ライフ

「一汁三菜」こそ日本の食文化 世界無形文化遺産へ登録申請中

世界最高の食が集結する日本でも一汁三菜こそが土台

 ユネスコの「世界無形文化遺産」に料理が認められるという。すでにフランス、メキシコ料理が無形文化財に指定された。「日本の食文化」もすでに申請している。その意外な、しかし日本人の誰もが頷く内容とは。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。

 * * *
 先日、放送がスタートした「アイアンシェフ」。1993~1999年まで放送されていた人気番組「料理の鉄人」の復刻版である。この番組の再始動に火をつけたのは「日本食文化の世界遺産化プロジェクト」だという。日本政府は今年の3月、ユネスコに「日本の食文化」の世界無形文化遺産への登録を申請(提案)した。

 実は料理の世界無形文化遺産登録は、近年のトレンドでもある。今回の日本の提案に一番近いのは、2010年に世界無形文化遺産登録が認められた、「フランスの美食術」。「集団や個人の人生にとって、もっとも大切な時を祝うための社会的慣習」として、無形文化遺産としての条件を満たすと判断された。

 世界無形文化遺産に登録されるのには、いくつかの条件があるが、「社会的慣習」「自国のアイデンティティ」として認知されているかどうかは重要な要件である。

 実はフランスのほかにも「地中海料理」「メキシコ料理」が無形文化遺産として認められ、トルコの伝統料理も登録されていて、フランス以外の3つの料理はさらに絞りこまれている。

 例えば「地中海料理」と聞くと、日本では地中海の海産物などを使ったブイヤベースが想像されるが、無形文化遺産に登録されたのは、スペイン、イタリア、ギリシャ、モロッコの4か国でオリーブオイルを中心とした食文化を指すものだという。

「メキシコ料理」も7000年前から代々口伝された伝統が反映された料理で、とうもろこし、マメ、唐辛子の3つを基本とし、環境との共生、地域社会のつながり、自国のアイデンティティにおいて大きな意味を持つものとされる。

「トルコ料理」はさらに絞りこまれていて「ケシケキ」と呼ばれる祭礼の際に供される料理で、食文化のみならず、祭礼としての伝統的な慣習の評価もあるという。

 今回の「日本の食文化」の定義は、これらのとは少し異なっている。例えば「地中海料理」の提案手法を当てはめると、アジアにおける「日本海料理」(という食文化圏はないが)という名前で、日中韓台が「ゴマ油料理文化」を提案するという感じだろうか。

「メキシコ料理」と照らし合わせるなら、紀元前4000年頃から現在までの6000年間、日本人に愛されてきたマダイ、クロダイなどの「鯛食」に相当するとういところか。トルコの「ケシケキ」のような祭礼の際に供されるとなると、日本では田植えが終わって一息つく宴の「さなぶり」が相当するとも思える。

 今年申請された「日本の食文化」は「広範囲」と評されるフランスの「美食術」よりもはるかに広範囲に渡っている。懐石料理のような高級な和食ではなく、「ごはん、みそ汁、おかず」、つまり「一汁三菜(汁物1品とおかず3品(主菜1品+副菜2品))」に象徴される、日常の日本食が「日本の食文化」として申請されたからだ。

 日本はミシュランガイドに格付けされた店が世界一多い国であり、首都・東京は世界一星の数が多い都市でもある。世界最高の食が集結する日本に暮らす国民にとって、「食文化」が指す範囲はあまりにも広い。だがその土台にある「ごはん、みそ汁、おかず」は、まぎれもなく日本の食文化である。

 海外からの帰国時に、きちんと出汁をとったみそ汁を一口すすり、炊きたてごはんをほおばったときの、胃袋だけでなく心にまでしみ入るような至福感。あれこそが、まさに「日本の食文化」なのだ。

「日本の食文化」についての世界無形文化遺産登録の審議は、2013年の秋以降が予定されている。

関連記事

トピックス

破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
伊藤沙莉は商店街でも顔を知られた人物だったという(写真/AFP=時事)
【芸歴20年で掴んだ朝ドラ主演】伊藤沙莉、不遇のバイト時代に都内商店街で見せていた“苦悩の表情”と、そこで覚えた“大人の味”
週刊ポスト
総理といえど有力な対立候補が立てば大きく票を減らしそうな状況(時事通信フォト)
【闇パーティー疑惑に説明ゼロ】岸田文雄・首相、選挙地盤は強固でも“有力対立候補が立てば大きく票を減らしそう”な状況
週刊ポスト
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン