレゼンテーション後は、アドバイザーから「具体的な運営のイメージは?」「既存店との折り合いのつけ方は?」などの質問や、「小倉名物祇園太鼓をホステルのウリにしてみては」など具体的なアドバイスもとんだ。
倍率2倍の中から選ばれたスクール参加者の一人、須部さんは鹿児島からの参加者。普段は、不動産業を営んでいる。参加してみての感想を伺ってみた。
「まず、今まで漠然と思い描いていたリノベーションのイメージと実際の違いを感じました。リノベーションでは建築の知識だけじゃなく、マーケティングやマネージメントの能力、物件ごとに必要とされる再生のためのニーズをひろっていくセンスなどが求められます。今回のスクールでは、8名のユニットを組ませてもらいましたが、建築やアートはもちろん、福祉を専門にする方や行政の方など、多様な視点で企画を練ることができたのが面白かったですね。
4日間という限られた時間のなかで企画を考えていくので、寝る時間もないほどでしたが、飲食店起業家をサポートするというユニークな場のプランができました。今後、実際のリノベーションに関わっていく場合も、いろんな得意分野をもつ人が集まってプロジェクトを進めていかなくてはと思っています」
今後は、そもそもの根底となる建物診断や経済学なども学んでいけるように、半年や1年スパンでのスクールの開催も検討中とのこと。また、リノベーションスクールを、同じような問題を抱える地方都市へ波及していくための計画も進行中ということ。
地方発のリノベーションの取り組みにさらなる注目が集まりそうだ。