イタリアやスペインの料理店で、生ハムの原木(カットされていない脚一本のもの)を置いている店が増えてきたが、あれを自宅に飾って「食べられるインテリア」として活用することはできないだろうか。
インテリアとして考えた場合の生ハム原木の可能性を伺ったのは、個性的なリノベーションなどを多数手掛けている、ブルースタジオの大島芳彦さんだ。場作り・空間作りのプロの目に、生ハムの原木はどのように映るのだろうか。
「生ハムの原木には、ヨーロッパにおける暖炉のような、なんだか人が集まりたくなる求心性があると思います。これを置くことで、そのスペースに個性が生まれますよね。
また生ハムは何年もの長い熟成期間を経て作られるものなので、そこには凝縮された時間が詰まっています。部屋に置くことで、生ハムが時間という温かみを与えてくれるのではないでしょうか。
少しずつ削って食べていくことで形が変わっていくという点でも、他のインテリアにはない、目に見える形での時間軸が存在するのがおもしろいと思います。」
44か月熟成された8キロの生ハムを前にした大島さんから、『時間』というキーワードが出てきた。どうやら生ハムをインテリアにするという発想は、リノベのプロのアンテナにも引っかかったようだ。
実際に生ハムの原木を住居空間に置いてみた場合の反応を試してみるため、ブルースタジオが企画・設計監理をおこなったシェアハウス『スタイリオウィズ上池台』のお披露目会に、原木を一本まるごと置かせていただいた。
このスタイリオウィズ上池台は、『人と街を食でつなげるシェアハウス』『街のシェアダイニング』をコンセプトにしており、広々としたプロ仕様の大型キッチンは、入居者だけではなく、周辺地域の住民にも開放されている。
“食”をテーマにつくられたこの物件こそ、食べられるインテリアである生ハム原木が、ぴったりとはまるのではないだろうか。
この日おこなわれたお披露目会では、場の雰囲気を盛り上げるという役目をこの生ハムの原木が果たしていたように思う。やはりこの存在感は絶大だ。「え、これ食べていいの!」と驚く人、写真を何枚も撮る人、ワインの試飲コーナーと往復する人、などなど。
切りたての生ハムを好きなだけ食べる機会、そして自分でカットして食べられる機会ということで、知らない人同士の会話が生まれ、そこには確かにコミュニケーションが生まれていた。
さて生ハムの原木の保管方法についてだが、今回購入した株式会社グルメミートワールドの田村幸雄さんによると、冷蔵庫に入れるよりも(入ればの話だが)常温保存のほうがよく、直射日光の当たらない、適度に空気が動いているような場所が理想とのこと。すぐに動かせる大きさなので、保管する場所と食べる場所を分けて考えても問題はない。
グルメミートワールドでは、一般家庭用として生ハム原木にナイフや台座、おいしく食べるための手引き書など必要なものを一式そろえた「生ハム生活セット」の販売もおこなっており、個人でも生ハムの原木を買う時代が来ているのかもしれない。
お店で食べると少量でも値段が高いこと、常温で数カ月は保存ができること、そのまま食べても料理に使ってもおいしいことなどが、人気を呼んでいる理由だろうか。最近では一人暮らしの方が購入する例も多く、どの家でも生ハム原木を購入すると来客の数が一気に増えるそうだ。
この日以降、スタイリオウィズ上池台に置かれた生ハム原木を、食に関心の高い入居者や近隣住人が、どのように食べ、そしてそこにどのような会話が生まれてくるのだろうか。
生ハムだけに、『招き猫』ならぬ『招き豚』としての活躍を期待したい。