街・地域
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井村幸治
2014年11月6日 (木)

近畿で唯一人口が増加している滋賀県、その理由とは?

大津市の琵琶湖湖岸に立ち並ぶマンション(写真撮影:井村幸治)
写真撮影:井村幸治

総務省が発表した人口推計によると、全国の総人口は前年比で21万7000人の減少。47都道府県のうち人口が増えたのは8都県にとどまった。東京都、愛知県、神奈川県、福岡県などの大都市と共に、近畿圏で唯一人口増加を示したのが滋賀県だ(平成25年10月1日時点)。また、14歳以下の年少人口の割合が沖縄県に次ぎ第2位と高い数値を示したのも滋賀県。なぜ滋賀県なのか?

県南部を中心にして人口が増加、14歳以下の人口比率も高い

まず、市町村別に人口増加率をみると、上位から守山市(1.04ポイント増)、草津市(0.92ポイント増)、栗東市(0.77ポイント増)、愛荘町(0.66ポイント増)、近江八幡市(0.36ポイント増)、大津市(0.28ポイント増)と続く。地理的にみると、滋賀県南部エリアが中心となって人口が増加していることが分かる。また「14歳以下の人口比率」が高いのがマップにあるエリアで、人口増加率上位ともほぼ重なっている。

【図1】市町村別年少人口(14歳以下)の割合。平成26年4月1日現在(滋賀県調べ)

【図1】市町村別年少人口(14歳以下)の割合。平成26年4月1日現在(滋賀県調べ)

では、なぜ滋賀県だけが人口が増加するのか、理由を探るべく滋賀県庁のある大津市を訪ねてみた。大津駅は京都駅へも東海道本線の新快速で約9分と非常に便利なエリアで、琵琶湖湖岸に迫るようにマンションが建ち並び大阪や京都へ通勤する人も多い。

京都市内は景観保護のためにマンションの高さが制限されるなど、住宅の供給数自体が限られて価格も高額となりがち。そのため京都に通勤する子育て世帯でも、価格的にもお手ごろ感のある大津市やその周辺エリアでマイホームを購入するケースが多いそうだ。確かにそれは人口増加の一因といえそう。

しかし、人口が増えているのは大津市だけではない。そこに浮かびあがるのが「ドーナツ化」というキーワード。どうやら、大津市を中心にJR東海道本線に沿い、琵琶湖に波紋が広がるように都市の拡大や人口の増加が進んでいるようなのだ。その象徴的な街をいくつか実際に訪ねてみた。

【図2】JR東海道本線(琵琶湖線)の駅。太字は記事内で紹介(編集部作成)

【図2】JR東海道本線(琵琶湖線)の駅。太字は記事内で紹介(編集部作成)

人口増加の象徴「南草津駅」は1994年に開設された新駅

まず、県南部の発展と人口増加を理解するための象徴的な街「南草津駅」(京都駅まで約20分、新大阪駅まで1時間強)を訪ねた。南草津駅周辺は田畑の広がる土地であったが、区画整理事業によって街づくりが進められ1994年には新駅が開業、その後立命館大学のキャンパスや大手メーカーの工場などが続々と周辺に進出した新しい街だ。

駅近辺には大型ショッピングセンターや駅直結のテナントビルなどが連なり、駅に隣接するように高層マンションが林立している。少し周辺を歩けば一戸建ての住宅地も広がっている。さらに2011年3月からは新快速が停車することとなり、大阪などへの利便性も一気に高まった。新駅の設置と計画的な街づくりによって、若い世代が数多く移り住んできたということがよく分かる。

この街は、首都圏で例えると東海道線東戸塚駅のイメージに近いかもしれない。東戸塚駅も1980年に開業した比較的新しい駅。良好なアクセスをもつ東京都心へのベッドタウンとして、マンション群や商業施設が集積する姿がダブってみえる。

【画像1】南草津駅の周辺には真新しいマンション群。アクセスはとても良好で、ベランダから駅のホームへ手を振れるほどだ(写真撮影:井村幸治)

【画像1】南草津駅の周辺には真新しいマンション群。アクセスはとても良好で、ベランダから駅のホームへ手を振れるほどだ(写真撮影:井村幸治)

【画像2】南草津駅前の商業施設。2011年から新快速も停車する駅となり利便性が高まった改札にはバス乗り場の案内板があり、大学や産業施設、医療機関、ショッピングモールなどさまざまな施設が(写真撮影:井村幸治)

【画像2】南草津駅前の商業施設。2011年から新快速も停車する駅となり利便性が高まった改札にはバス乗り場の案内板があり、大学や産業施設、医療機関、ショッピングモールなどさまざまな施設が(写真撮影:井村幸治)

東海道線沿線を中心にして街が発展、土地の持つポテンシャルが高い「草津駅」「栗東駅」「野洲駅」

さらに東海道本線沿いに、京都駅まで23分の草津駅、27分の栗東(りっとう)駅、33分の野洲(やす)駅といくつかの街を訪ねてみると、それぞれの駅を拠点として波紋のように街づくりが進む様子がよく分かる。共通しているのが、ほぼ直線状に伸びる線路と起伏の少ないフラットな風景。駅前から少し離れるとゆったりとした一戸建ての住宅地や緑の田畑が広がり、琵琶湖東岸に位置する豊かな土地であることに気がつく。

