2012年2月10日、国土交通省が「賃貸住宅標準契約書」の改訂版を公表した。大きな改訂ポイントは、退去時の原状回復費用に関する内容を明確化したこと、反社会的勢力の排除に関わる事項を新設したことの2点だ。
賃貸住宅を借りるときに、貸主と賃貸借契約書を交わすことになるが、その雛形となる「賃貸住宅標準契約書」が改訂された。標準契約書は1993年に作成されたものだが、この間の賃貸住宅をめぐるトラブルを受けて、それらを未然に防ぐために条項の改訂や解説コメントの追加などを行った。なかでも大きな改訂点は、退去時の原状回復費用に関する内容を明確化したこと、反社会的勢力の排除に関わる条項を新設したことだ。
具体的には、暴力団などの反社会的勢力を不動産取引から排除するために、第7条にあらかじめ「借り主と貸主が反社会的勢力でない」ことを互いに確認することが追加された。また、第14条に「借り主の退去時の原状回復義務は、通常の使用に伴う損耗については生じない」こと、「借り主、貸主間で原状回復の内容及び方法について協議」した上で実施することが規定された。
賃貸住宅で最も多いトラブルが、原状回復の費用分担だ。原状回復とは、借りた当時の状況に戻すことだが、国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では、「借り主の通常の居住、使用による物件の破損、損耗」は貸主の負担で、「借り主の故意や過失などによる物件の破損、損耗」が借り主の負担としている。例えば、冷蔵庫跡の壁の黒ずみは貸主負担、冷蔵庫下に付いた錆を放置した跡は借り主負担であり、カーペットに残る家具の跡は貸主負担、借り主の不注意で付けたフローリングの傷は借り主負担であるとしている。
今回の標準契約書の改訂には、このガイドラインの内容が反映されている。標準契約書の別表第5(第14条関係)として、ガイドラインに盛り込まれた貸主と借り主の修繕分担表を明示し、これに基づいて協議すること、目安として原状回復工事にかかる単価を記載することを推奨する内容となっている。ただし、標準契約書は、必ずしも契約時にその使用が義務づけられているわけではない。そのため、実際に契約書を交わす際には、個別の契約書の内容をしっかり確認する必要がある。その際に参考としたいのが、この「賃貸住宅標準契約書」だ。また、本来は貸主負担とするべきものを、借り主負担とする特約を設ける場合もある。その場合は、特約の内容について確認し、納得した上で契約するようにしたい。
なお、既に賃貸借契約を交わしている場合はその契約内容に従うことになるが、退去時の原状回復については契約書に具体的に記載されていない場合がほとんどなので、標準契約書の記載内容を参考にして貸主と協議するとよいだろう。なんといっても、国のお墨付きなのだから。
■「賃貸住宅標準契約書」より抜粋
(反社会的勢力の排除)
第7条 甲及び乙は、それぞれ相手方に対し、次の各号の事項を確約する。
一 自らが、暴力団、暴力団関係企業、総会屋若しくはこれらに準ずる者又はその構成員(以下総称して「反社会的勢力」という。)ではないこと。
二 自らの役員(業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者をいう)が反社会的勢力ではないこと。
三 反社会的勢力に自己の名義を利用させ、この契約を締結するものでないこと。
四 自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないこと。
ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為(明渡し時の原状回復)
第14条 乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、本物件を原状回復しなければならない。
2 甲及び乙は、本物件の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第5の規定に基づき乙が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとする。※甲は貸主、乙は借り主を指す
国土交通省「賃貸住宅標準契約書」について
HP:http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/keiyakusho.htm