アメリカの不動産市場は下落を続けているが、この数カ月で価格が上昇基調に入っている。アメリカでの不動産投資や将来の移住に興味を持つ方にとって、最新トレンドを把握することは重要だ。2004年より渡米し、アメリカ進出と不動産投資の支援ビジネスを運営する筆者が、カリフォルニア州ロサンゼルスの例を見ながら、その背景と現状、今後の見通しを報告する。
アメリカの不動産マーケットは2006~2007年をピークに下落の一途を辿ってきた。私が住むカリフォルニア州ロサンゼルスも不動産取引が盛んな地域であるため、2000年を過ぎたころから価格が急激に上がり始め、全米の平均値以上に高騰した。当時、私はちょうど渡米したばかりのころだったが、友達が都心部では価格が高いため、車で1時間以上離れた郊外のリバーサイドの新興住宅地の家を探していたのが思い出される。
カリフォルニアは2007年ころが値上がりのピークだったが、昨年までの約5年の間に、需要の高い住宅地で20%~30%、郊外の住宅地では40%~60%まで下落し、日本のバブル崩壊後のような市場となった。
この影響でここ数年は、家を売ってもローンの残債が全額返済できない「債務超過物件」が増加してきた。
ただ日本と違う点は、アメリカの住宅ローンは返済できなくなった場合、担保になっている資産(不動産)以外に債権の取り立てが及ばない、いわゆる「ノンリコース・ローン」が主流であるため、残債務の負債は銀行がかぶることになる。これは売値が残債額よりも「Short=足りない」ということで「ショートセール」と呼ばれているが、カリフォルニア州の平均では取引の約2割強がショートセールとなっている。
この物件価格の下落も、今年の夏でようやく上昇基調に転じてきた。
この背景には、住宅ローン金利がアメリカ史上最低水準を更新していることが影響しているが、10月現在の30年固定金利は3.5%。日本の方からは「それで安いの?」という声が出そうであるが、アメリカでは1994年は9%台、2000年は7%台後半、2007年でも6%台だったことから考えると、現在は非常に低い水準であると言える。
カリフォルニアの各地は賃料が比較的高いため、購入を考えるファーストバイヤー(一次取得者)の意欲が高く、また価格がピークから下がりきったと判断する投資家による現金一括での購入も増えている。
一方で、ピークから下落が続く市場の中で、売却する必然性のない売主は「売り控え」「様子見」を続けている。購入需要は高く、売却希望が少ない。これによって、特にこの1年の間で物件の流通量が激減した。
日本関連の生活諸施設が充実したエリアであるロサンゼルス・トーランス市の例を挙げると、2011年8月に中古一戸建ての流通戸数は224件であるのに対し、2012年8月は99件と半数以下と少なくなっている。
このように少ない選択肢のなか、妥当な価格でコンディションの良い物件が出ると、数日の間にオファーが複数入ることも珍しくない状況となっている。
そして競合に勝ってオファーが選ばれるために価格が競り上がっていき、その結果、全体の物件売り出し価格、成約価格が共にじわじわと上昇してきたのが現状だ。
今後の展望としては、低金利がしばらく続く限りはバイヤーの購入意欲はキープされることと思われる。アメリカは新学期が9月であるため、ファミリー層の動きとしては2、3月ごろから家を探し始め、夏の前には購入のオファーを入れ、契約後に夏休み中に引越しを完了するというのが一般的だ。つまり、今から冬にかけてシーズン的にはスローダウンする時期であるため、次に市場が活発になるのは年明け以降。物件価格は底を打ったものの、今後の不動産市場はしばらく堅調な動きが続くものと思われる。
流通物件数は少ないものの価格は低い水準であるため、居住・投資ともに購入するには良いタイミングだと言える。今後も引き続きウォッチしていきたい。