【画像3】草津駅は草津線の分岐駅。タワーマンションも建ち、ペデストリアンデッキが整備され、駅舎と商業施設が直結してにぎわいを見せている(写真撮影:井村幸治)

【画像3】草津駅は草津線の分岐駅。タワーマンションも建ち、ペデストリアンデッキが整備され、駅舎と商業施設が直結してにぎわいを見せている(写真撮影:井村幸治)

【画像4】栗東駅の東側にはマンション群、西側には駅前から一戸建て住宅街が広がり、落ち着いた街並みとなっている。栗東駅も1991年の開業と比較的新しい駅だ(写真撮影:井村幸治)

【画像4】栗東駅の東側にはマンション群、西側には駅前から一戸建て住宅街が広がり、落ち着いた街並みとなっている。栗東駅も1991年の開業と比較的新しい駅だ(写真撮影:井村幸治)

【画像5】野洲駅周辺はまだまだのんびりした風景。JR大阪駅からの所要時間は約1時間、野洲駅行きの最終電車は深夜0時発1時着で、遅くまで大阪で飲んで帰ることも可能(写真撮影:井村幸治)

【画像5】野洲駅周辺はまだまだのんびりした風景。JR大阪駅からの所要時間は約1時間、野洲駅行きの最終電車は深夜0時発1時着で、遅くまで大阪で飲んで帰ることも可能(写真撮影:井村幸治)

【画像6】田畑が広がる豊かな土地だが、工場など企業の進出も進んでいる(写真撮影:井村幸治)

【画像6】田畑が広がる豊かな土地だが、工場など企業の進出も進んでいる(写真撮影:井村幸治)

発展のベースには、平坦で広大かつ豊かな土地の存在がある。琵琶湖周辺の航空写真をみると、東岸から南部にかけて何本もの河川がつくり出した平地が拡がっていることが分かる。

織田信長の居城・安土城もこの一角に築城され、古くは旧東海道と中山道が通り近江商人の活躍したエリアとしても知られている。つまり、歴史的にも豊かな経済基盤を持つエリアであったのだ。また、市街化区域内の農地も多く存在し、宅地や工業用地などへの転用も比較的容易であったことも人口増加の背景にあるようだ。

現代でも滋賀県は東海道本線、東海道新幹線、名神高速道路など東西を結ぶ大動脈が通る交通の要衝。2013年には名神高速道路の彦根~八日市間にETC車専用の「湖東三山スマートインターチェンジ」が開業し、産業面と観光面でもプラス効果が現れ始めている。さらに、県南部では新名神高速道路の大津ジャンクションからの延長工事が進み始め、将来的には神戸まで開通する予定だ。

滋賀県の人口増加の要因を整理してみよう。

【滋賀県の人口増加の背景にあるポイント】
・駅やインターチェンジを新設することで利便性を向上させ、求心力を高めることができた結果、京都や大阪方面のベッドタウンとして発展することが可能であった
・フラットで肥沃な土地も多く、駅の周辺部にも一戸建て住宅地を開発する余地が残されていた
・古くは東海道と中山道が通る交通の要衝。現代も東海道新幹線、東海道本線、名神高速道路、新名神高速道路など東西の物流大動脈が通る地理的優位性をもっている
・内陸工業県として産業の集積も進み、大学や研究機関の誘致にも成功した
・琵琶湖の自然環境や、歴史資源にも恵まれた、住みやすい住環境を持つエリアであった

ただし人口のピークの予測は2015年! 「住み心地日本一」で人口減少は防げるか?

ただし、滋賀県の人口増加もピークは2015年、来年だと予測されている。人口増加のトレンドが他県よりも長く続いてきた滋賀県であるが、日本全体で進む人口減少の波から免れることは難しいのだ。滋賀県の特徴は年少人口割合の高さだが、「若い世代」にとって住みやすいまちづくりを進めていくことが、人口減少のカーブを穏やかにできるかどうかの鍵をにぎるのだろう。

そのため、滋賀県では「住み心地日本一の滋賀」を目指して各種の施策が練られている。子育てや医療面などさまざまな観点から「住み心地」を高めようということだが、「心地」という感性の指標を高めて行こうとする政策は珍しい。この効果が出て滋賀に住みたい人、滋賀ファンが増え続ければ、「減少予測に反して、人口は減りませんでした!」といった結果になるかもしれない。そのポテンシャルは十分に持っているエリアだと思う。

【画像7】宅地分譲が進む能登川駅前。駅から近い場所での住宅開発の余地はまだまだ残されており、フラットなアクセスを考えると子育てファミリーやシニア世代にもふさわしい住環境だということもできそうだ(写真撮影:井村幸治)

【画像7】宅地分譲が進む能登川駅前。駅から近い場所での住宅開発の余地はまだまだ残されており、フラットなアクセスを考えると子育てファミリーやシニア世代にもふさわしい住環境だということもできそうだ(写真撮影:井村幸治)

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