最後の「同潤会アパート」として注目されていた、上野下アパートの建て替えプロジェクト。新しく建て替えられるマンションのモデルルームが、いよいよオープンした。同潤会の面影を残すというマンションのモデルルームを見学してきた。
同潤会アパートとは何か?
筆者の記事「同潤会『上野下アパート』のマンション建替組合設立が認可。計画内容は?」(https://suumo.jp/journal/2012/10/17/30745/)で詳しく説明しているが、関東大震災後の復興策のひとつとして、不燃の鉄筋コンクリート造による集合住宅の先進事例として「同潤会アパート」は日本の住宅の歴史に大きな足跡を残した。
しかし、建築後60~80年が経過して、建物や設備などの老朽化などによって次々と建て替えられていく。築後84年経過した上野下アパートは、同潤会アパートとして最後の建て替え事業となった。UG都市建築がコンサルタントに、三菱地所レジデンスが事業協力者に選定され、マンション建替組合が設立された。
また、上野下アパートが関東大震災後の防災を重視していたことから、この規模では珍しく「制震構造」(地震の揺れを抑える制振装置を構造体に組み込んだもの)を採用し、非常用電源や防災備蓄庫を装備。従前にあった井戸についても、従前の井戸を一部(上部)再利用した水栓を新たに設けているなど、そこかしこに歴史を受け継いでいるのが特徴だ。
特徴ある外観で地域に存在感を示していた同潤会アパートだけに、建て替え後のマンションにもその面影を残していることは、地域の人にとっても受け入れやすく、親しみを感じるものになることだろう。
建て替え事業なので、128戸のうち52戸は事業協力者(上野下アパート時代の所有者)の住戸となるが、残りの76戸は新築マンションとして販売される。25.17㎡~75.26㎡の幅があり、価格は2000万円台後半から8000万円前後までの予定。
もともとの敷地が東西に細長い形状だったこともあり、新しいマンションも東西方向に横長、つまりバルコニー側が南面に向いて建つのが大きな特徴だ。そのため、南に面した居室が多いというメリットにつながる。モデルルームの62㎡タイプでも、南面が8.5mとかなり広く取ることができている。
さらに、5月24日からモデルルームがオープンしており、問い合わせや来場への接客が始まっている。このマンションの最も評価されている点について、販売担当者の高鹿(こうろく)佐和子さんにうかがった。「最もご評価いただいている点は、交通アクセスです。東京メトロ銀座線稲荷町駅徒歩1分で、ターミナル駅の上野駅にも近いという点が大きな魅力と受け止められています」
こうした好立地に建てられるのも、建て替え事業ならでは。さらに、JR上野駅は山手線、京浜東北線だけでなく、常磐線、高崎線、宇都宮線の起点で、東北新幹線も停車するほか、東京メトロの銀座線と日比谷線が乗り入れている。駅周辺の再開発も進み、ますます利便性が高まっている。
「もちろん、従前の上野下アパートにお友達がいたから、文化的な建物に興味があるから、といった理由を挙げる方もいらっしゃいます。20代から80代まで幅広い方が、このマンションに興味を持たれて来場されています」(高鹿さん)
マンションの周辺を歩いてみると、表通りは商業施設が立ち並ぶ現代風の街並みだが、一本道に入ると昔ながらの住宅の街並みが残っている。近くには、高層の台東区役所もあるが、歴史あふれる下谷神社もあり、独特の雰囲気を醸し出している。さらには、美術館も多い上野公園や歴史情緒のある浅草にもほど近く、下谷神社のお祭りなども多いという。
当時のモダンな世帯が住んだ「同潤会アパート」は、住人同士のコミュニティの強さにも特徴があった。
町のお祭りに参加したり、昔からの住人とのコミュニティに興味を持ったり、建物の風合いや周辺エリアの文化に親しむなど、大人の成熟した文化を楽しめる人が入居したなら、楽しく住めるだろうと思った次第である。