ジュニアにはいくつか住んでみたい街の候補があり、実際にそこを歩きながら物件を探したいという。さっそく指定されたカフェに向かうと、すでに彼が待っていた。スラリと背の高い、なかなかのやさ男に成長している。
「ゴブサタダナ。今日はヨロシク!」
海外生活が長かったためか、若干日本語がアヤシイ。語尾が不遜で腹立つが、仕方あるまい。でも、サングラスはとりなさい。
ところで、どんなところに住みたいんだ、君は。
「ナカメかロッポンギに決まってるダロ! 最低でも200平米は必要だナ」
何が「決まっている」のかは分からないが、どうやら事前に東京のオシャレな街、というか住んだらモテそうな街を調べてきたらしい。でも、家賃高いぞ! 払えるのか?
「HA・HA・HA! カネに糸目はつけナイヨ~」
なんかむかつくな、こいつ。
しかし、乗りかかった船である。堪忍袋の限界まで付き合うとしよう。
なんでも、彼には物件探しの秘策があるという。
差し出したのは買ったばかりだというApple Watch。なんでもSUUMOのiOSアプリをダウンロードすると、「おさんぽ検索」なる機能が使えるらしい。希望の家賃と間取りを設定して街を歩くと、条件に合う空き物件を検知。音やバイブでお知らせしてくれるのだとか。
「オサンポ感覚で物件サガシがデキる、画期的なアプリなんダヨ」と自信満々だ。不快きわまりないドヤ顔はさておき、アプリは確かに便利そうだ。
さっそくアプリを使い、まずは六本木にて物件探しを試みる。予算はある! と彼が豪語するので、とりあえず間取りの条件のみを設定して散策スタート。すると、さっそく物件が通知されたようだ。画面には「六本木ヒルズ」とある。
いやいや、人生の勝ち組が住むとこだから。べらぼうに家賃高いんだから、そこ。
いくらなんでも無理なんじゃないかい、ジュニアよ、おいジュニアよ!
「はあ? ビンボー人はクソシテ寝テナ」
日本語が不自由なくせに罵詈雑言の切れ味はやけに鋭い男だ。そこまで言うなら自慢のApple Watchで家賃をチェックしてみるがいい。
驚愕の家賃に言葉を失うジュニア。家賃だけじゃなく敷金・礼金も700万超えという天上人の世界を目の当たりにして、さすがに現実の厳しさを知ったようだ。
尋常じゃないほど落胆するジュニア。なんだかかわいそうになってきたな。
ていうか、もしかしてホントはカネないのか・・・?
だが、けっきょく六本木ヒルズ周辺では目ぼしい物件は見つからなかった。そこで次に、もうひとつの希望エリアである中目黒にやってきた。
東京屈指の桜の名所としても知られる目黒川沿いは、オシャレな芸能人も多数住んでいるといわれる人気エリアである。さすがに7万円未満の部屋などそうそう見つからない。
そこで、家賃の条件を「7万円~11万円台」にまで広げてみると川沿いのマンション、桜並木を見下ろす2Kの部屋がヒットした。
かくして、ジュニアは無事、素敵な部屋に巡り合うことができた。ボストンにいるパパも、きっと喜んでくれるだろう。
それにしても、ただ歩くだけで空き物件の情報が分かるなんて、便利な時代になったもんである。これなら例えば、たまたま出かけた街の雰囲気が気に入ったときなどにも、その場ですぐ物件を探すことができてしまう。従来の不動産屋めぐりでは縁がなかった思わぬ掘り出し物と、タイミングよく出合うチャンスも広がるだろう。
スマホやApple Watch、情報デバイスを駆使した最新のお部屋探し。ハイテク好きにはおすすめです。
※この物語はフィクションであり、ジュニアことTくんは埼玉育ちの真面目で礼儀正しい好青年です。