「三行広告はもう一つの社会面である」──ノンフィクション作家・佐野眞一氏はそう語る。新聞には数多の広告が掲載されているが、そのなかで最も“日陰”の存在といえるのが「三行広告」だろう。しかし、その短い文章のなかには本音を剥き出しにしたメッセージが詰め込まれている。伝説的な広告や市井の人たちが紙上で繰り広げたドラマを振り返りながら、その奥深き世界を佐野氏が紐解く──。
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三行広告の範疇の一つに死亡広告、いわゆる「黒枠広告」がある。1982年12月1日の読売新聞にこんな死亡広告が出た。
〈弊社 取締役三浦一美儀 十一月三十日午前一時五十分永眠いたしました 昨年十一月十八日 旅行中の米国ロスアンジェルス市にて米国人二名による強盗事件に遭遇し 頭部を狙撃されたまま一度として意識の戻ることなく 二年三カ月の娘の成長を見ることもできず逝去致しました その悔しさは はかりしれないものと痛恨する次第であります喪主 三浦和義〉
この死亡広告は、数年後、日本中のマスコミを過熱報道させた“疑惑の銃弾・ロス疑惑”の発端と見ることもできるし、巧妙なアリバイ工作だったと見ることもできる。
三行広告は、時に犯罪に利用されることもある。1984年9月17日、大阪発行の夕刊紙「新大阪」にこんな三行広告が載った。
〈至急! 小型トラック運転手 月収18万以上 年35歳迄 交通費支給・昇給年2回 神戸市灘区新在家南町××××× 灘誉酒造(株)人事課〉
この文面には、実はグリコ・森永事件に関わる重大な情報が隠されていた。グリコ・森永事件とは、阪神地方の食品会社を標的とした一連の企業脅迫事件で、世間を恐怖のどん底に叩き込んだ。犯人とされた「かい人21面相」は流行語にもなった。
この三行広告は犯人が取引に応じる合図として、森永製菓に関連会社名で夕刊紙に求人広告を載せるようひそかに要求したものの答えだった。
※週刊ポスト2015年11月13日号