木造の建物は、大工さんが木を削ったり組んだりしてつくられる。ではコンクリート製の建物は、どうやってつくられるのだろう。疑問を解消すべく調べていくうちに、行き着いたのは「型枠大工」という仕事。具体的にどんなことをして、どうやって建物をつくるのか、社団法人日本建設大工工事業協会東京支部の支部長・星幸三さんに話を伺った。
鉄筋コンクリートの建物を建てる際、コンクリートでできた壁や柱を運んできて組み合わせると思っていたら大間違い。実は、現場でコンクリートを固めてつくっていくのだ。その際に欠かせない存在が、「型枠大工」だという。
「枠を組み立ててその中にまだ柔らかいコンクリートを流し込んでいくのですが、その枠をつくる職人のことを型枠大工と言います。建物の各パーツの鋳型をつくるような仕事だと思ってもらえればイメージしやすいでしょう」(星幸三さん)
つまり、型枠とは鉄筋コンクリートの建物をつくる際に必要となる器のこと。ただ、現場で型枠を組み立てればいいというものでもないのだという。
「型枠大工の出番は、建物を安定させるために地盤に杭を打ち込む『杭打ち工事』が終わってから。水平垂直を確かめながら印をつけていく『墨出し』と呼ばれる作業を行い、それに沿って型枠を組み立てていきます。その後、型枠のなかにコンクリートを流し込み、コンクリートが固まったら型枠を外す。大ざっぱに言うと、これが一連の作業の流れになります」
一口に型枠といっても、外壁、柱、梁、内壁、床用とさまざまな種類が存在。建物の規模によっても異なるが、大掛かりな構造物の場合は作業に10カ月ほど要することになるという。
型枠大工として一人前になるには、最低でも10年はかかるという。プロの現場では、それだけ高い技術が要求されるということだ。
「垂直精度±3㎜というのが、業界の一般的な許容範囲。これ以上歪みが出ると、建物の強度や出来映えに大きな影響が出てしまいます。コンピュータを使わずに人間の手で、図面との誤差を±3㎜以内におさめる。それが、型枠大工の仕事なのです」
海外のニュースで、コンクリート製の建物が突然崩れたという信じられない光景を目にしたことがある。ところが日本では、これはあり得ない話。日本の建築に関する安全神話を支える要素のひとつが、型枠大工の腕と言えそうだ。
「全世界の建築現場を見て歩いたわけではありませんが、ヨーロッパやアジアと比べると日本の型枠大工の精度に対するこだわりは相当高いと思います。ですから、垂直精度±3㎜以内でつくられた躯体だけを見ても美しい。『すっぴんでも美人』というのが、私たち型枠大工の常識なのです(笑)」
ちなみに安藤忠雄氏の作品は、コンクリートの素肌をそのまま建物表面の仕上げにした『化粧打ち放し仕上げ』にしたものが大半だという。世界的に有名な建築家を支えているのも、実は型枠大工なのである。
型枠大工というのは、鉄筋コンクリートの建物の精度や仕上がりを大きく左右する重要な職種だということがよく分かった。鉄筋コンクリートの建物に住むときは、日本が誇る型枠大工の技術に思いをはせてみては?