国土交通省は、ここ数年、中古住宅市場の活性化に向けたさまざまな政策を打ち出している。その一環として、中古住宅の建物評価手法で新しい指針を策定した。その理由と指針の内容について、見ていこう。
中古住宅を売買する際に、住宅価格の妥当性を評価することは、売主にも買主にも、売買を仲介する不動産会社にも、住宅ローンを貸す金融機関にも重要な課題だ。
しかしながら、これまで建物評価については、築後20~25年程度で建物価値をゼロとみなすといった、築年数のみを基準とする評価手法がとられていた。個別の住宅によって異なる使用価値に応じた適正な評価が行われていない、リフォームなどで使用価値を向上させた場合でも住宅価格に適正に反映されていないという問題点が指摘されてきた。
そこで、国土交通省は有識者による「中古住宅に係る建物評価手法の改善のあり方検討委員会」を設置。主として、中古一戸建ての流通時の建物評価の改善について検討を行ってきた。その結果を「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」としてとりまとめ、公表した。
指針では、「使用価値」(人が居住するという住宅本来の機能に着目した価値)を評価の対象とし、個々の住宅の状態に応じて使用価値を把握したうえで評価することを基本としている。評価改善のあり方として「原価法」の運用改善や精緻化を提言しているが、原価法とは評価時点の住宅の再調達原価(もう一度建築した場合の額)を求め、この再調達原価について減価修正を行うもので、不動産鑑定評価の方法のひとつ。
具体的には、住宅全体を評価するのではなく、住宅を大きく「基礎・躯体(くたい)」と「内外装・設備」(さらに外部仕上げや内部仕上げ、設備などに区分)に分類し、それぞれに再調達原価を算出して、各部位の特性に応じて減価修正をしたうえで、それを合算して建物全体の価値を導き出すとしている。
基礎・躯体の評価については、
・インスペクション(建物診断)や適切な維持管理の実施状況を示す資料から把握した、劣化の進行状態に応じて経過年数を短縮したり、延長したりして評価をする
・基礎・躯体の機能が維持されている限りは内外装・設備の補修などが適切に行われることで、使用価値を回復・向上させて評価をする
などの考え方も提示されている。
国土交通省では、この指針に基づいて、不動産会社が価格査定を行ったり、不動産鑑定士が鑑定評価を行ったりするように検討することを求めている。また、こうした建物評価を活用し、中古一戸建ての売買時において、現状の市場価格と参考価格(新しい評価手法による価格)を併せて提示したり、実際の築年数に加えて実質的経過年数などを提示することで、価格の適正化につながると期待している。
一方、中古住宅市場の活性化については、「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル」でも議論されている。ラウンドテーブル(座り順に上下のない円卓の意味)としているのは、不動産取引実務・金融実務の関係者が一堂に会し、率直な意見交換を行う場としたいからで、事務局は国土交通省であるが、金融庁がオブザーバーとして参加し、省庁横断で検討する点に大きな特徴がある。前述の指針の公表と同時期に、ラウンドテーブルの平成25年度の報告書も公表された。
ラウンドテーブルでも、「新たな建物評価指針の不動産市場・金融市場への定着と事業者間連携のあり方」が議題のひとつになっており、平成26年度も継続して議論されることになっている。ここでは、金融機関が住宅ローンの担保評価をする際の見直しも検討される。ほかにも、新たな住宅金融商品の設計やリバースモーゲージなどの高齢化社会向けの金融商品の設計、リフォーム一体型ローンの活用なども議論される。
消費者が中古住宅を購入する際の不安要因として、「住宅価格が妥当かどうか分からない」ことがよく挙げられる。不動産会社が査定する住宅価格は、立地や広さ、築年数などの条件が同じような取引事例を基にすることが一般的だが、新しい建物評価が定着すれば、部位ごとにどういった評価がされたかが分かるようになり、住宅価格を判断する材料が増えることになる。
指針が提示された段階なので、今後具体的な動きとして定着するまでにはまだ時間がかかるが、中古住宅市場の活性化に対する効果はかなり大きいと思う。売主側は高く売るために、日ごろからメンテナンスを行い、リフォームで機能を向上させるようになり、買主側は適正に担保価値が評価されるので、住宅ローンを活用しやすくなるからだ。今後も大いに注目していきたい。